スパイクとサボテン

写真 ニュージーランド ニート 恋愛の文章ブログです。

30代Vol53・・・・・旅立ち

2006-06-28 19:48:52 | Weblog
出発の日になった。教会の人の配慮で僕だけが彼女を見送ることになった。僕は梅田の高速バス乗り場までバイクで送った。弱くなるから基本的に連絡はしない。各県を出るときだけ連絡する。どうしようもなくなったら連絡する。無事帰ったら高野山まで会いに来て。そこでお別れしましょう。ということになった。僕は大阪で何かあっても、すぐに飛んでいけないので困ったことがあったら電話するようにと、徳島支店長の携帯番号を渡した。彼女は堅い決心を胸にバスに乗った。
 彼女はこの旅で何を見つけに行くつもりだろう。それに比べ空っぽの僕。今は自分のことを考えるのはよそう。彼女の幸せだけみつめよう。

彼女のお遍路の予定は45日間。彼女いなくなったことで、瞳さんと自由に連絡が取れる。嬉しかったが、少し罪悪感もあった。瞳さんに彼女のことを報告するために出てきてらった。一通りのことを話して瞳さんも喜んでいた。
「彼女がうまくいくように私も神社にお参りするわ」
「瞳さんが?」
「彼女が無事、旅を終えて帰ってくるように」
「ありがとう」
「一つ提案。私たちも、彼女が帰ってくるまで会うのは禁止」
「うん。そうしよう」
僕は45日間も瞳さんと会えなくなるのは辛かったが、瞳さんの思いやりに感謝した。
 45日間も時間をもてあそぶので、僕は何かしようと考えた。考えたが出てこない。
よく考えたら、もう長い間彼女の心配をするのが生活の大半になってしまっていた。
その対象がもう心配する必要が無くなってきている。虚空感を味わいながら、瞳さんのことばかり考える日々が、続く。
 会わないことになったので、メール、電話が多くなる。瞳さんは暇な僕の相手ばかりしていられない。僕はNZの時のように、いつでもコンタクトがとれる状況に無いことを実感した。そして寂しくなった。
 瞳さんに送るメールは「寂しい」「会いたい」「声が聞きたい」そんなメールばかりになった。瞳さんは寂しい僕の気持ちを察して、子供の保育園の送り迎え、仕事の空き時間、行き帰り。一日の終わり。頻繁に連絡をしてくれた。
 僕の寂しい気持ちを、瞳さんが埋めるという作業が瞳さんの義務になっていった。足手まといになりたくなかったので、やせ我慢して、「暇な時だけ連絡下さい」とメールした。

30代Vol52・・・・・お遍路

2006-06-28 09:14:48 | Weblog
 彼女はお遍路の準備をはじめた。僕のアパートにきてはネットで色々調べて帰る。凄く素直になった。みているだけで僕も元気が出るようになった。もうすぐ嫁に行く妹のような気がした。お遍路をやり遂げて幸せになれるのならそれ以上のことはない。「がんばれ!!もうすぐ!!」僕は心の中でつぶやいた。
 もう憎しみや苛立ち、不快な感情など微塵もなかった。真っ直ぐに歩き出した彼女の後ろ姿を見ているだけ。倒れそうになった時だけ支えれば良い。そう思い見守った。僕もネットでお遍路を調べ、あれこれ口をはさんだ。女一人遍路は危ないという。心配になったが、もしそれで傷つくことがあっても僕が支えればよい。牧師さんだっている。万が一を考えて僕たちがつとめていた会社の、徳島支店長に電話を入れておいた。支店長は僕の元上司、快くサポート役を引き受けてくれた。寝袋で安くあげると言う彼女に、心配した両親が、宿坊、旅館代は持つと応援してくれた。彼女には追い風が吹いた。後は出発するだけ。

30代Vol51・・・・・ふたつの変化

2006-06-28 02:10:29 | Weblog
彼女は相変わらず教会に通っている。毎日聖書を読み、お祈りをする。図書館で聖書以外のキリスト教の本も借りてくる。僕のほうは逆にどんどんテンションが下がってくる。もう余り必要とされていない。何か打ち込めるものでも探せばと励まされる。かといって解放してくれるわけでもなかった。はやく自由になって瞳さんと気兼ねなく会えるようになりたい。
 彼女は急に四国にお遍路さんに行きたいと言い出した。クリスチャンになったはずなのにそんなことが許されるのかと疑問に思った。教会でうまくいってないのかと勘ぐった。
教会でうまくいかなかったらまずい、元の木阿弥。事情が知りたくなった。
牧師さんに電話をしようと思ったが失礼な気がして、直接会いにいった。
「よく来てくれました。どうぞ」
といって、自宅の台所にあげてくれた。台所で牧師婦人がコーヒーを入れてくれた。
「どうしましたか?何でも話して下さい」
「お遍路に行きたいと言っているのですがどうなっているのでしょう?」
「言っていましたね。賛成しましたよ」
「教会をやめると言うことですか?」
牧師さんは笑って答えた。
「心配ないですよ。あの子はやっと自分を取り戻したんです。自分で何か試したいのです。何かをやり遂げたいのです」
「空海でしょ?真言宗でしょ?キリスト教じゃないですよね?」
「宗教は本人が幸せになるためにあるのです。イエス様が、空海さんにお願いしてくれますよ。友人ですから」
半ば冗談交じりに牧師さんは答えた。
最後に
「あなたにまだ少し余裕があるのなら、見守ってあげて下さい。彼女が一人で立って一人で歩くところを見届けてあげて下さい。もう大丈夫と思います」
最後に僕の手を握り。あなたも幸せになりますよ。必ず。諦めたらダメです。
「叩けよ、さらば開かれん。求めよ、さらば与えられん。いつか困ったことがあったらご自身でお調べになって下さい。あなたにどんな災いがふりかかろうと最後にここがあることだけは忘れないで下さい」

