*その5:飛ぶ
「どういう事だ?」
異物? 世界の防疫機構?
この説明頭巾は一体何を言っている?
「まあ客観的に理解出来る話ではないから、
そう簡単に呑み込める話でも無いだろうが」
「そうじゃよ。訳の分からぬ話で混乱するばかりじゃ。
今はそんな事をしている場合ではないというのに!」
アリスの大声が思考の渦に落ちかけた俺の意識を呼び戻す。
「事件は外で起きているのじゃ!」
指し示すのは窓の外。
「あのペガ牛をすぐに何とかせねば!
“ちきゅうがちきゅうが大ぴんち”なのじゃ!」
「おお、ふぁいやーまん。●谷の黒歴史」
「にゅるるー! 黒歴史ではないのじゃ!
うっかり作中で説明していない裏設定が多いだけなのじゃ!
キングザウラに負けたのはペンダントが無かったからなのじゃー!」
すまん。力説は結構なんだが俺にも分かる話にして欲しい。
「ともかく行くぞ弟よ! この街を救うのじゃ!」
アリスが俺の腕を取る‥‥って!
「なんでそっちに!?」
進んでいるのは窓の方向に思えるんですが!
「いざ! 正義のヒロイン、アリス推参なのじゃー!」
叫んで、アリスは窓の外へ!
「な、な───っ!?」
抵抗しようとしたが、物凄い力で引っ張られた。
あの小さな身体で一体どうやって‥‥。
「ふおーっっっ!! あいきゃんふらーい!」
叫びが街の空に響き渡る。
気が付けば俺は空を飛んでいた───逆さまの状態で。
「ぎゃーっっっ! おい、ちょ‥‥うああああっ!!」
そして迫り来る牛、牛牛牛の群れ!
「にゅにゅー!」
しかしそれらは俺と接触する直前で弾き飛ばされる。
ああもう一体何が何だか!
「どういう事だこれは! アリス!」
俺は上を振り仰ぐ。
そこには───箒に跨った少女が居た。
手にした杖を中心に浮かぶ複数の幾何学模様。
描かれた古代の文字は魔法の文言であると聞いた事がある。
つまり───。
「‥‥お前、魔法使いだったのか」
「そうじゃよ。アリスは、この世にはびこる悪を討つ、
正義の魔法使いなのじゃ!」
───魔法使い。
大気に存在するエリティルを用いて異能を行使する者。
伝え聞く話によれば、その力を持つのは万人に一人。
ベルフィエのような小さな街では、滅多に見る事の出来ない存在。
正直言って、魔法を目の前で見たのは初めてであり‥‥。
「なんじゃ、何故そんなに驚いた顔をしておる」
「だ、だってそりゃお前‥‥」
「あー、そうか。そういえば男は箒が使えぬから、
高い所は慣れておらぬのじゃったな。
姉うっかりなのじゃ」
い、いやそういう事ではなく!
「まあよい。ともかく重要なのは前を見る事じゃ。
あまり下を見ないようにするのが肝要ぞ」
言われて俺は下を見る。
「‥‥」
「‥‥どうしたのじゃ、弟よ?」
「‥‥ぎぃぃぃやゃーっっっっっ!!!
ななな、ナニコレ! 高い! 街が遠い!
人が芥子粒みたいに小さい!!」
役場の二階より高い所なんて登った事無いのに!
それが今はその数倍、いや数十倍の高さでしかも宙吊りで!!
「死ぬー! しんじゃうー!!」
「にゅー、じゃから下を見るなと言うたのに」
「そんな事言われたら余計に見るのが人情ってモンだろ!
おおお、下ろせ! 今すぐ俺を地面に帰してくれ!」
「ダメ」
魔女は冷酷に言い放つ。
「どうして!?」
「言ったであろ、事件は外で起こっておると。
この空こそまさに問題の現場。
闊歩するペガ牛の中こそ、我らの力を見せる所なのじゃ!」
「ち、力を見せるって、何で俺が‥‥」
あ。
不意に俺は自分の手の中に熱を感じた。
気が付けば、いつの間にか左手に例の木槌が握られていて。
「もしかして‥‥」
「そうじゃ。それこそお主の───否、我らが力。
歪みを質し、討ち滅ぼす槌」
アリスが言葉を切る。
そして上空を見た。
「!!!!」
突然、アリスが急加速で上昇を始める。
それはつまり、吊り下げられた俺も一緒という事で。
「ちょ、ちょちょちょちょっっ!!!」
「さあ喰らわせようぞ“撃ち滅ぼすモノ<ミョルニルの槌>”の一撃を!」
「喰らわせるって───どうやって!」
「もちろん、急降下の突撃で、じゃーっっ!」
「ぎゃーっっっっっっ!!!」
叫びと共に、俺とアリスは反転一気の降下を───。
「死ぬ───っっっっっ!!!!」
否、墜落を開始した。
「どういう事だ?」
異物? 世界の防疫機構?
