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日弁連が「貧困の連鎖を断ち切り、すべての人が人間らしく働き生活する権利の確立を求める決議」ーその1-

2008-10-05 02:31:46 | 国内労働
日弁連
派遣法改正求め決議
“原則自由化前に戻せ”

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 日本弁護士連合会は三日、ワーキングプアをなくすため労働者派遣法の抜本的改正などを求める決議を、富山市で開いた第五十一回人権擁護大会で全会一致で採択しました。

 日雇い派遣禁止にとどまらず、原則自由化した一九九九年以前に戻して専門業務に限定し、登録型派遣の廃止、マージン(派遣元手数料)率の上限規制などを求めています。

 ワーキングプア拡大の要因として、日経連の「新時代の『日本的経営』」にもふれて、政府・財界による非正規雇用の増大と労働法制の規制緩和、構造改革による社会保障の抑制があると指摘し、労働法制の規制強化と社会保障の抜本改善を求めています。

 賛否の討論では「決議はたたかっている労働者を励ます」など、意見表明した五人全員が賛成しました。

(出所:日本共産党HP 2008年10月4日(土)「しんぶん赤旗」)

 人権擁護大会宣言・決議集 Subject:2008-10-03

貧困の連鎖を断ち切り、すべての人が人間らしく働き生活する権利の確立を求める決議
働いても人間らしい生活を営むに足る収入を得られないワーキングプアが急増している。年収200万円以下で働く民間企業の労働者は1000万人を超えた。
ワーキングプア拡大の主たる要因は、構造改革政策の下で、労働分野の規制緩和が推進され、加えて元々脆弱な社会保障制度の下で社会保障費の抑制が進められたことにある。
労働分野では、規制緩和が繰り返され、経費節減のため雇用の調整弁として非正規雇用への置換えが急激に進められた結果、非正規労働者は今や1890万人に及び全雇用労働者の35.5%と過去最高に達した。それとともに、偽装請負、残業代未払い等の違法状態が蔓延し、不安定就労と低賃金労働が広がり、若者を中心に、特に教育訓練の機会のない労働者が貧困に固定化され、正規労働者においても賃金水準が低下し長時間労働が拡大するという構造が生まれている。人々の暮らしを支えるべき社会保障制度も、自己負担増と給付削減が続く中で十分に機能していない。そのため、いったん収入の低下や失業が生じると社会保障制度によっても救済されず、蓄え、家族、住まい、健康等を次々と喪失し、貧困が世代を超えて拡大再生産されるという「貧困の連鎖」の構造が作られている。
しかし、このような労働と貧困の現状は、本来人々が生まれながらにして享有している人権を侵害するものであり、もはや看過できる状況ではない。
そもそも、個人の尊厳原理に立脚し、幸福追求権について最大の尊重を求めている憲法13条、法の下の平等を定める憲法14条、勤労の権利を保障する憲法27条等に照らせば、すべての人に、公正かつ良好な労働条件を享受しつつ人間らしく働く権利が保障されているというべきであり、憲法25条が健康で文化的な最低限度の生活を営む権利としての生存権を保障していることを合わせ考慮すれば、国及び地方自治体には、貧困の連鎖を断ち切り、すべての人の人間らしく働き、かつ生活する権利を実現する責務がある。
そこで、当連合会は、人間らしい労働と生活を実現するため、国・地方自治体・使用者らに対し、以下の諸方策を実施するよう強く求めるものである。



国は、非正規雇用の増大に歯止めをかけワーキングプアを解消するために、正規雇用が原則であり、有期雇用を含む非正規雇用は合理的理由がある例外的場合に限定されるべきであるとの観点に立って、労働法制と労働政策を抜本的に見直すべきである。
特に、労働者派遣については、日雇派遣の禁止と派遣料金のマージン率に上限規制を設けることが不可欠であり、派遣対象業務を専門的業務に限定することや登録型派遣の廃止を含む労働者派遣法制の抜本的改正を行うべきである。

国は、同一または同等の労働であるにもかかわらず雇用形態の違いによって、賃金等の労働条件に差異が生じないよう、労働契約法を改正して、すべての労働契約における労働条件の均等待遇を立法化し実効的な措置をとるべきである。

国は、すべての人が人間らしい生活を営むことのできる水準に、最低賃金を大幅に引き上げるよう施策を講ずるべきである。

国は、偽装請負、残業代未払いなどの違法行為の根絶を図るため、これらを摘発し監督する体制を強化し、使用者に現行労働法規を遵守させるための実効ある措置をとるべきである。

