日常

手塚治虫アカデミー

2008-11-03 02:21:12 | 雑多
手塚治虫アカデミー

手塚治虫アカデミーというものが、『東京文化発信プロジェクト』というものの一環で手塚治虫生誕80周年を記念してやっていて、それに今日行ってきた。

元々は、この手塚治虫アカデミーで漫画評論家かつ熊本高校の先輩かつ現明治大学准教授(元は筑摩書房)の藤本由香里さんが、mixiの日記で里中満智子さん!萩尾望都さん!手塚るみ子さん!とシンポジウムやる!っていうのを聞きつけて、でも定員があって往復はがきで応募せねばならんというのを知ったのです。ただ、丁度その日(11月3日文化の日。この日こそ手塚治虫の誕生日!)はこのブログにも書き込んでくれてたりする人と古典の輪読会(→今回は伊勢物語)をやる大事な日で予定があけれなかったんで、11月2日に開催されたのに応募して、無事に当選!しちゃったんで行ってきました。

その手塚治虫アカデミーは、ここにHPもある
そして、わしがあたった回は、『1、手塚エンターテインメント』というもので、パネリストは藤子不二雄A 浦沢直樹 呉智英 犬童一心という信じられない豪華な面子!タダで見れるなんて奇跡。ビバ東京!
こういう催しものは東京でしか絶対行けない。

2009年4月にも、『4、日本アニメの未来』『5、アートへの道』『6、永遠の火の鳥』というものが続々と開催されるみたいなんで、また応募します。
漫画好きのアナタ!来年各自応募しましょう。そして一緒に行きましょう。

■手塚治虫の偉大さ

自分は手塚治虫の影響を滅茶苦茶受けてます。医者になったきっかけって、もちろん単純に何がどうって言えないくらい色んなきっかけがあるのですが、相当に影響受けたのは確実。

芸術畑からだと写真家のセバスチャン・サルガドやユージン・スミスの写真(この辺もブログでちゃんと書き記したい写真家の方々。またいづれ書きます)も要素として間違いなくあるし、関野吉晴さんの文章・写真とか、レオナルドダヴィンチの解剖図とか、まあ色んな芸術から影響受けてますが、その中で最も多大な影響受けているのは間違いなく手塚治虫先生!!

直接的な医療の漫画だと『ブラックジャック』『きりひと讃歌』ってのは医者としての倫理とか哲学ですごく影響受けてるし、間接的な医療の話だと、現在の西洋医学の元になった蘭学を江戸の歴史と共に書いた『陽だまりの樹』もすごく影響受けた。そして、さらにその大元になる生命論とか人間論とか時間論とか・・・全ての哲学の源、それはこのブログの源泉である自分で考えて表現すること、そのものですが、多くのものを学んだ作品、『火の鳥』!
ものすごく手塚治虫に人生の影響受けてます。この人と出会わなかったら自分はどうなってたんだろうと思うくらい影響受けた。

・・・

手塚治虫への愛や彼の凄さを書き出すと、もう果てしなくとまらなくなるので、今回はやめときます。またそれだけで書きたいと思ふ。
ちなみに、わしの高校の卒業旅行は宝塚市にある『手塚治虫記念館』!ここに夢がかなって行けたときの感動は今でも覚えてる。


■藤子不二雄A
元に戻って手塚治虫アカデミー自体の感想を(元々これだけ書く予定だったはずが・・)。

漫画に疎い人は藤子不二雄Aって言われてもピンと来ないと思うんですが、『藤子不二雄(ふじこ ふじお)』っていうのは、二人の漫画家の共同ペンネームで、その二人は藤本弘先生と安孫子素雄先生です。微妙に二人の方向性は違っていて、1988年にコンビ解消してからは、藤本弘先生は藤子・F・不二雄、安孫子素雄先生は藤子不二雄Aと名乗るようになりました。藤本弘先生(藤子・F・不二雄)はなくなられましたので、今は安孫子素雄先生(藤子不二雄A)だけがご存命です。