この説明頭巾は一体何を言っている?
「まあ客観的に理解出来る話ではないから、
そう簡単に呑み込める話でも無いだろうが」
「そうじゃよ。訳の分からぬ話で混乱するばかりじゃ。
今はそんな事をしている場合ではないというのに!」
アリスの大声が思考の渦に落ちかけた俺の意識を呼び戻す。
「事件は外で起きているのじゃ!」
指し示すのは窓の外。
「あのペガ牛をすぐに何とかせねば!
“ちきゅうがちきゅうが大ぴんち”なのじゃ!」
「おお、ふぁいやーまん。●谷の黒歴史」
「にゅるるー! 黒歴史ではないのじゃ!
うっかり作中で説明していない裏設定が多いだけなのじゃ!
キングザウラに負けたのはペンダントが無かったからなのじゃー!」
すまん。力説は結構なんだが俺にも分かる話にして欲しい。
「ともかく行くぞ弟よ! この街を救うのじゃ!」
アリスが俺の腕を取る‥‥って!
「なんでそっちに!?」
進んでいるのは窓の方向に思えるんですが!
「いざ! 正義のヒロイン、アリス推参なのじゃー!」
叫んで、アリスは窓の外へ!
「な、な───っ!?」
抵抗しようとしたが、物凄い力で引っ張られた。
あの小さな身体で一体どうやって‥‥。
「ふおーっっっ!! あいきゃんふらーい!」
叫びが街の空に響き渡る。
気が付けば俺は空を飛んでいた───逆さまの状態で。
「ぎゃーっっっ! おい、ちょ‥‥うああああっ!!」
そして迫り来る牛、牛牛牛の群れ!
「にゅにゅー!」
しかしそれらは俺と接触する直前で弾き飛ばされる。
ああもう一体何が何だか!
「どういう事だこれは! アリス!」
俺は上を振り仰ぐ。
そこには───箒に跨った少女が居た。
手にした杖を中心に浮かぶ複数の幾何学模様。
描かれた古代の文字は魔法の文言であると聞いた事がある。
つまり───。
「‥‥お前、魔法使いだったのか」
「そうじゃよ。アリスは、この世にはびこる悪を討つ、
正義の魔法使いなのじゃ!」
───魔法使い。
大気に存在するエリティルを用いて異能を行使する者。
伝え聞く話によれば、その力を持つのは万人に一人。
ベルフィエのような小さな街では、滅多に見る事の出来ない存在。
正直言って、魔法を目の前で見たのは初めてであり‥‥。
「なんじゃ、何故そんなに驚いた顔をしておる」
「だ、だってそりゃお前‥‥」
「あー、そうか。そういえば男は箒が使えぬから、
高い所は慣れておらぬのじゃったな。
姉うっかりなのじゃ」
い、いやそういう事ではなく!
「まあよい。ともかく重要なのは前を見る事じゃ。
あまり下を見ないようにするのが肝要ぞ」
言われて俺は下を見る。
「‥‥」
「‥‥どうしたのじゃ、弟よ?」
「‥‥ぎぃぃぃやゃーっっっっっ!!!
ななな、ナニコレ! 高い! 街が遠い!
人が芥子粒みたいに小さい!!」
役場の二階より高い所なんて登った事無いのに!
それが今はその数倍、いや数十倍の高さでしかも宙吊りで!!
「死ぬー! しんじゃうー!!」
「にゅー、じゃから下を見るなと言うたのに」
「そんな事言われたら余計に見るのが人情ってモンだろ!
おおお、下ろせ! 今すぐ俺を地面に帰してくれ!」
「ダメ」
魔女は冷酷に言い放つ。
「どうして!?」
「言ったであろ、事件は外で起こっておると。
この空こそまさに問題の現場。
闊歩するペガ牛の中こそ、我らの力を見せる所なのじゃ!」
「ち、力を見せるって、何で俺が‥‥」
あ。
不意に俺は自分の手の中に熱を感じた。
気が付けば、いつの間にか左手に例の木槌が握られていて。
「もしかして‥‥」
「そうじゃ。それこそお主の───否、我らが力。
歪みを質し、討ち滅ぼす槌」
アリスが言葉を切る。
そして上空を見た。
「!!!!」
突然、アリスが急加速で上昇を始める。
それはつまり、吊り下げられた俺も一緒という事で。
「ちょ、ちょちょちょちょっっ!!!」
「さあ喰らわせようぞ“撃ち滅ぼすモノ<ミョルニルの槌>”の一撃を!」
「喰らわせるって───どうやって!」
「もちろん、急降下の突撃で、じゃーっっ!」
「ぎゃーっっっっっっ!!!」
叫びと共に、俺とアリスは反転一気の降下を───。
「死ぬ───っっっっっ!!!!」
否、墜落を開始した。