瞳さんに会って話をした。
「そろそろ自分のことも考えなさいってことよ」
「自分のことって?」
「将来とか、仕事とか。牧師さんにはあなたが見えてるの」
「瞳さんも見えてるの」
「どうかな? 半分見えて半分盲目」
「・・・」
「あなたを愛しているってこと」
「今度バイクで中央突堤に行かない?」
「忙しいから行けない」
何か瞳さんが変わった気がした。
瞳さんしか支えのない自分を感じた。微妙な言葉のニュアンスに敏感になっている自分に気がついた。

30代VOL50・・・・診療内科・教会

2006-06-26 15:11:06 | Weblog
僕はネットで近所の心療内科を探してプリントアウトしておいた。
見たのか見ていないのか知らないが、「診療内科に連れていって」彼女からそういった。
僕はやっと解決の道を歩き始めた気がした。もうこの頃になると憎しみは消え、同情に近い感情になっていった。
彼女はうつ状態と診断され、安定剤、抗うつ剤、眠剤を処方された。初めて眠剤を飲んだ次の日の朝、彼女は何年かぶりに気持ちよく寝られたらしい。ちょっと表情に明るさが戻ってきた。一週間ぐらい経つと抗うつ剤も効いてきたのか元気になってきた。
一月ぐらいでもう飲むのも忘れるぐらい回復し、以前より落ち着いた。
「仕事にいきたい」というので一緒にハローワークに仕事を探しにいった。
この頃になると友情も芽生え、仲良くなった。愛情にすり変わらないよう受け答えに気をつけながら、徐々に彼女のマンションの方に拠点を移した。彼女のマンションの近くの心療内科を探し、彼女は何軒か受診した。彼女が信頼できる先生が見つかったので、僕の近所の心療内科から、そっちに変わった。彼女からのメールも電話もドキッとしなくなった。彼女の家には週3日ぐらいの滞在で済むようになった。この頃から僕は罪悪感と自己嫌悪に苛まれるようになった。僕も心療内科に行こうかと思った。
ある日、ポストに日曜学校のチラシが入っていた。それをみてハッとした眼をし「行ってみようかな」といった。僕は耳を疑った。彼女はあっさり説明を聞きに行った。キリスト教のプロテスタントの教会で手作りのチラシ。チラシからはアットホームな感じがした。説明を聞きに行った彼女は、日曜以外にも平日の集会などに参加するようになった。
なにか取り憑かれたように教会に通う彼女をみて、騙されてないか心配になった。僕は無宗教。何が良い宗教で悪い宗教なのか判らない。もし悪徳商法の手先にでもされていたらと思うと怖くなった。彼女がどれだけ依存心が強いか僕が一番わかっている。入り込んだら抜け出すのは容易じゃない。
平日の昼間にこっそりとその教会を訪ねた。私服の牧師さんが、おばあさんを車に乗せて出て行くところだった。僕に気がついた牧師さんは
「どこかお探しですか?」と親切に声をかけてくれた。
「別に何もありません」僕の詰まった返事に牧師さんは何か気がついた。
「~~さんの彼ですか?」僕はドキッとした。
「はい?どうして知っているのですか?」
「写真を見せて貰ったことがあります、よくお話はきいていますよ。中で話しませんか?」
「はい」ぼくは無意識に返事をしていた。
車にのせたおばあさんは、牧師婦人が送っていくことになり僕は中に。
牧師さんはフランクな人だった。
「何か飲みますか?コーヒー、紅茶、ビールはまだ早いですか?」
冗談を交えて話す。地域の世間話を10分程して、いきなり真顔で
「心配ですか?」
「はいとても心配です」
「彼女を愛していますか?」
少しためらって。「愛していません」
「じゃあ早く手を引きなさい」
「どうすれば良いですか?」
「私のところに彼女がきているあいだに、機会をうかがってそっと去りなさい」
「・・・」
「あなたが潰れてしまいますよ。二人のことはだいたい聞いています。彼女は大丈夫です。仕事もこちらで探しています。ご両親とも連絡をとっています。むしろ心配なのはあなたのほうです」
牧師さんは宗教的な教えは何も言わなかった。勧誘もしなかった。若い女性で突然教会に来る人は、恋愛の悩みが多いこと。今まで何百人の恋愛トラブルを見てきていることをサラッと説明してくれた。
「また聞きたい事や話したいことがあれば、いつでも来てください。いつでも構いません。夜中でも連絡を下さい」
と言って携帯の番号を教えてくれた。ただ、まだ彼女も不安定な状態だから、ここに来る時は鉢合わせしないように前もって連絡をするように言われた。
彼女は救われた気がした。あの牧師さんは真剣に考えてくれている。そう感じた。
牧師さんの「むしろ心配なのはあなたのほうです」が引っかかって帰りの電車の中よく考えた。瞳さんからメールが来ていたので「会いたい」と連絡した。瞳さんとミナミのスターバックスで会う。瞳さんは会うなり
「どうしたの?元気ないね?大丈夫?」
「そんなに元気ない?」
「うん無いよ。何があったの?話して!!なんでも聞くから」
「別にないよ。普通だよ」
瞳さんは僕の手を取って握ってくれた。最近の近況報告と、今日の牧師さんの話しをした。
「牧師さんが言っている意味はわかる気がする」
「最近食欲は?」
「無いよ。瞳さんの話しを聞かせてよ。」
瞳さんは仕事、子供の事、絵の学校、全てうまく動き出したこと、その詳細にわたって話してくれた。自分のこれからの見本にしようと思う反面、遠くの人に感じた。
書きかけの絵を見せてくれた。「善き羊飼いの教会」の前に僕と瞳さん。
懐かしかった。