藤子不二雄先生と言えば、一般的にはドラえもん!が先にあがると思います。ドラえもんは基本的に藤本弘先生(藤子・F・不二雄)の作品です。
自分で書いてても、確かにややこしい。
藤本弘先生(藤子・F・不二雄)のほかの作品はキテレツ大百科、パーマン、エスパー魔美など。なんとなく作風に通底するものを感じると思います。

一方、今回のゲストの安孫子素雄先生(藤子不二雄A)の作品は、忍者ハットリくん、怪物くん、プロゴルファー猿、魔太郎がくる、笑ゥせぇるすまんなど。
作風はなんとなく違いますね。
安孫子先生は毒があるのも書いている。少し手塚治虫の遺伝子に近い気もします。
ちなみに、本当の意味で二人の共作といわれているものは、『オバケのQ太郎』くらいだったと思います。

あと、安孫子先生の名作として『まんが道』もあります。これは、二人が漫画家になっていく自叙伝のようなもので、ここに手塚治虫先生とのエピソードがいっぱい書かれている。

(前置きが長くなった)


今回は、安孫子先生の手塚治虫への愛や敬意に溢れていて、とても素晴らしい話ばかりだった。あんまり聞いたことがない裏話も聞けて、ファンとしては感動ものだった!!
安孫子先生にとっての手塚先生。本当の心からの師匠、神様のような師匠に実際出会えて、その人と同時代に生きれた安孫子先生みたいな人って羨ましい!そう思っちゃった。嫉妬?
安孫子先生全てから、もう本当に手塚先生への愛や尊敬に満ち満ちていて、聞いている自分も幸せになるようなオーラが会場全体を包んでいた。

興味深い話ばかりだったけれど、示唆に富む面白い話で覚えているものとしては、
1:手塚は若い才能にも本気で嫉妬を感じてライバル心を燃やす人だった。石森章太郎がコムで連載していた『ジュン』っていうのが詩的で叙情的ですごく新しい内容だったので、手塚は「こんな漫画どこが面白いんだ!」って嫉妬を込めていったら、それが編集者から石森自信に伝わり、「それなら連載をやめる!」って言い出して大ごとになりそうだったけど、それを聞いた手塚は、土砂降りの雨の中ずぶ濡れになって石森の家に謝りに行き、「あれは嫉妬して言っただけであの漫画は本当は面白いと思っているんだ。是非とも続けてくれ」と言ったというエピソード。
2:生の手塚は気遣い人で本当に優しい人。あまりに絶望的で救いがない話になりそうなときは、必ずひょうたんつぎとか、少しのユーモアを入れる。
3:全く無名の高校生だったときに、「安孫子氏、藤本氏」という形で、君づけでも呼び捨てでもなく、自分に敬意を持って呼んでくれたこと。その影響で、安孫子先生も他の仲がいい漫画家にはずっと「・・氏」と呼ぶようになったこと。
4:全く無名の高校生のときにファンレター送って、漫画を描く画材道具のブランドとかを聞いたら、惜しげもなく全部丁寧に返事を書いて教えてくれたこと。
5:「まんが道」が映画化されて、主題歌は井上陽水の少年時代だったんですが、最初に井上陽水から「安孫子さんが歌詞を作ってくれるなら曲を書く」といわれ、一生懸命歌詞を書いて陽水に渡したが、結局その歌詞は何も使われなかったこと(笑
6:当事は社会的地位が低かった漫画だったが、長者番付の2位にいきなり躍り出て漫画の市民権を得てきたこと。そのときの芸術部門の1位は横山大観だって!
7:全く無名の高校生のときに、自分たちで書いた12ページの原稿を持って、見てもらおうと思って持っていった。漫画を書き終わるまでずっと部屋で待っていて、手塚治虫から生原稿を渡されて、これ読んどいてーっていわれた。その原稿はロストワールド(来るべき世界)だったが、単行本で全然読んだことない内容。手塚曰く、本当は1000ページ書いたが単行本になったのは400ページだけ。あとの600ページは書いたけどボツにしたとのこと。あまりの衝撃に12ページの原稿は見せれなかった。でも、その瞬間から本気で漫画を描くようになった。

