実は、引き続き伊藤ハムのシアン問題の取材をしている。社内の事情を聞いて見えてきたことは、同社が今回の問題を企業の教訓として活かせていないのではないか、ということだ。東京工場の過失、一部の社員の判断ミスに問題を矮小化しようとしているように見える。背景には同族経営の問題点や、科学技術に裏打ちされたリスク管理体制に移行し切れていない企業体質があると私は思うのだが…。
細かいことを挙げればきりがないし、原稿に仕立てても伊藤ハムという名門企業の「ヘンなところ」をのぞき見するという週刊誌的興味は満たせても、ほかの企業の人たちにとって役には立たない。なので、書かない。気になったことは、同社の関係者に直接話すつもりだ。
ただ一つ、象徴的な事実、ほかの食品企業にとっても意味があるであろう事実を、この場で記しておきたい。
それは、伊藤ハムの調査対策委員会の位置づけである。私には到底、納得の行かないものだった。委員たちは、地下水の浄化処理などを担当していた当事者である社員から、直接事情を聞き取りできなかったのだ。
担当者から事情を聞いたのは社員。社員が事情を聞いてまとめ、それを調査対策委員会に報告して検討する、という形をとった。だからだと思うが、追及が甘い。極めて重要な事実、検査時だけ次亜塩素酸ナトリウムの添加量を減らしていたという事実が、中間報告が出た後で明るみに出て、最終報告書で報告内容が大きく変わっていたりする。中間報告で書いた内容の一部を最終報告書で否定する、というような迷走が、ほかにもあった。
結局、非常に物足りない最終報告書になった。
私は、最終報告書が出た後、委員会で唯一の水の専門家であった伊与亨・北里大学医療衛生学部講師に話を聞いた。伊与先生は一個人として、最初からもっと積極的に伊藤ハムの調査や再現試験に参画すべきだった、と深く悔やんでおられた。
だが、私の見るところ、これはなかなか難しい。企業がこの手の第三者委員会を設置して社内調査をすることなど滅多にない。委員にとって、調査は初めてである。最初から、ここは口出しすべきだ、などと意識して振る舞える人はいない。
やはり、企業の姿勢が、調査結果の質を決めてしまう。
伊与先生は、大学で追加試験を行い学術論文にまとめたいと考え、検討中だという。それが、科学者としての責任のとり方だ、と考えているのだろう。
伊藤ハムは、と言えば、とにかく早く委員会に最終報告書を出させて結着をつけたかったに違いない。幹部の記者会見の内容や広報担当者の対応などの端々に、その気持ちが伺えた。有り体に言えば、調査の科学的な内容などどうでもいい、という感じに見えた。
ふと思いついて、洋菓子メーカー「不二家」の不祥事の後に同社が設置した「信頼回復対策会議」のメンバーに連絡をとってみた。同社では2007年1月、期限切れ原材料の使用などが明るみに出て、第三者の専門家を集めた同会議を設置し、原因究明や再発防止の検討などを行った。委員長が弁護士の郷原信郎さんで、TBSの報道の問題点など指摘したことが印象深い。
その会議の調査はどのようなものだったのか? 委員の一人であった森田満樹さんに尋ねたところ、次のようなメールをいただいた。
……森田 満樹さんのお返事…………………………
不二家では問題を起こした職員の聞き取りはもちろん、問題となった期限切れ牛乳の供給元の乳業メーカー担当者の聞き取りも、私が望めば、自由にできました。食品衛生上の問題は、直接工場に出向いて、担当者や非常勤職員も含めて一人一人呼んで、聞き取りをしました。報告書作成前の2月、3月には、工場に自由に出入りさせてもらい、検査室の記録等も見せてもらいましたので、ずいぶんといろいろなことがわかりました。やはり第三者を通してだとフィルターがかかりますので。
法律家のチームは新聞社に内部告発をした職員が誰だったのか、犯人探しに熱心な委員もいましたが、それについての聞き取りも自由でした(結局犯人は本当にわかりませんでしたが)。前社長も副社長も委員が直接連絡をとって、弁護士事務所に呼び出して、コメントをとっていました。その結果、問題の根っこがどこにあるのかが明らかになりましたが、報告書の内容は不二家にとってはずいぶんとしんどいものだったと思います。
しかし第三者委員会は、そのくらいの権限を持たせてもらえないと、どこに問題があるのかわかりません。
……………………………………………………………
同じように、第三者委員会を設置しても、企業によってこれだけ違う。同族経営だった不二家は結局、山崎製パンの子会社になった。そこまで変わらざるを得なかった。
別に、同族企業がだめだ、などと言うつもりはない。しかし、伊藤ハムは今回、食品企業としてリスク管理がきちんとできて、社員が闊達に意見を出し合い一緒に向上する風通しのよい企業に生まれ変わるよいチャンスを、逸しつつあるのではないか。
