夢発電所

21世紀の新型燃料では、夢や想像力、開発・企画力、抱腹絶倒力、人間関係力などは新たなエネルギー資源として無尽蔵です。

吉野弘詩集より

2012-12-25 06:26:59 | 私の本棚

人もまた、一本の樹ではないだろうか
樹の自己主張が枝を張り出すように
人のそれも
見えない枝を四方に張り出す
身近な者同志、許し合えぬことが多いのは
枝と枝とが深く交差するからだ
それとは知らず いらだって身をよじり
互いに傷つき折れたりもする

 しかたのないことだ
枝を張らない自我なんてない
しかも人は、生きるために歩きまわる樹
互いに刃を交えぬ筈がない

「種子について」

 ---「時」の海を泳ぐ稚魚のように 
               すらりとした柿の種  

 人や鳥や獣たちが
 柿の実を食べ、種を捨てる
 ---これは、おそらく「時」の計らい
 種子が、かりに
 味も香りも良い果肉のようであったなら
 貪欲な「現在」の舌を喜ばせ
 果肉とともに食いつくされることだろう
 「時」はそれを避け
 種子には好ましい味を付けなかった
 硬い種子---
 「現在」の評判や関心から無視され
 それ故、流刑に迎合される必要もなく
 己を守り
 「未来」への芽を
 完全に内蔵している種子
 人間の歴史にも
 同時代の味覚に合わない種子があって
 明日をひっそり担っていることが多い
(「感傷旅行」所収)

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2 コメント

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成田さんへ (りんご)
2012-12-26 09:53:50
今日はひどい天気ですね。
家に居ながら山で遭難した
ような気分です。
りんごさんへ (な)
2012-12-27 09:35:56
この寒さ このどか雪の 静かなこわさ

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