30代Vol49・・・堂々巡り

2006-06-26 11:41:53 | Weblog
朝食を作る音で目が覚めた。彼女のそんなところは良いところ。歳に似合わず和食の朝食を作る。そのついでにお昼のお弁当も作る。今日もお弁当箱が用意されている。いつも何にも感じなかったが、昼飯も一緒と思うと、弁当箱がショッキングの塊に思えた。
「今後のこと、ちゃんとはなそうか」
「そうね」
「場所をかえて、公園でも行って」
「うん準備するね」
彼女は公園に昼御飯を食べに行くつもりなのか嬉しそう。
話しをしに行くということを、念をおしておいた。
公園で昼からビールを飲んではなす。
僕は、恋愛関係は、一方が終わったらもう成り立たない。僕はもう恋人と思っていない。妹としか見えない。寂しさで僕から離れられないだけ。愛情と寂しさを取り違えている。愛していたら僕にこんな事はできない。自分の目標を持って生きていかないと。君はルックスは良いしもっと心を開いたらいい人に出会える。そんな様なことを30分程話した。ありきたりな無責任な言葉しか話せなかった。
彼女は納得しない。今度は彼女が、私も変わるからチャンスが欲しい。お互いもうちょっと頑張れば、理解しあえる。私ほど貴方を愛している人はいない。そんな様なことを話した。
堂々巡り。いつまでも同じだろう。今日は彼女に家に帰って貰うのを納得してもらうだけで精一杯だった。
僕は彼女が帰ってから、瞳さんに無理をいって出てきてもらった。彼女の状況を話すと。
「ちゃんとしないと大変なことになるかもね」
「僕もそう思う」
「時間をかけてね。焦ったらお互いによい結果はでないよ」
その間も携帯メールが何回もくる。
瞳さんも絵の学校に通いはじめた。お互い時間は割けない。僕は当面彼女のことに専念し瞳さんは絵に打ち込むことになった。
僕のアパートに帰った。彼女がベッドで寝ていた。

 そのまま一週間ぐらい彼女は、荒れ続けた。出て行こうとすると荒れる。僕も所在なげに家にいるだけ。自宅に軟禁状態というおかしな状況が続いた。その間の僕たちの会話は、
あなたが寂しくさせるからこうなった。僕がそうなったのは君のせい。私がそうしたのは、あなたがそうしたから。君がそうしたから僕はこうした。最初に二人の関係にヒビを入れた責任探し。お互い認めるわけが無い。最後は「僕が全部悪いのか?」「私が全部わるいの?」
の堂々巡り。僕まで彼女と同じ表現方法を使うようになっていった。

物を投げて壊したり。噛みついたりすることをしても、もう僕の心はこっちに向かないと悟った彼女は失意のどん底へ。最後に暴れた時は部屋中の物をすべてなぎ倒し、割れる物は割り、引きちぎり、滅茶苦茶にした。すべての物は床の上に落ちた。とめても無駄だった。彼女が自身を滅茶苦茶にしなかったことは幸いと思った。この後、彼女は号泣した。2時間ほど続いた。痛々しかった。泣きやみ、小さな声で今まで話してなかった子供の時からの出来事、家族との関係、誰にも言えなかった辛かった日々を朝まで話した。
「ホントはこんなことしたくないの。でもやめれない。どうしていいかわからないの」

荒れることをやめた彼女は、寝込む日が多くなっていた。落ち込んで小さな声でしゃべる彼女は痛々しかった。御飯も作らない、掃除もしない、シャワーも浴びない。彼女のことを今まで真剣に考えた人はいるのだろうか? 両親の愛情はどんな形で表現されていたのか? どんな形で寂しさを癒していたのか? 彼女のことを考えると切なくなった。
彼女はもう別れるから、独りで大丈夫になる迄はそばにいてと懇願した。僕はずっとは無理だけどサポートはすると約束したが、僕自身、もうよく眠れない。笑顔も出ない。何も感じなくなっていた。瞳さんに連絡をとる元気もなくなっていた。

30代Vol48・・・・・別れ?

2006-06-26 02:40:09 | Weblog
昼前に目が覚め、横を見ると彼女が見ていた。ちょっと恐怖を覚えた。
本当に昨日だけで終わったのか疑問だった。僕はコーヒーと煙草を持ってベランダへ。
「これ飲んだら帰る」
「わかった」
僕はコーヒーを飲み干し帰ろうとした。彼女は玄関まで来て、
「たまには会おうね」
「もうちょっと時間が経ったらね」
「電話していい?」
「もうちょっと時間が経ったらね」
「メールはダメ?」
「良いよ。用事があるときなら」
「わかった」
「じゃあ」
意外とあっさりと出してくれた。何故か晴れ晴れした気持ちにもなれなかった。
自分の家に帰った。
彼女から電話。とった
「今度そっちに遊びに行っていい? 最後に、一度だけ。お願い」
「明日、荷物取りにおいでよ。ちょっとあるから.それで、綺麗さっぱりしような。お互いに」
「うんわかった」
電話を切って30分でメールがきた
「さっきはありがとう。またあの部屋にいけるのね。何か買って行くものない?」
何かトンチンカンなメールに返事を出さなかった。ちょっとおかしくなってるなと感じた。
放っておいたらまたメールがきた
「返事を下さい」
10分後に
「どうして返事をくれないんですか?」
「返事を下さい。無視しないで下さい」
「自分が別れたくなったら無視ですか?」
もう電源を切った。明日もなしにしよう。もう寝てしまおう。
家の固定電話が鳴る。何回も留守電になっては切れる。
ようやくおさまった。
家の中がピンッと張りつめている。ベッドもソファもテレビもピンっとしている。
絨毯は息を殺している。目覚まし時計だけが音を出すのを許された存在。
家中が電話機を凝視している。2時間経ってかかって来ない。家中も緊張の糸がほぐれた。
携帯の電源を入れようかと思ったがやめた。
ガチャッと音がして、ドアが開いた。コンビニの袋を下げた彼女が立っていた。
その手があったか。鍵は渡したままだった。もう観念した。
彼女はメール、電話の事は一切触れずに冷蔵庫にビールを入れる。
「冷凍庫に入れとこうか?」
「・・・・・」
「どうしたの機嫌悪いの?・・・」
「悪い。来るの明日だろ」
「電話に出ないあなたが悪いのよ。飲もうよ」
「要らない。僕はどこかで泊まるから、ここにいれば良いよ」
彼女の形相が変わった。もっていたビールの缶を開ける前に壁に投げつけた。
小さな穴が開いたビールの缶は、シューっと泡を吹き出している。
もう黙った。彼女も黙ってテレビをつけて見ている。
NZから帰ってきて僕も変わったが、彼女もちゃんと変わっていた。
彼女はベッドで寝た。僕はソファで。
良く考えよう。打開策はあるはずだ。逃げまどっていてはダメだ。僕には責任がある。
どの道、彼女なりにやっていける様に道をつけなければ。時間はかかってもしょうが無い。
そんな事を考えながら眠りについた。

