2009/11/25。
恋い焦がれたyasuくんとようやくスケジュールが合う。
此の日の僕は夜中1:00~の仕事なのであったが躊躇はなかった。
yasuくんは19:00に合流できるという。
帰りの道程と飯食って風呂入っての時間を考えると実質3時間の釣りだ。
yasuくんとは過去3回、釣りを共にしていた。しかし残念な事にあまり良い釣果には恵まれていない。
だがこの日は何か良い予感がした。3時間の時間制限。なにか不自由のある時の方が良い結果になる。
狙いはもちろん。
メバルだ。
yasuくんはどんなメバル釣りをするのだろう。
待ち合わせの港に時間より早く到着する。明るく照らされた岩壁際を覗いているとエイが泳いでいた。
わー!これは釣っとかなきゃ(外道賞狙いw)と急いでメバルタックルを引っ張り出す。
エイが何のルアーに反応するのか全く分からない。分からないからgulpを刺した。当然だ。
ひらひらと魂の抜けたように泳ぐエイの前にジグヘッドを落とす。
しかしエイは鬱陶しそうにひれをゆらゆらと曲げてgulpをよけて泳ぎ去った。
ううむ…。難敵だ。gulpでもだめかw
あほな事をしているうちに時間ぴったりにyasuくんが到着する。
「時間ないし行きましょうか!」
了解。あなたの全てを僕に見せて下さい。
yasuくんのポイント。待ち合わせの港に程近いあるシャロー。
目の前に巨大なストラクチャーが聳え、ショアとその間を流れる潮が凝縮され、加速され、早い。
水深は1.5m程。見渡す限りの広大な藻場。なるほど。
ここはこれしかないだろう。
仕掛け巻きに巻いたスーパーボールリグを取り出す。
今シーズンからついに封印を解いた。しかし恐ろしい飛距離だ。あそこも届く。ここも届く。たまらんw
1カ所目。
数投するが反応が無い。5分程経ったか。yasuくんが言った。
「移動しましょうか!」
早い!早過ぎる!なんという見切り。よほどこの場所を掴んでいる証拠か。
yasuくんの後ろを着いて海の中をじゃぼじゃぼとしばらく歩く。
2カ所目。
海に突き出た小さなふたつの岩にふたり並んで立ち、沖にむかってフルキャストした。
着水。リトリーブ。2、3回転巻いたあたりでyasuくんが話し掛けてくる。
それにひと言応えたところで
カッツーン!!!
金属音がするような硬質なあたりがロッドに響き渡った。
「おぉっとぉぉぉ!」
反射的にロッドを跳ね上げる。瞬間、月に照らされた遥か彼方で白い水柱が上がった。
「跳ねましたねぇ。シーバスですかねぇ。それともチヌかな」
yasuくんが落ち着いた口調で言う。
ゴンゴンゴンゴンと首を振る。振り続ける。
つくずく思うがシーバスの首振りの感触は尺メバルのもがきにそっくりだ。
ラインは0.5号PEだがガチ締めのドラグを緩める必要性を感じない。案外簡単に寄ってくる。走らない。
これがメバルであるといいなぁ、などとシー様に失礼な事を思ってしまう。
20m程に寄せたところでまた派手にエラ洗いをやった。
「シーバスですねぇ。なんか好かれてますねぇw」
そう言ってyasuくんが笑う。
足元まで来てようやくその魚は走った。LEDに照らされて澄みきった海中で銀色が閃く。
「結構でかいですよ!」
「やめてくれー」
ブレイクだけはごめんだ。
83deepの粘り腰ベリーと強じんなバットはその疾走をやんわりといなしてくれる。ラインも持ってくれた。
なんとかyasuくんの足元まで誘導する。空中のスーパーボールがびよんびよんと揺れる。
yasuくんはすんなりとグラスパーを下あごに掛けてハイ!っと手渡してくれた。
おお!これ!グラスパー。持ってみたかったんだよな~w
60半ば程か。スレンダーな魚体。きらめく海中に映える銀色が美しい。
嬉しかった。獲れて良かった。シーバスは嫌いではない。全然嫌いではない。
ただこのタックルで掛かって欲しくないだけだ。口にルアーを残したくないだけだ。
グラスパーのレバーをゆっくり引いてリリースする。ふ~。
そこでyasuくんが不吉な事を言った。
「あんなのうろうろしてたらメバルもいやでしょうねぇ」
それだけは困る。やめてくれ。
しかしそれは杞憂だった。
数投後。すぐ近くで馴染みのあたりが出る。メバルだ!26cm。
そのまた数投後また近くで25cm。
そして遥かロングキャストの沖でひときわ強いあたりが出て27cm。
いいっ!ここいいっ!yasuくんいいのっ!
