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経済時評-悲惨指数と「家計の三重苦」-

2008-07-17 21:21:02 | 国内経済
経済時評
悲惨指数と「家計の三重苦」

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 日本銀行が四半期ごとに発表する日銀短観(にちぎんたんかん。正式名は「企業短期経済観測調査」)は、景気の動向を敏感に示す調査として、いつもたいへん注目されるニュースになります。

 その日銀短観が七月一日に発表され、翌日の一般紙の社説は、いっせいに景気後退について論じました。各紙とも強調したのは、世界的不況と原油高によるインフレの同時進行、スタグフレーションに落ち込むおそれです。

「日本だけでなく、世界中で景気減速とインフレの懸念が同時に高まり、各国の政策当局は対応に苦慮している」(「読売」社説)


 日銀の白川方明総裁も、国会の参考人質疑で「スタグフレーションの懸念がある」という趣旨のことを述べています。(五月二十七日、参院、財政金融委員会)

「経済の金融化」で景気循環も変化
 スタグフレーションとは、不況(スタグネーション)と物価上昇(インフレーション)が同時に進行することをさす合成語です。

 スタグフレーションという用語が世界中に広まったのは、一九七五年に第一回サミット(主要国首脳会議)がフランスのランブイエで開かれていたころでした。ちょうどそのころ、一九七〇年代の世界は、ニクソン・ショック(米国の金・ドル交換停止)や第一次石油危機などによって、文字通り深刻なスタグフレーションに落ち込んでいました。

 ランブイエから三十三年、今年の洞爺湖サミットも、米国発の世界的金融危機、投機マネーの暴走による原油や穀物の価格暴騰で、ふたたび世界的なスタグフレーションの懸念の深まるなかで開かれました。

 しかし、同じスタグフレーションといっても、一九七〇年代と今日とでは、そのメカニズムはかなり違っています。

 現代の資本主義では、「新自由主義」金融理論の広がりによって、「経済の金融化」(注)がすすみ、大企業と富裕者への富の集中↓金融資産の累積(過剰資本の肥大化)↓信用破たん・投機マネーの暴走というように、景気循環の条件が大きく変化しているからです。

 また、同じようにスタグフレーションといっても、一九七〇年代に比べると、家計に与える影響は大きく異なっています。

 今日では、すでに「景気上昇」といわれていた時期に、貧困と格差が拡大し、勤労者・国民はさんざん犠牲にされてきたからです。そのうえ、不況と物価高がかぶされば、家計の負担は耐え難いものになるでしょう。

「三重苦」に加算される「福祉削減の三大不安」
 ところで、スタグフレーションがマクロ(経済全体)の状態を表わす経済用語だとすれば、ちょうどそれに対応するミクロ(個々の企業や家計)の状態を表わす用語に「悲惨指数(ミザリー・インデックス)」というものがあります。

 これは、米国の経済学者が発案した指数ですが、失業率と消費者物価上昇率を単純に合計した数値を家計の「悲惨度」を表わす指標とみなすものです。

 たとえば、米国の昨年の失業率は4・6%、物価上昇率は2・9%でしたから悲惨指数は7・5、最新の今年五月の失業率は5・5%、物価上昇率は4・2%ですから、悲惨指数は9・7に上昇しています。今後、スタグフレーションが深まれば深まるほど、悲惨指数が上昇するはずです。この悲惨指数の動向は、大統領選などにも影響するといわれ、米国では一定の有効性がある指標のようです。

 しかし、今日の日本の家計の困難さは、とても米国流の悲惨指数では計れません。

 第一に、雇用や賃金の問題では、ワーキングプアの増加、低賃金・無権利の非正規雇用者の増加などは、失業率の数値には、まったく表されません。

 第二に、物価の問題でも、たとえば五月の上昇率は前年比1・5%ですが、十年ぶりの上昇率とはいえ、暮らしを直撃する物価高の実感とは、まだかけはなれています。

 第三に、いま庶民の家計を苦しめている税金や保険料の負担増の数値は、もともと悲惨指数からは、はずされています。

 さらに、こうした「家計の三重苦」に加えて、年金不安・医療不安・介護不安という「福祉削減の三大不安」もあります。

 貧困をなくす社会連帯の大運動を発展させるためにも、「家計に軸足を」の視点から経済政策の抜本的見直しを求めるためにも、「家計の三重苦」や「福祉削減の三大不安」などを的確に表す、わかりやすくて信頼性のある指標を工夫したいものです。(友寄英隆)

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 (注)「経済の金融化」とは、「経済活動全般の中で金融市場や金融機関の重要性あるいは影響力が異常に高まっている現象」を指す。なお詳しくは高田太久吉「『経済の金融化』は資本主義をどこに導くか」(『経済』〇八年八月号)を参照。

(出所:日本共産党HP 2008年7月16日(水)「しんぶん赤旗」)
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