国及び地方自治体は、社会保障費の抑制方針を改め、ワーキングプア等が社会保険や生活保護の利用から排除されないように、社会保障制度の抜本的改善を図るとともに、利用しやすく効果の高い職業教育・職業訓練制度を確立させるべきである。

使用者は、労働関連諸法規を遵守するとともに、雇用するすべての労働者が人間らしく働き生活できるよう、雇用のあり方を見直し社会的責任を果たすべきである。
当連合会は、貧困の拡大に歯止めをかけるためには、労働問題と生活保護等の生活問題に対する一体的取り組みが不可欠であるとの認識に立ち、非正規労働者を始めとするすべての人が、人間らしく働き生活する権利を享受できるようにするため全力を尽くす決意である。

以上のとおり決議する。

2008年(平成20年)10月3日
日本弁護士連合会

提案理由第1 はじめに

1 貧困の拡大

日本社会において、貧困が急速に拡大している。
貯蓄なし世帯は、1990年代後半から急増し、2人以上世帯では約2割、単身世帯では約3割に達した(金融広報中央委員会2007年家計の金融行動に関する世論調査)。国民健康保険の保険料滞納世帯は、2000年の370万世帯から2007年には474万世帯に増加し、1年以上滞納をしていたため、いったん医療費を全額負担することを求められる資格証明書を交付され、保険証を使えない「無保険者」は2000年の9万7000世帯から2007年には34万世帯となり3倍以上に増加した(厚生労働省2006年度国民健康保険(市町村)の財政状況について=速報=)。また、生活保護利用世帯は112万世帯、生活保護利用者は156万人と(厚生労働省福祉行政報告例2008年4月分)、10年間で46万世帯、61万人が増加している。
貧困が拡大する中で、わが国の自殺者数は、1998年から10年連続で3万人を超え、2007年の約3万3000人のうち7300人が経済苦を理由としていることが明らかになっている(警察庁2008年6月発表)。

2 第49回人権擁護大会決議との連続性

このように貧困の拡大が深刻化する中で、当連合会は、2006年10月、第49回人権擁護大会(釧路)において正面から貧困問題を取り上げ、生活保護問題を中心に検討し「貧困の連鎖を断ち切り、すべての人の尊厳に値する生存を実現することを求める決議」を採択したところであるが、今回は、貧困の連鎖を断ち切る次の一歩としてワーキングプアに焦点を当て、ワーキングプア増加の要因である労働法制の問題点及びそれに関連する社会保障制度の問題点につき検討し提言することとした。

第2 ワーキングプアの拡大

1 ワーキングプアとは

ワーキングプア(働く貧困層)とは、働いても生活保護基準以下の収入しか得られない人を指すとされることが多いが、生活保護基準自体が人間らしい生活を営む水準たり得ているかという問題もあることから、本決議においては「働いているか、働く意思があるにもかかわらず、憲法25条が保障する健康で文化的な最低限度の生活水準を保てない世帯収入しかない人」を指す。

2 拡大するワーキングプア

ワーキングプア問題は、新しい問題ではない。多くの女性労働者が、パート労働者として不安定かつ低賃金労働に従事してきており、特に、シングルマザーがパート労働によって家計を支える母子家庭のワーキングプア問題は従来から深刻な問題であった。このような従来からのワーキングプア層に加え、特に、1990年代後半以降、ネットカフェ難民の出現などに象徴されるように、新たにワーキングプアに落ち込む人々が急増した。

(1)年収200万円以下の給与所得者の増加

年収200万円以下で働く民間企業の労働者は、1995年には793万人であったが、2006年には1000万人を超え1023万人にまで増加した(国税庁2006年分民間給与実態統計調査)。

(2)生活保護基準以下の勤労世帯の増加

勤労世帯(就業中のほか、求職中の世帯を含む。)中、生活保護基準以下の生活を営んでいる貧困世帯の数及び割合は、1997年の458万世帯(12.8%)から2007年には675万世帯(19%)に増加している(総務省就業構造基本調査に基づく後藤道夫都留文科大学教授による分析)。その中でも、有業率の高い子育て世帯において、貧困世帯が増加している。

