諦人録

とにかく読んでも得なことはありません。

WBCと関連付けて語られる野球人気ってなんだろう(WBC感想その2)

2006-03-23 02:12:09 | 野球
WBC準決勝の日本対韓国戦は平均36%超(関東)、瞬間最高率は50%を越える景気のいい視聴率だったという。
さらに決勝の日本対キューバ戦はそれをさらに上回る数字を叩き出したというから驚きだ。

試しに軽く検索してWBCの日本戦の平均視聴率(関東地区平均)を探してみると、

3日(金)夜  中国戦 18.2%
4日(土)夜  台湾戦 20.3%
5日(日)夜  韓国戦 18.5%
13日(月)早朝 アメリカ戦 11.6%
15日(水)午前 メキシコ戦 10.8%
17日(金)午前 韓国戦 14.4%
19日(日)昼  韓国戦 36.2%
21日(祝)昼  キューバ戦 43.4%

視聴率について詳しい話は知らないのでうかつには書けないけど素人読みとしては、
一次リーグは最近の野球中継の率から比べればずいぶん高いが、
ゴールデンの番組の期待値としてはまぁギリギリラインくらいってところか?
二次リーグは放送時間の割には大健闘と言ってよさそうだ。
準決勝決勝は休日ということもあってなかなか大変なことになってる。とこんなもんでいいんだろうか。

他の局の番組や普段の番組の視聴率と比較するべきところだが面倒なので割愛。
そこまで真面目に分析したいわけでもないので。


個人的な実感で言えばやはりボブ・デービッドソンの例のアレから世間様は急速に盛り上がりを見た印象が強い。

一次リーグはなんだかんだ言って去年のアジアシリーズで既にその国の野球自体は見ていたこと。
そんな「勝って当然」だった組み合わせのところにイスンヨプに逆転弾打たれて負けたという要因。
(ちなみにこれに世界で一番驚いたのは鴎ファンを筆頭にしたパリーグファンであろうことは多分疑いない。誰だスンヨプの中の人を入れ替えたのは。)
そういう時系列的な要素もあわさったしむしろそっちが本道とは思えるけれど、
インパクトと、なんだかんだ言ってもこういうものは感情に訴えかけるだけに
やはり効果は大きくあったんじゃないかと思う。
もちろんその後の韓国戦、メキシコ対アメリカ戦、準決勝韓国戦とマンガか何かのシナリオの如き展開がさらにそれを加速したわけだが。


と、まぁそういうことはひとまず横においておくとする。

そんな盛り上がりを見て、マスコミなどはとってつけたように野球賛歌を始めたわけで、
あたかも「野球人気が冷え込んでいる中で」「日本代表の優勝はその救世主となった」とでも言いたげな論調が端々に見える。
じゃあその象徴たる高視聴率を生み出した視聴者様って一体誰なのよ、と少し考えてみる。

おそらく、少なくとも日本のプロ野球好きと公言するような人の視聴行動はここでは問題にならなくて、
(まぁ一次リーグの中国戦台湾戦は勝つことが判ってたから見なかったとか、
WBCよりオープン戦を見ていた、球場に行っていた等はいくらでも考えられるけど。)
昔は巨人戦はなんとなく見てたけど最近離れていた、いわゆる巨人戦の視聴率低下を担った人々や、
オリンピックでもサッカーワールドカップでもバレーボールでも柔道でも何でも、
とりあえずスポーツ見て日本代表を応援するのは好きな人なんかがこぞって見たからと言っても
まぁ当たらずしも遠からじなんじゃないかと。

(言い換えれば後者はいわゆる「普通の人」であり、そして前者の多くも後者に含まれるんじゃないかと考えられるがそれはさておき。)
(この辺のスポーツナショナリズムらしきものについてはそのうち項を改めて考えをまとめないとな…)