・・・
興味深い、愛に満ちたエピソードが多くて・・。涙腺ゆるみました。覚えてるだけでもざっとこんな感じ。いい話多かったなぁ。

■浦沢直樹
もちろん生の浦沢直樹なんて見るの初めてで、もう相当にオーラあった。なんか世捨て人のような、浪人の武士のような殺気溢れる感じ。横を素通りしたら斬られそうな殺気漂う雰囲気。もうかっこよかった。
浦沢直樹は勿論みなさんご存知と思います。
○パイナップルARMY、○YAWARA!(柔道の谷亮子→やわらちゃんの愛称はここから来てるのはご存知ですか?)、○MASTERキートン(原作者との間でトラブルがあり唯一絶版。超名作なのに!漫画のサバイバル技術に影響受けた人多いはず)、○Happy!(相武紗季でドラマ化されましたね)、○MONSTER(脳外科医テンマの話。ハリウッドで実写映画化されるってのは本当?これで手塚治虫マンガ大賞とってる)、○20世紀少年(ついに唐沢寿明主演で第1章が映画化!)、○PLUTO(鉄腕アトムのロボット刑事ゲジヒトの視点から書いた漫画。これでもまたまた手塚治虫マンガ大賞とった!)

とまあ、いわゆる井上雄彦と並び、天才と呼ばれる一人ですね。PLUTO含め、手塚治虫ともかなり密接に関係が深い。


浦沢直樹の言葉も深かったー。鋭かったー。ホンモノの中のホンモノの漫画家から発される表現への言葉とか、その辺は神がかりなものを感じましたよ。

1:手塚作品は悲劇が多い。戦争って、暴力って、むなしいよね。本当に虚しいよねって。手塚作品で本当にそう思った。
2:手塚作品は「火の鳥」乱世篇からかわった。中学生のとき衝撃を受けたのは口を描く線。今までは流れるような線のタッチで、それは美しかった。でも、この時期から、『何かを確かめるような』線のひき方になった。それは、顔を描いて目を描いて、このキャラクターに意識や命を吹き込むぞという覚悟のある、そういう覚悟を確かめるような線。その緊張感のようなものを感じるようになった。 
・・・

こういうことを浦沢直樹は言っていて、しびれちゃいましたね。表現者ならではの、すごい重みのある言葉だった。

まあ他に色々ありましたが、あまりに興奮して聞いていたから、メモもとってないし、後はとりあえず今は思いだせん。

呉智英さんの漫画評論家としての手塚漫画への適切な評価、犬童一心さんの映画監督しての漫画の違いの話も面白かった。彼が映画と漫画で一番違うのは『時間』の概念だって言ってたのも興味深かった。最近時間に興味持ってたし。流れている時間の感覚が間違いなく違うって言っていた。それは、映画は2時間30分とかいうだいたいの有限な尺が決まっているという意味での時間も含めて、何かそういうものと全く別次元の世界で、流れる時間が違うって言ってた。ここも非常に興味深かった。


■総合
この辺で感想終わり。
最後の辺り(呉智英さん、犬童一心さん)は書いてて疲れてきたんで尻つぼみDEATH(尻つぼみなのバレタ?笑)

まあそれはともかく。
この会合で一番感じたのは、安孫子先生含め、会場全体が手塚治虫への愛に溢れれていたこと。これが一番最高だった。安孫子先生の、漫画の神様である手塚治虫への果てしない愛や尊敬。安孫子先生自体が世界の漫画界でも神様のような存在なのにね。
その愛の連なりは、浦沢直樹から手塚治虫への愛としても十分感じられた。
そうやって尊敬したり、愛をもって世代間で時代をこえて連綿と連なっていくって素晴らしいと思った。勿論、手塚作品に流れる色んな思いは、僕らにも十分形をかえて伝わっているわけで、それを自分なりに吸収して、結果として下の世代に意図せずとも何らかの形で伝わっていくわけで・・・。
琳派の俵屋宗達→尾形光琳→酒井抱一→鈴木其一と、時代を超えて何かが伝わっていくのも同じようなものでしょうか。