なんて素晴らしいポイント。ここは僕の財産になる。
その後も釣れ続く。しかし時々止まる。そしてまた釣れはじめる。また止まり、また釣れる。
このリズムはなんだろう?考えながらリトリーブする。
ふと気付いた。あっ!と閃いた。
月だ。
空には真っ二つに割ったきれいな半月が、天頂からやや南の位置に輝いている。
切れ切れに浮かぶ雲がその月を隠したり照らせたりしていた。
釣れるのは月が隠れた時だ。
空を見ながらリトリーブした。月が隠れる。月が出る。手に伝わる短い時合はほぼそのリズムに合っていた。
月か…。
もちろん例外はあろうが今日のこの場所は月に支配されていた。明確に分かった。
長年の命題が解けた気がした。
命題「月は良いのか悪いのか」
「満月は釣れる」と釣りに出掛ける。しかし煌々と輝く満月の下でアオリイカ以外で良い思いをした事が無い。
特に天頂に輝く時間帯では海は沈黙する。
要するに影なのだ。フィッシュイーターは影に身を潜める。天頂に輝く月はその影を無くしてしまう。
より深い影を求めて魚は深く潜り込む。光の届かない岩の下や藻の中に。
食い気はあるはずだ。しかしその影をよほどタイトに狙わないと食ってこない。
それが出来ない。出来ていない。
思い出す。先シーズン舌”くんが言っていた。輝く月の下で。
「月が出るとメバルはテトラに入りますね。よほどタイトじゃなきゃ釣れないですよ。」
そうなのだ。この事なのだ。実感した。
今日この場所のメバルは月の輝きに従ってこまめに「そこにある何か」から出たり入ったりしている。
適当に流す僕のジグヘッドは「出た」時にしか射程距離に入っていないのだ。
空を見ると大きな雲がゆっくり流れ月が顔を出そうとしていた。
その空の風の上流にはもう雲は無かった。
澄んだ空に、輝く半月だけが取り残された。
そしてあたりが止まる。yasuくんが言った。
「移動しましょうか!」
OK。目立つストラクチャーの無い、このぺったりとしたシャローはこれまでだ。
また海の中をじゃぼじゃぼと歩き、大きな岩を越えた。
3カ所目。
嬉しい事にここにはテトラがある。しかも横からそのテトラ際を長く引ける角度。
思わず「わー」と声が出る。なんてタイムリーなポイントだろう。テトラだ。タイトだ。萌えた。
と思っていると何も無いシャローでフロートリグをキャストしていたyasuくんが連発する。
「こっちいっぱいいますよー」
えっ!と思うが投げてみて納得する。
ここは藻が異常に濃い。着水直後のリトリーブでもスローシンキングのスーパーボールが藻に触れる。
2gのジグヘッドも引けない。シンキングミノーなんて完全にアウトだ。
影が近い。強制的に魚の潜む影をタイトに流す事になる。射程距離に入るのだ。
そしてひとつのポイントを見つける。それは足元だった。
遠く沖から続く藻場がなぜかそこだけ切れている。垂直に立ち上がる海藻。そのきわで連発。影だ。
yasuくんが27cmを上げる。僕も何本か掛ける。
間違っていない。わずかに傾いた月からその藻の垂直な立ち上がりは背中を向けているのである。
テトラが目に入る。試してみたい事がある。そちら側に立っていたYasuくんに声をかけた。
「テトラ、打ってみたいんだけど…」
「あっどうぞどうぞ」
テトラの延びる延長線上のやや海側に月は浮かんでいた。テトラの沖に影は出来ていない。
ジグヘッド2gにビームスティックを刺した。
10m沖を狙ってキャストしてみる。何も起きない。
5m沖を流す。何も起きない。
2m。同じ。
そして根掛かり覚悟で「10cm沖」をイメージしてキャストした。上手く入る。
リトリーブ。
こんっ!
