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釣ったり読んだり

オバマ新大統領誕生

2009-01-23 08:02:24 | 世の中
アメリカ史上初の若き黒人大統領の誕生に、アメリカ各地から200万人を超えるという人たちが首都ワシントンに集まった。就任式の様子を寝ないで見たが、その熱狂的な歓迎の様子が伝わってきた。人種差別がまだ強いと言われるアメリカ、今大きく変ろうとしている。
 
 新大統領の就任演説を同時翻訳で聴いたが、たった20分の演説で随分多くのことを語った。
 大統領の就任演説と言うこともあり、名言や情熱的な演説になるのかと予想したが、淡々とした地味ともいえる演説だった。
 
 演説から見えてくるものとして、イラクからの撤退を表明しているが、アフガンには引き続き増派するとしている。対話重視の外交を目指すようだが、アメリカの軍隊による世界支配は否定されていない。
 アメリカの貧困と格差の是正、医療や教育の改革を、経済の再構築とともに実現しようとしている。
 積極的な問題として、ブッシュ政権が放棄してきた地球温暖化対策の実施である。日本より本格的にしかも急速に打つ手が開始されるかもしれない。
 また核の廃絶に向けても始動する動きも見られる。

 毎日新聞1月21日2時36分配信の<オバマ大統領就任演説>全文をすぐその朝読んだ。
 
 アメリカのおかれている現状分析、どう変えていくのかの筋道、困難を解決する手立てなど立て続けに語ったが、整理された原稿での演説であった。
 日本語訳では、アメリカの現状分析、変革への筋道などは次のようになっている。
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* わが国は(イラクやアフガニスタンで)戦争状況にあり、敵は憎悪と暴力のネットワークを持っている。経済状況 も悪く、その原因は一部の人々の貪欲(どんよく)さと無責任さにあるものの、我々は困難な選択を避け、次世代への準備にも失敗している。
 多くの人々が家を職を失い、企業も倒産した。健康保険制度もカネがかかりすぎ、多くの学校(制度)も失敗した。毎日のように、エネルギーの使い方が地球を危険に陥れている証拠も挙がっている。
 これがデータや統計が示した危機だ。全米で自信が失われ、アメリカの没落は必然で、次の世代は多くを望めない、という恐れがまん延している。
今日、私は我々が直面している試練は現実のものだ、と言いたい。試練は数多く、そして深刻なものだ。短期間では解決できない。

* 我々は道路や橋、電線やデジタル通信網をつくり、我々の商業を支え、我々の結びつきを強めなければならない。我々は科学を本来あるべき場所に引き戻し、技術を活用し医療の質を引き上げると共にコストを下げる。太陽、風や土壌を使って我々の自動車の燃料とし、工場を動かす。我々の学校や単科大、大学を新たな時代の要請にあわせるようにする。これらすべてが我々には可能だ。
我々は責任を持ってイラクから撤退し始め、イラク人に国を任せる。そしてアフガンでの平和を取り戻す。古くからの友人とかつての敵と共に、核の脅威を減らすために絶えず努力し、さらに地球の温暖化とも戦う。
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 そして、これら深刻で短期には解決できない多くの試練に、アメリカ国民としてみんなで立ち向かっていこうと語り、また世界にもアメリカの姿勢を表明したものと思われる。

なぜ今ごろ「蟹工船」ブームなのだろうか

2009-01-16 08:40:37 | 読書
昨年「蟹工船がブームで読まれている」と聞いても、私は疑っていた。あんな古い本が読まれるはずがないと思っていた。家の本棚にある「蟹工船」を探して読み返してみたが、「日本にはこんな時代もあった」という印象だけだった。戦後「再び教え子を戦場に送らない」の呼びかけで始まった教職員の労働組合に加入して38年間教師として働いた私には、蟹工船の労働者とは無縁だった。若者は本を読まないし、時代も随分違う。なのにどうして「蟹工船ブームなの?」と思った。