と、おおざっぱに考えたことを前提にして表題に戻る。

野球人気低下が言われるようになったのは、なんだかんだでもプロ野球の象徴として扱われている巨人と巨人戦の人気が低迷しているからである。
その他、例えば阪神やダイエー→ソフトバンクは現在の強さを背景に特定地方を中心に時に熱狂的な人気を確保していても、
野球人気という文脈においては基本的に巨人戦の視聴率やドームの客席に結び付けられて考えられる。
それはかつてプロ野球中継=巨人戦が常に視聴率20%を越える「国民的娯楽」と言っては言い過ぎにしても、
一般的に言う(男性の)娯楽の中心の一つというポジションをゴールデンタイムで数十年キープし続けていたからであるわけで、
"近年野球人気が低下した"と言われる事象は
(それまで持っていた圧倒的一般的な視聴者→ライトな野球ファン≒ライトな巨人ファンを失い)野球中継=巨人戦が一般的な娯楽から
転落したことを示すのであればそのライトな層の大部分が他球団ファンに移ったと言えない以上は、正しい。
(例えば巨人戦の替わりにホークス戦が全国中継で視聴率15%前後をコンスタントに叩き出す様な状況は現れていないし、
かつての巨人ファンを各球団が分散的に吸収したと言えるほどには他球団と人気が平準化されたわけでもない。
ストレートに言うなればどれだけの人が野球に興味を失くしたか、ということでもいいけど。)


では、"野球人気が回復する"という言葉は果たしてどういう状況を指すのだろうか。
上のハナシに従って書くなれば、「国民的娯楽と言っては言い過ぎにしても一般的に言う娯楽の中心の一つというポジション」を取り戻すこと、と言うしかない。
そうでなければ、いくら日本ハムがホークスのように札幌に根付こうが、千葉ロッテが毎試合のライト以外の観客席も埋めようが、
それは当事者達以外にとって、野球人気が回復したとはきっとみなされないのだろう。
つまり具体的に言えば、巨人戦(に限る必要はないのだが現実的には他の球団には全国中継の足がかりすらない)の視聴率が
コンスタントに、少なくとも15%前後までは回復する状況にもっていかなければならないとされるのだろう。

もちろん、今回のWBCと日本代表の優勝は野球の面白さを再認識させてくれたし、野球から離れていた人に
再び興味を沸かせることができるような素晴らしいものだったと思う。
潜在的な野球ファンの多さも二次リーグ以降の盛り上がりは一面において示しているといえるだろう。
しかし今回の盛り上がりを、そのままイコールで野球人気と結び付けるほどご都合主義を無責任に語るのはいかがなものだろうか。
熱い試合をすれば野球ファンは戻ってきてくれる? それならばなぜ去年のプレーオフ第二ステージをマトモな形で取り上げようとしないのだ。
かつては巨人が絡まなければ「熱い野球」を認識できず、今は日本代表が絡まなければ「熱い野球」を認識できないとすればそれは野球に責任があるというのだろうか。
では果たして今回のWBCが"野球人気を回復させる"可能性なんてものは現実的にあるのか?
その答えは多分言うまでも無いだろう。

   結局は、
     たまたま野球と言う日本人の多くがそれなりに知っているスポーツの、
     たまたま高レベルなプレイングと因縁に恵まれた国際大会において、
     日本代表が奮闘し勝ち上がったから盛り上がってるに過ぎない人ばっかりだ。
   それは野球人気とは関係無い。あったものは「国民的盛り上がり」だけだった。

もちろんこれはペシミスティックに過ぎる考え方だが、例えばこう言い切ってみて果たしてどこまでが言い過ぎなのだろうか。

センバツも始まる。今週末にはパリーグ公式戦が開幕する。
球春到来、「野球」には興味のない人を置いて球場に行くあるいはテレビの前に陣取るのも悪くない季節になってきた。


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さらっと書くつもりだったのになんだこの回りくどい長文は。
しかも直接WBCには関係ないし。明日は試合そのものについて書き残すかな……