ジグヘッド特有のきれいなあたりが出る。一瞬テトラに潜られたが引き出した。
27cm。
タイトだ。
時計を見ると21:00。あまり時間がない。
「もう1ヶ所案内したいところがあるんですけど!」
yasuくんがうずうずしたように言う。
望むところです。こちらからお願いします。
車に乗り込み、後ろに着いて305をすっ飛ばす。はえ~この人。なんでもはえ~。ハンドルを真剣に握った。
ずいぶん走る。かなり走る。
まだかなぁと思いはじめたところでめったに点灯しなかったブレーキランプが赤く輝きウィンカーが右に出た。
ここかぁ!
ここは知っている。嬉しかった。ポイントが合う。
100m程離れた場所にほんの2日前にも入っていた。昼間。シーバスだ。1本バラシた。
調子に乗ってシーバスロッドを買ってから3本目のバラシだった。世の中そんなもんだ。
しかし夜、ここに入った事は無かった。
でかいメバルいるんだろうなーと思ってはいたがなんだかものすごく気色悪くてひとりでは入れなかったのだ。
礒場。ごろごろと大岩が転がりショアから10m程に根が点在する。
そこから3mのブレイクになり100m沖は砂地だ。
夏に良くここで泳いだ。魚も貝も豊富。言うこと無しの1級ポイントである。
「ここ知ってますよ」
「えぇ~そうなんですか?」
「何年か前にyasuくん見かけた事あります。友人があれが飯田くんやって教えてくれたのw」
「友人って?」
「すえもんっていいます」
「あ~すえもんさんですか!何回か話した事あります!彼はベイトで釣るんですよね~。あのスタイルに憧れてました!会いたいな~」
あの~yasuくんyasuくん…。
あんなのに憧れんでも良いですw会っても良い事無いですw
ポイントに入る。岩が林立する。所々の岩の間に海に延びる道がある。そこを通していく。
「つーさんはメバルで!僕はシーバス狙います!」
勝手が違う釣りに苦戦しているといきなりyasuくんの落ち着いた声が聞こえた。
「来ましたよ」
うわーいきなり。シーバス。べた凪なのに…。固定観念が崩壊する。ここは荒れないと出ないと思っていた…。
声も上げず簡単にいなし簡単にキャッチする。
60後半。太い。HALUCAの新作。シンキングバージョンらしい。
写真を撮りながらひとつの疑問を聞いてみた。
「シーバスルアーのカラーってどうやって決めるの」
「カラー?あ~なんでもいいですよっw」
なんて明快…。
釣り座を移動した。2m程の岩に登る。沖にいくつも根が有り丸く囲まれたような場所。
その光景に突然記憶が蘇った。ここは5年前にシーバスで立った岩だ。その日僕は10連続バラシに見舞われた。
デスのF6-69に20lbのPE。引き波が強く硬い短竿では対処が出来ずことごとく逃した。
この岩からも2本ばらしている。目の前の岩陰から水面のMaria the firstめがけて突き上げてきた。
うわー。シーバス恐いなぁ。このタックルでこの根だらけの場所では掛けたくないなぁ。
と思っていたらyasuくんが声を上げる。
「ここ。シーバスだらけですね~」
見るとまたロッドが曲がっている。
シーバスだらけ…。なんて恐ろしい響き。
メバルタックルを持つ僕の耳には「シーバスだらけ」が「血の池地獄」に聞こえる。
ずいぶんでかそうだ。あぁ…なんて…神…。何度も言うがべた凪なのだ。
そしてまたyasuくんは声を上げた。
「うわっ!潜られました~」
あちこちの岩を飛んでなんとかしようとしている。獲れるといいが。
さて。自分の釣りをしよう。メバル。いるはずだ。
さっきの月と影理論を思い返す。ここは影だらけだ。
空を見上げる。ずいぶん傾いた半月が左上方から照る。
振り向くと少し高いところに街燈がある。この場所は確実にあの街燈の影響を受けているはずだ。
街燈は歩いて回らない。過去から未来永劫まであの角度からここを照らし続けている。
それによる魚の付き場所を考える。当然影だ。でかいやつほど影だ。
しかし月も照っている。これは空を歩いて回る。今は左横からだ。
それによって左側に出る影は消滅させられる。影は岩の右前方の90°にのみ存在するはずだ。そこを狙おう。
小さくて尖った沈み根があった。弱い波で時々渦を巻く。右前方90°を狙うにはうってつけの角度にある。
ルアーはAthlete55Trout Tune。ここはPinTail tuneの飛距離もカウントダウンも必要ない。
根を狙って、投げた。少し外す。根から1m程離れる。だめだ。
もう一度投げる。根の真上やや右。入った。ここだ。集中してリトリーブした。
ゴンッ!