 ブームのきっかけは昨年の今頃、1月9日付けの毎日新聞朝刊に載った、作家高橋源一郎さんと雨宮処凛さんの格差社会についての対談からである。
雨宮さんが「『蟹工船』を読んで、今のフリーターと状況が似ていると思いましたと発言し、高橋さんも「偶然ですが、僕が教えている大学のゼミでも最近読みました。そして意外なことに、学生の感想は『よく分かる』だった」と応じたという内容だった。
東京の大型書店が平積みにして宣伝すると、多いときで週に80冊も売れるヒットとなり、ブームに火が付いたとのことである。
 
 蟹工船は日本のプロレタリヤ文学の旗手といわれた小林多喜二の1929年の作である。小林多喜二は1933年、逮捕拷問で虐殺されている。
「蟹工船」の大筋は、博光丸というタラバカニを獲り、缶詰加工もする船が舞台である。
函館を出港した博光丸は出稼ぎ労働者を乗せオホーツク海で操業する。この船は漁船であって、缶詰工場である。缶詰工場だから航海法が適用されない。また漁船だから工場法の適用を受けない。法の死角のもと鬼監督から暴力的に酷使され虐待される出稼ぎ労動者たちは、過労や病気で倒れてゆく。やがて彼らは人間的な待遇を求めて団結、ストライキに踏み切る・・・・・。
今、『マンガ蟹工船』(東銀座出版社)も出ていて読まれている。映画「蟹工船」上映されているとのことである。

敗戦後、平和憲法のもと労働組合が次々と生まれ、労働条件が改善され、労働者も強くなった。戦後の貧しい時代から60数年経った今、見違えるほどの豊かな国になった。しかし、すべての人が幸せな生活を享受できる時代にはならなかった。
今の日本は、派遣労働者や期間工が増え、正規労働者以上の働きをしていても不況では真っ先に首を切られている。十分な賃金がなく、結婚して家庭を持つことの出来ない若者が増えている。格差の広がりはますます進んでいると言われている。労働組合に組織された労働者は減り、未組織労働者、失業者が増えている。

「蟹工船」が何ゆえに多くの人に読まれるのか。
現在は「蟹工船」のように権利もなく過酷な労働条件で働くしかなかった時代背景とはとは随分違う。しかし不況で仕事のない人が巷にあふれ、携帯電話でその日、その日の仕事場を指示される若い労働者が駅前に集まる時代である。
 多くの「蟹工船」読んだ人たちがどこに共鳴するのだろうか。期間工や派遣労働者の無権利状況が似ているのか、鬼監督の仕打ちに、ストライキで立ち上がる男たちに共感するのか。
 現在、百年に起こるか起こらないかの世界的な不況に見舞われている。未曾有の首切りがなされている時代である。いったい蟹工船ブームは何が背景なのか、ブームはどこに向かっていくのか。激動の時代とともに「蟹工船ブーム」を見まもって行きたい。

追記
タラバガニは刺網漁法であり、漁期は4~5月と11~12月。タラの漁期とかさなる。タラバガニはヤドカリの仲間である。
タラバガニ漁が始まったのは偶然からだった。タラ漁の漁船の船員がうっかり海底まで網を下ろしたところ、見慣れないカニが引っかかっていた。当時は食べることなく捨てられていたが、輸出用としての高級なカニ缶詰製造に用いられるようになった。
現在は冷凍保存などが発達して市場にタラバガニが出回っているが、タラバガニの歴史は缶詰の歴史でもある。碓氷という人の始めたカニ缶詰は成功し、欧米への輸出が増大し、カニ缶工場いくつも生まれた。カニ缶詰は、真水から作った塩水を使用していた。1920年(大正7年)に海水を利用することに成功し、翌年に1隻のカニ工船が出現した。1927年(昭和2年)には4000トン級の20隻のカニ工船が作られ操業した。これに従事する労働者の過酷な労働で「地獄船」と呼ばれもしたようである。