30代Vol47・・・・・情況

2006-06-25 22:25:29 | Weblog
彼女の様子が気になる。電話をしようか躊躇い、時間が過ぎて行く。
もう正午という頃になって電話がかかってきた。知らない番号。
取らないで放っておいた。何度も鳴るので取った。
「あっ出た」
彼女の声だった。番号が変わっている。
「帰ってきたのね?今どこ?今から家に来て」
「今すぐは行けない。家ってどっち?実家?マンション?」
「マンション」
元同僚のからのメールだと実家のはず。情況が読めない。
彼女の声色は勢いがある。決着をつける気持ちは失せた。まずは情況判断。彼女の家に行こう。
「今晩行くよ」
「話したいことが沢山あるの」
「僕もあるよ」
「何?なんの話し?ねぇ何よ」
「行ってから話す」
「今言って、お願い」
「行ってから話す」
もう行っても話せないことは解った。

夕方になり彼女のマンションに行く。
雑然としている。きれい好きの彼女の部屋とは思えない。
新聞は読まないまま積み重ねられ、洗い物も流しの中に置いたまま。
お気に入りだった、岩塩でできた置きスタンドも埃を被ったまま。
「どうして黙って行ったの?」
ベッドの上にうつ伏せになり、顔だけこっちを向けて睨みつける。
「言ったらいけなくなる」
「そんなこと無いよ。何でも自分で決めて、自分勝手すぎる。私がどんな気分だったか解る?今私が何をしているのかわかるの?」
もう交戦状態だ。僕はNZに行って変わった。この子は変わっていない。あたりまえの事に気がついた。元通りのケンカをふっかけてくる。僕はもううんざり。以前の様に応戦しなくなった僕に、彼女はどんどんエスカレートする。
「会社を辞めたの」
「どうして?」
元同僚からは聞いていないふりをする。
「何もかも嫌になったの。あなたのいない会社なんて行っても意味無い」
「そんなもんじゃないだろう。関係ないよ」
「あなたも辞めたじゃない。人にとやかくいう権利はないわ」
僕は何も言っていない。
「あなたね?わかってるの?私がどれ程あなたを愛してるか?あなたのいない間に、どれだけ辛い思いをしたかわかっているの!!」
どんどん勢いはます。ベッドから上半身を起こす。僕は冷蔵庫からコーヒーを取り出し、グラスにロックアイスを入れ注ぎ、タバコをもってベランダへ。コーヒーも、ロックアイスも、ベランダのコースターと灰皿も。いつ僕が来てもいいようにしてある。
ベランダに逃げた僕の座っていたソファに彼女が座り直す。瞳さんから着信。でられない。
「そんなに詰め寄られたら話すことないよ。これ飲んだら帰る」
「逃げるの?いいわよ。私もついて行く」
「穏やかに話してくれない? 僕も素直にきけない」
「わかった、穏やかにはなす」
ちょっと落ち着いた。
少し間があってベランダに彼女も来た。僕のタバコを取って煙草を吸う。今まで彼女は煙草を吸っていなかった。僕にあてつける様に吸っている。
「これからどうするつもり?別れるつもり?」
「うん。そう」
「そんなに簡単に別れられるわけないじゃない? 本気で思っているの もう私のこと愛してないのね?」
「ないよ」
「わかってるそんなこと。わかってるから一人にしないで」
「僕は愛してない人と一緒にいないといけないのか?」
「やっぱり愛してないのね。あなたには責任があるわ」
「私をこんなに傷つけた」
「傷つけたんなら謝る。ごめん」
「不安で不安でしょうがないの、独りでいると眠れないの」
出来の悪いメロドラマをみているようだった。もう答えても無駄。一度は修羅場に持っていかないと、おさまらないだろう。早く帰りたかった。もう顔も背けてベランダから外を見ている。少し間があって、「ガン」と大きな音がした。彼女はテーブルの上の置き時計を入り口のドアに向かって力いっぱい投げつけた。突っ伏して泣き出した。今日はもう帰れないなと思った。僕はコンビニに煙草とビールを買いに行こうとした。やっとの思いで外に出してくれた。瞳さんに電話する。
「どうだった?」
「今コンビニに、行くといって出てきた。時間かかりそう。まだ彼女の家。きょうは帰れそうにない」
「そう。ちょっとでも傷つかないようにしてあげてね」
「うん。わかった」
「じゃ、後でメールしとくね。これからもメールの方が良いみたいね」
「電話できる時はかけるよ」
「うん。愛してる」
「僕も。もう切るよ」
「うん。おやすみなさい」
ビールと煙草を買って帰った。
彼女はもう自分の好きなワインを飲んでいた。僕もワインを先に飲む。
「こうやって飲むの久しぶりね」
「うん」
「ちゃんともう一度やり直さない」
「できないよ」
「わかった。じゃあ今日最後に泊まっていって。」
「うんいいよ」
「今日だけ優しくしてね」
僕は今日だけという言葉にやっと反応し、頑なになっていた気持ちが緩んだ。
ベッドに入って瞳さんのことを除いてNZでの出来事を話した。彼女はこれからの自分はどうしようと相談してきた。頼られると困るので相づちだけ打っておいた。
朝方になってようやく眠りについた。