細かいことを挙げればきりがないし、原稿に仕立てても伊藤ハムという名門企業の「ヘンなところ」をのぞき見するという週刊誌的興味は満たせても、ほかの企業の人たちにとって役には立たない。なので、書かない。気になったことは、同社の関係者に直接話すつもりだ。
ただ一つ、象徴的な事実、ほかの食品企業にとっても意味があるであろう事実を、この場で記しておきたい。
それは、伊藤ハムの調査対策委員会の位置づけである。私には到底、納得の行かないものだった。委員たちは、地下水の浄化処理などを担当していた当事者である社員から、直接事情を聞き取りできなかったのだ。
担当者から事情を聞いたのは社員。社員が事情を聞いてまとめ、それを調査対策委員会に報告して検討する、という形をとった。だからだと思うが、追及が甘い。極めて重要な事実、検査時だけ次亜塩素酸ナトリウムの添加量を減らしていたという事実が、中間報告が出た後で明るみに出て、最終報告書で報告内容が大きく変わっていたりする。中間報告で書いた内容の一部を最終報告書で否定する、というような迷走が、ほかにもあった。
結局、非常に物足りない最終報告書になった。
私は、最終報告書が出た後、委員会で唯一の水の専門家であった伊与亨・北里大学医療衛生学部講師に話を聞いた。伊与先生は一個人として、最初からもっと積極的に伊藤ハムの調査や再現試験に参画すべきだった、と深く悔やんでおられた。
だが、私の見るところ、これはなかなか難しい。企業がこの手の第三者委員会を設置して社内調査をすることなど滅多にない。委員にとって、調査は初めてである。最初から、ここは口出しすべきだ、などと意識して振る舞える人はいない。
やはり、企業の姿勢が、調査結果の質を決めてしまう。
伊与先生は、大学で追加試験を行い学術論文にまとめたいと考え、検討中だという。それが、科学者としての責任のとり方だ、と考えているのだろう。
伊藤ハムは、と言えば、とにかく早く委員会に最終報告書を出させて結着をつけたかったに違いない。幹部の記者会見の内容や広報担当者の対応などの端々に、その気持ちが伺えた。有り体に言えば、調査の科学的な内容などどうでもいい、という感じに見えた。
ふと思いついて、洋菓子メーカー「不二家」の不祥事の後に同社が設置した「信頼回復対策会議」のメンバーに連絡をとってみた。同社では2007年1月、期限切れ原材料の使用などが明るみに出て、第三者の専門家を集めた同会議を設置し、原因究明や再発防止の検討などを行った。委員長が弁護士の郷原信郎さんで、TBSの報道の問題点など指摘したことが印象深い。
その会議の調査はどのようなものだったのか? 委員の一人であった森田満樹さんに尋ねたところ、次のようなメールをいただいた。
……森田 満樹さんのお返事…………………………
不二家では問題を起こした職員の聞き取りはもちろん、問題となった期限切れ牛乳の供給元の乳業メーカー担当者の聞き取りも、私が望めば、自由にできました。食品衛生上の問題は、直接工場に出向いて、担当者や非常勤職員も含めて一人一人呼んで、聞き取りをしました。報告書作成前の2月、3月には、工場に自由に出入りさせてもらい、検査室の記録等も見せてもらいましたので、ずいぶんといろいろなことがわかりました。やはり第三者を通してだとフィルターがかかりますので。
法律家のチームは新聞社に内部告発をした職員が誰だったのか、犯人探しに熱心な委員もいましたが、それについての聞き取りも自由でした(結局犯人は本当にわかりませんでしたが)。前社長も副社長も委員が直接連絡をとって、弁護士事務所に呼び出して、コメントをとっていました。その結果、問題の根っこがどこにあるのかが明らかになりましたが、報告書の内容は不二家にとってはずいぶんとしんどいものだったと思います。
しかし第三者委員会は、そのくらいの権限を持たせてもらえないと、どこに問題があるのかわかりません。
……………………………………………………………
同じように、第三者委員会を設置しても、企業によってこれだけ違う。同族経営だった不二家は結局、山崎製パンの子会社になった。そこまで変わらざるを得なかった。
別に、同族企業がだめだ、などと言うつもりはない。しかし、伊藤ハムは今回、食品企業としてリスク管理がきちんとできて、社員が闊達に意見を出し合い一緒に向上する風通しのよい企業に生まれ変わるよいチャンスを、逸しつつあるのではないか。
「検査時だけ次亜塩素酸ナトリウムの添加量を減らしていたという事実が、中間報告が出た後で明るみに出て・・・・」
というのは事実なんでしょうか?