強烈に突き上げられる。しかし外す。あ~!。声が出る。トラウト用の極細のフックが1発で伸ばされた。
Pintail tuneに替える。フックが太い。
もう出ないだろうか。出ないだろうな…。あたりだけではなく一瞬乗せてから外したのだ。
同じラインを通す。1回。だめ。
2回目。ほぼあきらめかけていた。
が。
ゴン!
来た!
落ち着いてパシンッとあわせを入れる。重量が乗った。重い。走らずにその場で鈍重に暴れる。
ロッドを低くした。これはでかい。きっと太い。走らないメバルは太い。
10m足らずの近距離。ゆっくり寄せる。慎重に足元まで寄せ重さを測る。重い。28は確実。
手探りで横に置いたバッカンのふたを開けた。その中に落とそう。
ゆっくり抜き上げた。バッカンを狙って落とした。が、外す。僕のばか~。
メバルは不安定な岩の上に落ちた。べたんべたんともがく。
わ~まずい~。
慌ててしゃがみ込んでメバルを押さえた。押さえた手の感触は真ん丸だ。クマンバチのようにころんころんだ。
LEDを点ける。照らす。思わず声が出た。
「よっしゃ~!」
茶色くねばねばしているが僕にとっては宝石だ。その美しく澄んだ目は原石から覗く宝石その物ではないか。
28は余裕。29に絡む。自分に課しているメバルダービー登録サイズは確実に越えた。
バッカンに水を汲み泳がせる。計測は後だ。生きていれば縮んだりしないだろう。
(開高健よると魚は釣られると生きていても縮む。彼はそれを「恐縮する」と書いている。今思い出したw)
続ける。いくつかの沈み根を通す。が、出ない。
沖に抜ける水道を狙う。水道を越え沖に投げ、両脇の岩の影を意識してリトリーブする。
左側の岩。ややラインをこすらせながらギリギリを通過させた。
ゴン!
よしっ!合わせる。乗った。これもでかい!少し溜めて寄せようとした途端、外した…。あ~…。
もう乗っていた。乗りに乗っていた。投げ続ける。意識してオープンウォーターを流す。だめ。出ない。
根を意識してこすりつける。ロストしたって構わない。pintailなんていくらでもboxに入っている。
タイトなのだ。タイトでなければ出ないのだ。確信していた。
そしてその通り、答えが返る。
ゴン!あたる。外す。またあたる。また外す。なんて下手なのだ。いりいりする。
えいっと投げる。根を通す。またコンとあたる。しかし乗らない。
???
おかしい。pintailを見た。
ベリーのフックが2本。伸びていた…。最初のバラシで既に伸びていたのだ…。チェックしなかった…。ばか。
振り返ると遠くでyasuくんは写真を撮っていた。フラッシュが閃く。獲ったんだな。よかった。
時計を見た。22:30。タイムリミット。終了だ。
さっきの魚をyasuくんに見せる。
「うわっ!デカッ!」
この人の口からこの言葉を聞くのは何よりの快感だ。
計測する。メバル釣りで一番難しいのは計測の写真撮影だと思う。
おとなしくしててや~いいこやでな~などと声を掛けつつなだめる。
さあ鎮まったとカメラを構えシャッターを押そうとする瞬間必ずべたんと暴れる。それを繰り返す。
こいつは特にひどかった。
yasuくんに押さえてもらう。そーっと手を放した瞬間にシャッターを押そうとすると必ず暴れる。
もう10回以上やったと思う。
最初は暴れるたびに笑っていたyasuくんもそのうち笑わなくなった。いらいらし出したのだw
ようやく納得の写真が撮れた。は~ぁぁぁ。これに疲れ果てる。
これは何cmだろう。皆さんはどう思う?