30代Vol46・・・・・最後のNZ・再会の大阪

2006-06-25 13:39:06 | Weblog
オークランドに着き、空港内の航空会社に行き、帰国予定日変更。「一番早いやつ」
明日の昼頃の便が空いていた。それに決め、オークランド市街へ。YHAに予約を入れる。
クイーンズ・ストリートのネットカフェへ行く。メールチェック。早川君からメールが来ていた。
「お元気ですか?今どこにいますか?困ったことはありませんか?僕はインバーカーギルにいます。近況報告お願いします」
「いろんな事がありすぎて一度で書き切れません。明日日本に帰るので、帰ったら詳細メールします。」
早川君にはもう一度会いたかった。彼女に帰国を知らせるメールを書こうかと思ったが、躊躇いやめた。ネットカフェを出てスターバックスへ。もう帰る気持ちで一杯。観光などする気も起こらなかった。お土産を買っていなかったので、大橋巨泉さんが経営する土産もの屋さんに行った。面倒なので、そこでまとめ買いしてエアーで送ってもらった。
落ち着かない。早く彼女と決着をつけたい自分と、瞳さんと会いたい自分。自分勝手な話。
ビールでごまかす。
もう別に今はNZとは思えない。ただの街。どこに旅をしても、どんな旅をしても。大切なのは誰と出会い、誰と過ごし、誰を想う。
早くYHAに帰ってまたビールを飲む。地下の喫煙所で深夜までテレビをみて、ビールを飲む。少し苛立っていた。そのまま地下室で寝た。
おきたのは午前10時、もう面倒なのでタクシーで空港へ。煙草を何本か吸って空港内に入る。正午にNZを発った。飛行機が滑走路に入り、全速力で加速し大空にフワリと上がり猛烈に上昇し始める。今の僕の気持ちも加速される。
普通なら、NZへの想いでセンチメンタルになるところだろうが、僕は焦っていた。
早く幸せなあの時間に戻りたい。それしか考えて無かった。
 関西空港に着いた。大阪湾が見えた。これからまたここで続く生活に力んだ。
とりあえず電車で自宅へ。久しぶりに帰る自宅。郵便ポストは空っぽ。エレベーターで自分の部屋に。ドアを開けた瞬間。疲労感が襲ってきた。ソファの倒れ込みそのまま30分程横になる。目が開いた時にみた光景は、キレイに片づいている僕の部屋。違和感を感じた。来てたんだと感じた。気が重くなった。瞳さんに電話する。瞳さんの気持ちが変わっていないように願いながら電話した。
「帰ってきたの?」
「うん」
電話の向こうで笑ってる。寂しがり屋の僕を見抜いていた。
「帰ってくると思った。おかえり」
「うん」
日本で話すのは初めて。戸惑った。
「今日会えない?もう仕事終わったから」
「いいよ。どこまで行こう」
「ミナミに行こうか?」
「うん」
場所と時間を約束して待ち合わせ場所にいった。
日本でみる瞳さんは、普通のGパンにシャツ。ミナミの人混みに紛れてなかなか見つからない。やっと見つけた。
「こっちこっち」
向こうから手を振っている。
照れながら歩いて行く。瞳さんも走ってきて抱きついた。力一杯僕を抱きしめ
「会いたかった」
「僕も」
もうNZのモード。ちょっと飲みに行こうと軽く飲んだがそれだけでは済まない。
お互いを求めあった。
夜中になった。瞳さんの帰る時間はとっくに過ぎている。瞳さんは申し訳なさそうに自宅に電話した。
瞳さんは電話を切り僕に
「やっちゃった。怒られた」
ちょっと笑っていった。
「彼女に連絡した?」
「してない」
「焦らなくていいよ。落ち着いて対処してね。私は気にしないでね」
「うん、ありがとう」
「明日仕事が終わったら電話する」
「うん」
僕たちは別れて、自宅に帰った。
なにも変わっていない瞳さんに安心した。
彼女に明日電話しようと決めた。

30代Vol45・・・・・ 余韻

2006-06-25 00:08:05 | Weblog
コントラストの高い瞳さんが去ったことで、僕の感覚は一変した。大聖堂に独りポツンと立ち、モノクロームの感覚を味わった。独りになった僕は何をしていいのわからなくなり、その日一日ぼうっと過ごした。大聖堂前の観光写真屋さんと他愛も無いことを話し、コーヒーを飲んでいた。写真の現像ができるところを教えてもらい、現像に出した。彼女のメールが気になったが、明日見ることにした。エイボン川のほとりまで歩いて行き、欄干に腰掛け、カメラを片手に何時間も過ごした。
宿のも確保していない。YHAにいった。満員で断られる。
 その辺のバッパーに入る。荷物を置きネットカフェへ。ドキドキしながらメールチェックをする。彼女からは来ていない。元同僚からは来ていた。
「彼女、会社を辞めたよ。事情はわからないが、実家に帰ったみたいだよ」
事態は、良い方向か悪い方向に動いていた。どっちかわからない。瞳さんのこと、これからのこと、ハッキリさせたいと思った。僕はズルい人間。または弱い人間。
日本に帰ってしないといけないことがハッキリ見えてきた。帰りたくなった。
僕のチケットはオークランド・イン オークランド・アウト。クライストチャーチからは飛行機一本。次の日、朝早くの便でオークランドへ発った。