手塚治虫が漫画の物の怪に取り付かれ、死ぬ瞬間まで放出し続けた色んなものが、愛という形で伝播しているのを感じる場だった。2時間30分という時間を全く感じない、素晴らしい場だった!! 幸福。


P.S.
2009年の4/18~6/21に、江戸東京博物館で大規模な『手塚治虫展』があるって!!必ずみなさんいきましょうね。世界遺産です。

P.S.2
ついでに脱線しますが、現在江戸東京博物館で『ボストン美術館 浮世絵名品展』やってます。浮世絵収蔵で世界一といわれるボストン美術館ですが、今までほとんど公開されてなかった。今回は初の大規模な展覧会。日本初公開も多数あるとのこと。これはすごい。来週にはわしも時間あるんで行く予定ですが、興味ある人は是非行ってみてください!11月30日までなので残り僅か。漫画も、浮世絵のように日本よりも世界でその真価を正しく認められ、権利とか原本とか買い漁られ、今回みたいな逆輸入って羽目にならないように、正しく価値を認めていきたいものですね。
 *「ボストン美術館 浮世絵名品展」公式HP

2 コメント

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同時代 (Shin.K)
2008-11-04 02:07:15
同時代に生きる偉人の話を生で聴くことができたこと、本当に幸せに思います。
本当にありがとう!
この連休は、言葉のシャワーをふんだんに浴びて、今自分の中で醸造中です。
近日中に文章化するね。

一言だけ、書くとすれば、手塚治虫のマンガをぼくはまだその多くを未読だということ。これは翻ると、これから味わえる豊かな作品をたくさんもっているという幸福感があります。

ほんとに世の中には、すばらしい作品が大量にあって、じっくり味わって読むのにどれらけ時間があっても足りないくらいだよね。(そう思える状態がいい)

明日も仕事が終わって夜が来るのが待ち遠しい。
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同時代を生きているということ (いなば)
2008-11-04 12:51:17
>>>>>>>Shin.K
手塚治虫なんて、もはや歴史の人になってる。
藤子不二雄Aも浦沢直樹も、数十年しちゃうと、ああいう人たちが実際に生きてた時代もあったんだーって言われちゃうんだろうね。生き証人として、実際に生身の藤子不二雄Aとか浦沢直樹を見て、肉声とか聞けたのはすごくいい体験だった!こればかりはテレビでも漫画でも絶対に得られない体験だし、同時代を生きていないと絶対に無理な体験だからね。

手塚治虫のマンガを未読ってのは逆にうらやましい!あの感動をゼロからかんじれるなんて!俺も、改めてまた読み返そうって思った。
俺がおすすめするのは、超メジャー以外だと「奇子」「シュマリ」「地球を呑む」「人間昆虫記」「MWムウ」とかかなぁ。すごく深いんだよね。読むたびに味わいが変わるのが手塚作品の凄さ。

すばらしい作品って時を越えて、世代を越えて読み継がれる。解釈も多様になる!それはこの前みんなで読んだ古典の伊勢物語と同じようなものでしょうな。
手塚作品だけでも一生80年かけて何度も無限に読めるのに、それ以外にも素晴らしい作品があって、文化的に豊穣だってツクヅク思いますよ。漫画だけでも広大だし、さらに文学も絵画も建築も彫刻も舞踊も歌舞伎も能も演劇も・・・ものすごく多様な文化だと思いますねー。

丁度今日のYahooNEWSで、ブラック・ジャックを大蔵流狂言方、善竹隆司が、漫画と狂言のコラボレーションするってあった。色んな芸術の垣根を越えて越境していくって凄い。
東京で開催されるときあれば見に行きたいなぁ。
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