社員を通すとフィルターがかかるなら、事実をねじ曲げて責任を押しつけられている可能性もあるように思います。中西さんは別の可能性を指摘していましたが、調査委員会は検査結果の生データーまで見てないようですから、案外可能性としても残るかもしれないかな。
ただし、不二屋の調査委員会が第三者だから正しいというのもおかしなことです。だって、この人選は伊藤ハムも含め誰が行ったのかって考えるとそう思えるでしょう。第三者という適当な信頼感をうまく使うのも企業の業と考えています。
私も、最初から伊藤ハムが、検査時の操作などを隠すつもりだったのではないか、と疑ったのは事実です。新聞社の中にも「意図的な隠蔽が行われたのではないか」と考えてしつこく取材していたところがあります。
が、どうもそうではない、と私は今は考えています。したがって、「検査時だけ次亜塩素酸ナトリウムの添加量を減らしていたという事実が、中間報告が出た後で明るみに出て」という書き方にしました。
これ以上は、私の取材の詳細にかかわることなので、明らかにできません。ご勘弁ください。
不二家の信頼回復対策会議が意味があると考えたのは、第三者だから、ではありません。第三者が、自由に納得のいくまで工場の立ち入りや社員の聞き取りができたし、その内容を十分に納得のゆく形で報告書に書けた、という点が重要です。
期待していない企業のことなんて、わざわざこんなに取材したり書いたりしません。
取材して私自身が気付いたこと、思ったことを直接関係者に伝える、というのも、これから社員の皆さんに一念発起して良い会社にしてもらいたいし、良い商品を出していってほしいからです。
確かに情報を真摯に出してもらうのは結構なことですが、例えそれがうまくいったとして、その調査結果の信頼性を消費者側がどう評価できるのでしょうか?大学教授なら、ある程度の地位の人なら、という曖昧な信頼性を頼ってませんか?
不二屋、伊藤ハムにしても本当にどうだったのか疑問に思います。餃子事件を受けた生協の委員会には生協関係者も多数いたようですが、それでもいいのでしょうか?
すごく不二屋の委員の方を、絶対的位置としてこの話を進めていますが、それはあくまで松永さんの主観であって、一つの意見でしかないと思います。
第三者委員会の人選ではなく、第三者委員会の委員に、どれだけ公開調査の権限を与えるかではないのですか?
意見が、ずれてますよ~・・・
ご意見ありがとうございます。
意見はずれているとは考えていません。
どれだけ公開調査の権限を与えられたとしてもその権限を与えられた方々が、ある意味「該当企業より」であったり、「公正に客観的に」調査できる能力を有していなかった場合、その調査は本当に意味のあるものなのでしょうか?
誰が第三者委員会の人選を行うか考えるとそういうことも気にならないのですか?
あくまで企業が自主的にやっていることなので、それはそのレベルで考える必要があります。
もしあなたが、第三者委員会が「該当企業より」であったり、「公正に客観的に」調査できていないと考えるなら、報告書が公開されているのですから、どこがどのように「該当企業より」なのか、「公正に客観的に」調査できていないのか指摘すればいいのではないですか?
もしくは、第三者委員会のうち、「該当企業より」なのか、「公正に客観的に」調査できる能力を有していないのはだれか指摘して見られたらいかがでしょう。
それもせずに、企業側が人選するから第三者委員会は信頼ができないというなら、企業が行う内部調査はすべて無駄ということになってしまいますよ。
報告書が公開されていても、それがこちらが欲しい情報を正しく掲載した内容とは限りませんから、それは無駄な努力です。
別に100%企業よりとは断言してもいませんよ。念のため。ただ100%信じられる内容でもないものです。何かこの報告書は絶対のもので一点の問題もないと思い込むような姿勢が見られますから、これは遺伝子組換えを否定したロシアの科学者を信じる方々みたいで滑稽に感じているだけです。
だから、私は一つの意見として受け止めるだけです。何の抵抗もなく飲み込むことは科学ではあり得ないことです。
で、企業側が人選する第三者委員会なるものですが、人選が変わるたびにその方々の興味のある方向にベクトルがコロコロ変わるのを見てますから、結局企業がコントロールしている所もあることを述べておきます。