30代Vol44・・・・・空港

2006-06-24 22:05:35 | Weblog
バスで空港へ、僕たちはもう二度と会えないかのように錯覚していた。大阪に帰るとまた会える。空港のカフェで瞳さんはうつむいたまま、何も喋らない。僕は瞳さんのバッグから、瞳さんのお気に入りのカメラをそっと取り出し、ストラップをつけた。「可愛いありがとう、いつ買ったの?」ひとみさんはそう言うと、半分笑いながらポロポロ泣き出した。「ほんとに会えるのね」「ほんとに一緒にいてくれるのね」「私でいいのね」・・・ 瞳さんは必死に関係を確認しようとする。「うんうん」僕はそればっかりで答えた。瞳さんのセリフと、僕の心の中のつぶやきは同じものだった。
 半ば諦めていた、恋愛。
こんなところで、こんな期間で、こんな人と。始まりはいつも偶然。何回もこんな事は繰り返して来たはずなのに、今回だけはいつもと違う気がした。赤い糸で結ばれていると言うようなありふれた感覚でなく、ある種、恋愛を超えている感覚だった。人生の答えがみつかるのではないかと思った。
 瞳さんを乗せた飛行機は、クライストチャーチ空港のドメスティックから飛びたった。
「この人と生きていこう」漠然とした決心が芽生えた。

30代Vol43・・・・・最後の夜

2006-06-24 15:44:57 | Weblog
バッパーに帰った僕たちは、シャワーを浴びベッドに行き、裸で抱きあった。
何もせずただ抱き合った。途中で僕は買ったラジオを取り出しスイッチを入れた。
ちょっと古い音楽の特集なのか、スティービー・ワンダー、クラプトン、マライヤ・キャリー、ホイットニー・ヒューストン、キャロル・キング、ジャニス・ジョップリン、エルビス・コステロ、ホリー・コール、アトランティックスター、シンプリー・レッド。色んなアーティストの曲が流れた。今の二人のために流してくれているのかと思った。小さな小さなラジオから流れるナンバーは、どれも普段感じない心の奥深くの場所まで届いた。瞳さんは、Sheが流れると泣き出した。瞳さんはなかなか泣きやまなかった。
「ずっと一緒にいてね」「ずっと一緒にいてね」何回も同じ言葉を繰り返す。
瞳さんは、いつしか泣きやみ、小さな寝息をしていた。僕はずうっと瞳さんの髪を撫で続けた。

30代Vol42・・・・・帰路

2006-06-23 21:28:58 | Weblog
スチュアート島での予定を終え、瞳さんは帰路についた。瞳さんはインバーカーギル→クライストチャーチ→オークランド→ソウル→関西国際空港着の行程。
僕はクライストチャーチまで同行し、後のことは瞳さんと別れてから考えることにした。
帰路に入ったことで、急に寂しさが出てきた。わかっていたこと。大阪に帰って会うといっても、時間的にこんなに一緒に過ごせる時間は無いだろうと思った。瞳さんもそんなことを感じだしている。僕たちももう大人。時間と距離が二人の関係にどんな影響を及ぼすことぐらい容易に察しがついた。
 スチャート島から、船に乗りブラフへ。バスの時間を一本遅らしてブラフのパブに入る。陽気なおばさんは、また来てくれたのと投げキッスを繰り返す。バスの時間が来て、バスに乗る。インバーカーギルで飛行機に乗りクライストチャーチへ。大聖堂前のバッパーに予約をいれる。ツインが空いていた。
 瞳さんは自宅に電話をしにいった。お母さんが子供を病院に連れて行き、薬を貰って治まっているとのことで、二人とも一安心。僕も罪悪感から解放された。
クライストチャーチは2回目なので、お互い気に入ったところは大体わかっている。
もう夕食の頃なので、今日は瞳さんが全部奢ってくれるという。「お姉さんにまかしなさい」
とカードをチラつかせた。早速インド料理の店にいった。そこで飲み食いし、バーに行こうかということになったが、思い出の場所だから今日の最後に行くことになった。
 街を散策し、電器屋で安い小さなラジオを見つけた。瞳さんがいなくなると夜が寂しくなるので買っておいた。中古カメラ屋さんに行き、瞳さんのみつから無いように、瞳さんのカメラ用の、可愛い革製のストラップを買っておいた。店員がしつこく瞳さんのカメラを売ってくれと頼んでいたので、バレずに買うのは簡単だった。スターバックスに入り、二人はちょっと酔いをさました。これからのことを話し合うことになった。
 瞳さんと僕は、子供に影響のない範囲で付き合うことにした。何年かその環境が続き、お互い強固に結ばれている関係が続いていれば、一緒に住もうということにもなった。大阪に帰ったら、瞳さんは絵の学校に通う。その都合で休みは埋まってしまう。学校が無くても、休みは子供との時間を大切にしたいという瞳さんの意向もあって、平日の仕事が終ってから会うということにした。僕は無職なので、職場の近くまで迎えに行ける。少しでも一緒にいる時間を稼ぐことにした。いろいろ話して、大阪に帰ってからのことに期待がもてた。彼女とのことは瞳さんも同じ女性。大阪に帰ったら、まず彼女の事を最優先で考えること。それでうまくいかなかったら、二人の関係はなしにしよう。ムリをしないこと。時間はかかってもいい。と言ってくれた。二人はバーに向い、この前と同じ席に座った。
 もう喋ることはあんまりなかった。お互い、一緒にいれる時間がただただ流れるだけ。
こんなに人を好きになれるのかと、自分が不思議でしょうがなかった。瞳さんは相変わらずバーボンのロックを飲んで酔っぱらっている。もうお互い早く帰ってバッパーで二人きりになりたかった。バーはそこそこにしてバッパーに帰った。

