上海で「援助交際」摘発 原因は日本の「腐敗文化」?
2011.12.3 18:00
上海の援助交際事件を特集した週刊誌「中国新聞週刊」
中国の上海で11月上旬、売春をしていた中高生少女ら20人が一斉に摘発されたことが報じられた。地元検察官は「日本、台湾などの腐敗文化の影響を受けた『援助交際』だ」と指摘。波紋は中国各地に広がり、メディアには「日本による文化侵略」などと日本に責任を転嫁する論調が飛び出した。だが、事件の背景には、急速な経済発展で中国社会に生じた深刻なひずみがありそうだ。(田中靖人)
大規模摘発
中国国営新華社通信(電子版)が11月6日、上海の地元紙、新民晩報が報じた「特大事件」のスクープを転載したところによると、上海の地元検察当局が「最近」、未成年者の売春と売春斡(あっ)旋(せん)事件で20人を起訴した。客7人以外は少女とみられ、うち2人は14歳。少女らは中学や高校、専門学校など9校の生徒だった。
売春は2009年末から始まり、幼なじみの3人がネットや電話で男性客を探し、相互に客を紹介する形で徐々に“参加者”を広げていった。紹介料は客1人当たり300元(約3600円)前後。ある少女は2010年初め、同級生の少女から連絡を受けてホテルに向かい、男性客から1400元(約1万7千円)を受け取り、紹介料として同級生に15%を支払った。
検察官は新民晩報の取材に対し「少女らの家庭は貧しくない。享楽や小遣いのために積極的に売春し罪悪感もない。固定客が“サークル”を形成しており、日本の『援助交際』に似ている」と主張。さらに家庭や学校での道徳教育の欠如とともに「一部少女は日本や台湾などの腐敗文化の深刻な影響を受けていた」と述べ、原因の一端を日本文化に結びつけた。
広がる波紋
中国の売春は従来、農村地帯の貧しい女性が収入のために身を売るという図式が一般的だったようで、中高生が小遣いのために性交渉をしていた今回の事案はさまざまな反応を呼んだ。
中国共産党の機関紙、人民日報(電子版)は11月9日、台湾での援助交際は、日本の影響だとする記事を掲載。原田真人監督が「コギャル」を題材にした1997年の映画「バウンス ko GALS」が上映されて以降、台湾でも援助交際が「蔓(まん)延(えん)」、少女売春の増加と低年齢化が問題になっていると指摘した。事例として、9歳の児童がネットゲーム用のカードほしさに16歳の少年とわいせつ行為に及んだ例を挙げた。
11月7日には、重慶の地元紙、重慶日報(電子版)が「上海の中学生売春事件から見る日本文化の侵入」と題するジャーナリストの論評を掲載。援助交際を「海を越えてきた黄色の癌(がん)」「日本文化の中国侵略」と表現した上で、日中戦争以来、「日本人は中国を滅ぼす野心を捨てていない」などと日本を非難した。
本当の原因は?
こうしたセンセーショナルな報道に加え、問題の背景に向き合おうとする試みもある。華僑向け通信社「中国新聞社」の週刊誌「中国新聞週刊」は11月18日発売号で、トップ記事で特集を展開した。
同誌は、上海で摘発された少女のうち5人が、父母の離婚など家庭環境に問題があると指摘。専門学校生の少女は、両親が国有企業の職員で収入も安定していたが、自身の将来は「希望が持てない」と悲観していたとした。
一方、2007年に援助交際を仲介するネット上に「17歳から7年間の売春で240万元(約3000万円)を稼いだ娘がいる」と羨(うらや)む自称中学生の投稿があったとも紹介。11月24日の人民日報(日本語電子版)は、2010年の都市部住民の可処分所得を年1万9千元(約22万8千円)としており、援助交際が貧富の格差を超える手段と認識されている実態を示唆した。
また、同誌は、中国青年政治学院が行った研究結果も取り上げた。大学生へのアンケートで、72%が援助交際と売春は別のものだと認識しており、「人々が援助交際を容認する態度を反映している」と指摘。その上で、「援助交際は物欲の激しい経済発展地区で発生する」もので、「消費概念や経済状況、愛情や友情、性的観念(の乱れ)が直接の原因だ」と結論付けた。
11月9日付の人民日報の記事は、最近の中国社会の拝金主義的な傾向を、ある女性の言葉を引用して嘆いている。「BMWの中で泣く方が、自転車に乗って笑うより良い。金持ちの愛人になる方が、貧乏人の正妻になるより良い」