第3 ワーキングプア拡大の要因

ワーキングプアに落ち込む人々が増大した主たる要因は、市場の障害物や成長を抑制するものを取り除くという「市場中心主義」のもとにおける「規制緩和」と政府活動の見直し(「小さな政府」、「官から民へ」)を進めた日本政府の「構造改革」政策にある。
すなわち、第1に、経済のグローバル化により資本や労働力の国境を越えた移動が活発化し、製造業においては産業空洞化の動きが現れ、日本企業が長期にわたる業績不振に陥る中で、国際競争に打ち勝つことを理由に、労働分野においては「規制緩和」が進められ労働基準が切り下げられた。また、第2に、「小さな政府」への政府活動の見直しにより、社会保障分野では、元々、勤労世帯を支えるセーフティネットが脆弱であったところに追い打ちをかけるように社会保障費の抑制と負担増が進められた。

1 労働規制の緩和と非正規雇用の急増によるワーキングプアの拡大

(1)労働規制の緩和

日経連は、1995年、「新時代の『日本的経営』」と題した報告書をまとめ、従来の日本型雇用システムを転換させ、終身雇用の正社員を基幹職に絞り込み、専門・一般職は昇給、退職金、年金がなく有期雇用の非正社員にシフトする雇用改革案を明らかにした。
これと連動するように、1999年、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(以下「労働者派遣法」という。)が改正され、派遣対象業務が原則自由化され、それまでの26業務に限定していたポジティブリスト方式から、港湾運送、建設、警備、医療関係、製造業務以外につき原則解禁となるネガティブリスト方式へと大きく変容し、さらに2003年改正により、製造業務にまで拡大され、業務によって派遣受入期間が延長された。また、労働基準法では、1年とされていた有期労働の契約期間の上限が、1998年改正に続く2003年改正により原則的上限が3年、特例の上限が5年に緩和された。
このような労働規制の緩和が進む中で、企業は、「必要な時に、必要な技能をもつ労働者を、必要な人数だけ動員できる体制」を構築し、これによって労働コストの削減と固定費の変動費化を目指して、大規模なリストラを断行して正規雇用を減らし、パート、アルバイト、契約社員、派遣・請負労働者といった多様な形態の非正規雇用への置換えを急激に進めていった。

(2)非正規雇用の急増と低い賃金水準

その結果、非正規労働者は、1890万人に及び、全雇用労働者数に占める割合は、1992年の21.6%から今や35.5%と過去最高に達し、正規雇用から非正規雇用への代替は急激に進んだ。
2002年から2007年の5年間に初職に就いた者をみると、実に、43.8%が非正規労働の就業者である(総務省2007年就業構造基本調査)。
増大した非正規労働者の賃金水準は、正規労働者を大きく下回っており、平均現金給与月額で20万9800円と正規労働者の6割で、特別給与を考慮すると5割の水準にとどまる(厚生労働省2007年賃金構造基本統計調査)。

(3)労働組合の後退

日本の労働組合は、組合員数が12年連続で減少し、推定組織率も18.2%にまで低下しこの30年間で半減した(厚生労働省2006年労働組合基礎調査報告)。半日以上のストライキを伴う労働争議の件数は1974年の5200件をピークに急減し、2006年にはわずか46件と極端に少なく(厚生労働省2006年労働争議統計調査)、諸外国と比較しても際立っている。
このような労働組合の後退が進む中で、労働規制の緩和、正規雇用の非正規雇用への置換えが推進され、労働組合の存在が歯止めとならなかった。

2 脆弱な社会保障制度と構造改革による社会保障費の抑制

第2の要因は、勤労世帯を支える制度として元々脆弱であった社会保障制度が、社会保障費の抑制によってなおさら機能不全に陥っていることにある。
すなわち、1970年代初頭以来、日本政府の社会保障理念は、一時的・恒久的な勤労不能世帯を社会保障の主たる対象としていた。高度経済成長が続く中、新卒定期一括正規採用、企業内での技能訓練、長期雇用、年功型賃金という従来の日本型雇用が社会保障機能の一部をいわば肩代わりしていたため、社会保障制度の脆弱さがそれほど顕在化しなかったが、勤労世帯を支える制度としては元々極めて不十分なものであった。
その上に、構造改革政策は、日本型雇用の解体や規制緩和によって非正規雇用を増大させ、社会保障への需要を大きく増加させながら、他方で、社会保障そのものを大リストラの対象とし、骨太の方針を受けての雇用保険の給付削減、児童扶養手当の縮減等の給付削減や負担増による社会保障費の抑制を進めてきた。
そのため、社会保障の機能不全が一層進み、勤労収入の低下が生活の崩壊に直結するという構造が作られ、ワーキングプア拡大の要因となっている。

(出所:日本弁護士連合会HP http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/hr_res/2008_3.html)


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