30代Vol41・・・・・トレッキング

2006-06-23 11:33:49 | Weblog
ハーフムーンベイの食料品屋で食料とワイン、コーヒーなどを調達し、水上タクシーでトレッキングルートへ行く。ボートの着いた小さな桟橋から、下をのぞくと自然のペンギンが泳いでいる。
動物園でみるペンギンは立っていることが多いが、水中を魚のようにスイスイと泳ぎまわるペンギンを観たのは初めて。トレッキングルートに入る。スチュアートアイランドは面積の85%が国立公園に指定されている。ラキウラ国立公園といい、NZのトレッキングルートで有名。山道も良く整備されており、無料で泊まれる山小屋も点在している。僕たちは山小屋を目指して歩き始める。途中、やぐら状の展望台もあった。展望台に登りタバコを吸う。
瞳さんがコーヒーを煎れてくれる。展望台のうえからみる海は本当に青く、しかし沖縄のようなロマンティックなブルーではなく、自然の青。宇宙や、地球の青さを感じさせる荘厳さがあった。二人とも何も言葉が出てこなかった。
 山小屋に辿り着いた時にはもう陽が暮れかかっていた。山小屋はベッド、雨水から採った水道、トイレが完備されていた。食料さえ買い出しに行ければ住めると思った。ふと、この島で洞窟の中に住む日本人女性の話を聞いたことを思い出した。新婚旅行でこの島にきて、この島の洞窟でステキな思い出を作った。日本に帰ってすぐ旦那さんが亡くなった。悲観した女性は日本を出て、この島の思い出の洞窟に住み着いた。その洞窟で旦那さんの魂と出会う。ロマンティックな話。僕たちに死別は無いと思ったが、日本に帰るとたちまち現実。このままの関係が続くのか不安になった。瞳さんは、この山中に入るのを少し悩んでいた。子供への連絡が出来ないからだ。クィーンズタウンを出てからは、通信環境は貧弱。国際電話ができるとの表示があるのに、できない電話がかなりあった。
 瞳さんが夕食の支度をはじめる、キッチンは使わずに山小屋の前でBBQにするという。僕は木の枝を探す仕事を命ぜられた。両手一杯に薪を抱えて僕は戻ってきた。瞳さんはその辺の落ち葉で小さな火を起こしていた。半解凍状態のチキンを串刺しにし、パンに挟んで食べた。ステンレス製のマグカップにワインを入れ、飲む。もう陽が沈みキャンプファイヤーの状態になった。山小屋の他の宿泊者は、現地の老夫婦、ティーンエイジャーのカップル、アメリカ人の25歳の女性。このアメリカ人の女性はネバダから来ていて、国立公園の調査に来ていた。皆がそれぞれ飲み物を持ち寄り、火を囲んで話をした。不思議なもので何となく理解できる。現地の老夫婦は仲むつまじい。自分達の出会いから、子供のこと、人生観。色んなことを語ってくれた。ティーンエイジャーのカップルは、周囲からつきあいを反対されており、二人で飛び出してきたと言っていた。アメリカ人の女性は早口でまくし立てるように話し、その話し口調に、現地の人は質問もせずに話しが終わるのを待ちわびていた。
僕たちは、質問できるような英語力はなく何とか理解するのが精一杯。お互い「今のどういう意味?」と解らない部分は互で教えあいなんとかついていった。老夫婦が「夫婦じゃないのか?」と聞くのでノーノーと首をふった。「じゃあ何故二人で此処に来ているんだ?」と訊いてきたので、僕たちの経緯を話した。老夫婦は時折手で遮って質問し、最後は二人のこれからが祝福される様にと、クリスチャン風のお祈りをしてくれた。それにはティーンエイジャーやアメリカ人女性も手をあわせて同じように祈ってくれた。
この荘厳な大自然の中、小さなキャンプファイヤーの炎と神聖な祈りは二人の精神の奥深いところまで届き、真剣にお互いを考える良いきっかけになった。自分たちを取り巻く全てのこと、全ての人に感謝した。
 それぞれがベッドに入った。僕たちは最後に火の始末をし、ベッドに入った。お互いシュラフの中に入っているので、抱き合えない。頭と頭を寄せあい、擦りあわせる様な姿勢で、夢の中に入っていった。
それぞれが出会い、二人でひとつの存在になり、二人で人生を歩む。歩きなじめたばかりの者もいれば、もう今生でのゴールが近い人もいる。まだ一人で歩いている人もいる。そしてそれぞれが何かの理由で歩き、この山小屋で一瞬の一体感を経験する。互いの人生に影響をうけ、国を超えて理解しあう。始まったばかりの恋に墜ちているせいもあるが、もう僕は大阪にいるときの虚脱感は味わうことはできなかった。思い出そうと思っても無理だった。何かNZに導かれてきたような気がした。言いようのない神聖さを感じた。
 朝になり、昨日キャンプファイヤーで打ち解けあったからか、皆仲良くなっていた。
早川君のことを思い出したり、マフィアも誘えば良かったと思ったり。皆、示し合わせたかのように、ほぼ同時に山小屋をでた。行き先はバラバラ。右に行く者もあれば左に行く者。同じルートを歩くがペースが違う人。皆にありがとうの気持ちで一杯だった。瞳さんにも感謝の気持ちがうまれた。
 本当はこのルートは2泊3日。僕たちは1泊2日なので、この道を引き返した。水上タクシーは言っておいた時間にちゃんと来てくれていた。ペンギンをみてハーフムーンベイに戻った。戦争記念館をみたり、海辺のベンチに腰掛けたり、何気なく時間が過ぎ夕方になった。瞳さんが電話をかけるので一緒に国際電話のできる公衆電話に。話している様子がちょっといつもと違う。瞳さんの子供が頭痛がすると訴えている。瞳さんは酷く心配する。こんなに離れていては何もできない。瞳さんはお母さんと色々相談し電話を切った。
 プールバーに寄ってバッパーに帰ろうと言うことになりプールバーに行く。マフィアがビリヤードをしていた。さっきの電話で瞳さんは元気がない。マフィアのテンションにはついていけないだろう。パブに行き先を変えた。またパブで飲む。
 僕は瞳さんの子供の頭痛の原因は僕かと責任を感じた。何処まではなれていても母と子目に見えない糸で深く繋がっている。瞳さんの意識を100%独り占めしている瞳さんの子供は、パーセントが少し下がったことを敏感に感じ取ったのでは無いかと思った。母にあっている人なのか、あっていない人なのかも感じ取り、サインを送っているのではないか?そんな感じがした。そう僕は「物足りない奴」。自己評価。
母と子の絆に僕は母を思い出した。今度の電話は僕も母にしてみよう。

