プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ 鹿島茂「パリの日本人」

2017年08月02日 | ◇読んだ本の感想。
鹿島茂の著作は……こういっては何だが、「もう少し面白くなってもいいのになー」という読後感が多い。
だが今回のこれは面白かった。

パリに在住したことのある日本人、11人を取り上げている。
11人のうち、まあ名前は知ってるというレベルは西園寺公望、原敬、獅子文六の3人だけ。
獅子文六は当時の人気作家だと思うのに、菊池寛がいろんな本で山ほど名前が出てくるのに対して、
ほぼ見かけないですよねー。こんなところで出てくるのが意外。へー、パリに行ってたんだ。

日本文学に詳しいわけじゃないが、菊池寛と獅子文六ってそんなにそんなに当時の立ち位置は離れてないよね?多分。
でも死後の扱いには雲泥の差がある。不思議。
まあ「悦ちゃん」始まったし、そろそろ復権?かもしれないけど。閑話休題。


で、この11人の中の林忠正という名前を記憶しておきたい。
鹿島茂はこの人の章に「日本美術の大恩人」というタイトルをつけている。わたしは今まで聞いたこともなかった。
1回や2回や3回はなんかの本で読んだことはあるのかもしれないけど、
名前の字面が地味でもあるし、全く記憶に残ってない。

フランスにおけるジャポニズムの仕掛人。という立場らしい。
パリにいた画商。浮世絵の紹介者。ビングの商売敵。
黒田清輝他の留学生の世話をし、1900年パリ万博の日本館館長。ゴンクールの協力者。
有能で、日本文化の紹介への熱意もあったように(少なくとも鹿島茂は)書いているが、
他方で「浮世絵を海外に流出させた悪辣な商人」と書く本もあるらしく、一般的には知られていない・あるいは悪評。だそうだ。

わたしがこの章で一番感銘を受けたのは、彼が万博展示をやった時のフランス人美術評論家の日本館についてのレポートなのだが、
……引用すると長くなるのでわたしなりにまとめると、

今まで全然知らなかったけど、浮世絵や徳川時代の職人の他にいろんないいものがあるんだね。
歌麿、清長、春信だけじゃないんだね。
貴族的な流派である土佐派、狩野派、藤原時代や鎌倉時代の仏師たち、漆や木や鉄の大家たち、光悦、笠翁。
知らなかったよ。紹介してくれてありがとう。

とのことである。体系的な日本美術の紹介という観点の展示だったらしい。
けっこういいものを持っていったそうだ。


うーん、そうかあ。そうだよなあ。
日本に住んでいてこそ、仏像やら書やら寺社建築やら、障壁画、漆、庭園、なんかがあって、
そういうもののなかでの浮世絵、という位置づけもわかるけれど、
1900年のフランスではそこまで情報量がないもんなあ。
しかし日本美術の中で浮世絵しか知らない状態というのも、日本人からするとなかなかに切ない。
まあ日本人はフランスといえば印象派しか知らない時代が長かっただろうから、おあいこだろうけどね。

フランスならば古典派、ロマン派。……あれ?まずい、そこまでしか遡れないぞ。
その前を考えると、一挙に中世キリスト教美術まで飛んでしまう。クリュニーのタペストリくらいが唯一。
あれはフランドル製だったか?あとは教会建築、宮殿建築。
フランス美術についてそれしか知らないというのは、フランス人からするとなかなかに切なかろうね。

ところで笠翁って誰やねん。初めて聞いたぞ。自国の美術もよく知らない。


凡百の商人ではなかなか企画出来ませんよ、こんな壮大な観点での展示。
しかも遠いフランスで。
もしかしてすごい人だったんじゃないだろうか。面白そうだ。
そのうち評伝を読んでみようと思った。そういう知識を与えてくれた鹿島茂に感謝した。



コメント
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