2011.12.3 18:00
上海の援助交際事件を特集した週刊誌「中国新聞週刊」
中国の上海で11月上旬、売春をしていた中高生少女ら20人が一斉に摘発されたことが報じられた。地元検察官は「日本、台湾などの腐敗文化の影響を受けた『援助交際』だ」と指摘。波紋は中国各地に広がり、メディアには「日本による文化侵略」などと日本に責任を転嫁する論調が飛び出した。だが、事件の背景には、急速な経済発展で中国社会に生じた深刻なひずみがありそうだ。(田中靖人)
大規模摘発
中国国営新華社通信(電子版)が11月6日、上海の地元紙、新民晩報が報じた「特大事件」のスクープを転載したところによると、上海の地元検察当局が「最近」、未成年者の売春と売春斡(あっ)旋(せん)事件で20人を起訴した。客7人以外は少女とみられ、うち2人は14歳。少女らは中学や高校、専門学校など9校の生徒だった。
売春は2009年末から始まり、幼なじみの3人がネットや電話で男性客を探し、相互に客を紹介する形で徐々に“参加者”を広げていった。紹介料は客1人当たり300元(約3600円)前後。ある少女は2010年初め、同級生の少女から連絡を受けてホテルに向かい、男性客から1400元(約1万7千円)を受け取り、紹介料として同級生に15%を支払った。
検察官は新民晩報の取材に対し「少女らの家庭は貧しくない。享楽や小遣いのために積極的に売春し罪悪感もない。固定客が“サークル”を形成しており、日本の『援助交際』に似ている」と主張。さらに家庭や学校での道徳教育の欠如とともに「一部少女は日本や台湾などの腐敗文化の深刻な影響を受けていた」と述べ、原因の一端を日本文化に結びつけた。
広がる波紋
中国の売春は従来、農村地帯の貧しい女性が収入のために身を売るという図式が一般的だったようで、中高生が小遣いのために性交渉をしていた今回の事案はさまざまな反応を呼んだ。
中国共産党の機関紙、人民日報(電子版)は11月9日、台湾での援助交際は、日本の影響だとする記事を掲載。原田真人監督が「コギャル」を題材にした1997年の映画「バウンス ko GALS」が上映されて以降、台湾でも援助交際が「蔓(まん)延(えん)」、少女売春の増加と低年齢化が問題になっていると指摘した。事例として、9歳の児童がネットゲーム用のカードほしさに16歳の少年とわいせつ行為に及んだ例を挙げた。
11月7日には、重慶の地元紙、重慶日報(電子版)が「上海の中学生売春事件から見る日本文化の侵入」と題するジャーナリストの論評を掲載。援助交際を「海を越えてきた黄色の癌(がん)」「日本文化の中国侵略」と表現した上で、日中戦争以来、「日本人は中国を滅ぼす野心を捨てていない」などと日本を非難した。
本当の原因は?
こうしたセンセーショナルな報道に加え、問題の背景に向き合おうとする試みもある。華僑向け通信社「中国新聞社」の週刊誌「中国新聞週刊」は11月18日発売号で、トップ記事で特集を展開した。
同誌は、上海で摘発された少女のうち5人が、父母の離婚など家庭環境に問題があると指摘。専門学校生の少女は、両親が国有企業の職員で収入も安定していたが、自身の将来は「希望が持てない」と悲観していたとした。
一方、2007年に援助交際を仲介するネット上に「17歳から7年間の売春で240万元(約3000万円)を稼いだ娘がいる」と羨(うらや)む自称中学生の投稿があったとも紹介。11月24日の人民日報(日本語電子版)は、2010年の都市部住民の可処分所得を年1万9千元(約22万8千円)としており、援助交際が貧富の格差を超える手段と認識されている実態を示唆した。
また、同誌は、中国青年政治学院が行った研究結果も取り上げた。大学生へのアンケートで、72%が援助交際と売春は別のものだと認識しており、「人々が援助交際を容認する態度を反映している」と指摘。その上で、「援助交際は物欲の激しい経済発展地区で発生する」もので、「消費概念や経済状況、愛情や友情、性的観念(の乱れ)が直接の原因だ」と結論付けた。
11月9日付の人民日報の記事は、最近の中国社会の拝金主義的な傾向を、ある女性の言葉を引用して嘆いている。「BMWの中で泣く方が、自転車に乗って笑うより良い。金持ちの愛人になる方が、貧乏人の正妻になるより良い」