30代Vol40・・・・・ 二人乗り

2006-06-23 04:21:26 | Weblog
次の日はレンタルの原付バイクを借り、島を隅々まで探検した。レンタル屋から見えないところで、瞳さんをのせ、二人のりで廻った。瞳さんは横乗りで、僕の腰に手をまわししっかり掴まっていた。途中からは片手でカメラを持ち、写しながらのっている。楽しい楽しいと大喜びしている。僕は、「普通の幸せ」ってこんなものかと考えていた。別に何かに向かって積極的に活動しているわけでもなく、努力しているわけでもない。瞳さんといることに物理的なメリットがあるわけでもなく、それは瞳さんも同じだろう。ただ二人でバイクに乗っているだけ、ホントにそれだけ。二人で風を感じながら、僕はバイクを持っていることを思い出した。
「大阪に帰ったら、バイクでどっかいこうか」
「バイク持っているの?」
「持ってるよ。」
「二人乗りできるやつ?」
「できるよ」
「うん、じゃあ行こう。どこにいく?」
「和歌山か四国、一泊ぐらいで」
「うれしい!!私、バイク気に入っちゃった」
また元気な二人に戻った。最近大人のモードだったけど、バイクに乗ることで、しかもノーヘル2人乗り。僕自身も無免許の中学生になった気分だった。道路をジグザグに走り、はしゃいでた。瞳さんはカメラを片手に上機嫌だった。
夕方にバイクを返し、港町のパブへ。外のテーブルでビールを飲んだ。
多分この島で唯一のパブなんだろう。満員だった。今日は夕食もここで済まし、夜遅くにバッパーに帰った。バッパーの庭のテーブルから海と夜景が見える。そのテーブルでワインを飲んで話した。瞳さんはと僕は自分の子供の頃の話をした。住んでいた所、学校、大好きな場所。昔話をお互い語った。
 明日からは朝早くにおきて準備をし、買い物をすませ1泊2日でトレッキングにでることにしていたが、すでに午前2時。明日は昼からにしようということになった。それから30分ほど飲み続けた。

30代Vol39・・・・・ブラフ

2006-06-23 00:16:58 | Weblog
次の日の朝、マフィアは忽然と姿を消した。行き先はわかっている。船の出るブラフという町だ。マフィアは必ず瞳さんを待っている。スチュアート島では別々に行動したいと願った。地図では、小さな港町が一つあるだけ。絶望的だ。
 インフォメーションセンターの前からバスにのりブラフへ。スチュアート行きの乗船券を買った。時間はまだある。目の前にあるパブに入って酒を飲む。そこのおばさんはまるで南米の人かと思うぐらい陽気だった。写真を撮れとうるさい。瞳さんは愛想良く写した。
気持ちよく飲んだ二人の目の前を自転車が通った。マフィアだ。気がついていない。良かった。瞳さんはマフィアを見つけると、意外と楽しそうだった。もう船が出る時間。船の乗り場に行く。マフィアがいる。大きなゼスチャーで再会を喜ぶ。三人で船にのった。
スチュアート島に着きハーフムーン・ベイにある小さなプールバーに入り腰を下ろす。
小さな町なので、宿泊施設が確保できるか心配。なんとかなるだろう。マフィアはなぜか自転車で先にいってしまった。ちゃんと気が利くジェントルマンだった。プールバーの店員にバッパーの場所をきく。目の前の坂道を上がると、左側にあると教えてくれた。
僕たちは坂道をゆっくり上がりバッパーへ。僕とおない年ぐらいの独身男性が、一人で経営していた。経営というよりは、ただの自分の家。勝手に好きなようにしてくれと言われた。瞳さんは部屋をきれいにし、今日は料理を作るという。主婦みたいな瞳さんを僕は、手伝いもせず微笑んで見ていた。また坂道を下って町に出て、夕食の材料を買った。プールバーに寄ろうかと思ったが、そこに入るともう帰らないのは言わずともしれていた。我慢してバッパーへ。かわりに買ったビールがやけに重たかった。
 瞳さんはパスタを作った。白身魚のホワイトソース、白ワイン。美味しかった。でもこの料理では瞳さんが料理上手か下手かは、判断出来なかった。ホワイトソースのパックをはさみで切って温めただけだからだ。瞳さんと生活すればこんな感じかとバッパーのキッチンでポカンと考えた。