yasuくんは29で文句無しと言う。しかし僕は28.5かなと思う。
「28.5ですね」
「いや~29でいいでしょ!」
「29…は…ん~微妙。28.5でいいですよ」
「29でいいですって!」
変な会話を続ける。これがすえもんとだと言ってる人間が入れ替わるw
判定は写真を見てもらいバーブレスくんにまかせる事にした。
そして翌日のやすや倶楽部を見ると29cmと読んだようだ。
でもねバーブレスくん。これ。本当の正確なところは28.7cmですよw
計測中に(凪ぎなのにw)whoozyさんが合流する。このメバルを見て彼は低い声で呟いた。
僕は聞き逃さなかったよぉw
「がんばろっと…」
ここでお別れ。楽しかった。心から。
車へ向かう一人の時間。今日を振り返る。
そして思った。
yasuくん。
濃いよぉ。
特濃180分であった。
TACKLE DATA
ROD/Glamour Rock Fish TR83deep
REEL/EXIST2004
LINE/Daiwa Emeraldas SENSOR 0.5号+7lbフロロ
LURE/ jighead0.4g+do-yodama+beamfish(seabass+mebaru)
jighead2g+beamstick
Athlete55 pintailtune
Moon DATA
恋い焦がれたyasuくんとようやくスケジュールが合う。
此の日の僕は夜中1:00~の仕事なのであったが躊躇はなかった。
yasuくんは19:00に合流できるという。
帰りの道程と飯食って風呂入っての時間を考えると実質3時間の釣りだ。
yasuくんとは過去3回、釣りを共にしていた。しかし残念な事にあまり良い釣果には恵まれていない。
だがこの日は何か良い予感がした。3時間の時間制限。なにか不自由のある時の方が良い結果になる。
狙いはもちろん。
メバルだ。
yasuくんはどんなメバル釣りをするのだろう。
待ち合わせの港に時間より早く到着する。明るく照らされた岩壁際を覗いているとエイが泳いでいた。
わー!これは釣っとかなきゃ(外道賞狙いw)と急いでメバルタックルを引っ張り出す。
エイが何のルアーに反応するのか全く分からない。分からないからgulpを刺した。当然だ。
ひらひらと魂の抜けたように泳ぐエイの前にジグヘッドを落とす。
しかしエイは鬱陶しそうにひれをゆらゆらと曲げてgulpをよけて泳ぎ去った。
ううむ…。難敵だ。gulpでもだめかw
あほな事をしているうちに時間ぴったりにyasuくんが到着する。
「時間ないし行きましょうか!」
了解。あなたの全てを僕に見せて下さい。
yasuくんのポイント。待ち合わせの港に程近いあるシャロー。
目の前に巨大なストラクチャーが聳え、ショアとその間を流れる潮が凝縮され、加速され、早い。
水深は1.5m程。見渡す限りの広大な藻場。なるほど。
ここはこれしかないだろう。
仕掛け巻きに巻いたスーパーボールリグを取り出す。
今シーズンからついに封印を解いた。しかし恐ろしい飛距離だ。あそこも届く。ここも届く。たまらんw
1カ所目。
数投するが反応が無い。5分程経ったか。yasuくんが言った。
「移動しましょうか!」
早い!早過ぎる!なんという見切り。よほどこの場所を掴んでいる証拠か。
yasuくんの後ろを着いて海の中をじゃぼじゃぼとしばらく歩く。
2カ所目。
海に突き出た小さなふたつの岩にふたり並んで立ち、沖にむかってフルキャストした。
着水。リトリーブ。2、3回転巻いたあたりでyasuくんが話し掛けてくる。
それにひと言応えたところで
カッツーン!!!
金属音がするような硬質なあたりがロッドに響き渡った。
「おぉっとぉぉぉ!」
反射的にロッドを跳ね上げる。瞬間、月に照らされた遥か彼方で白い水柱が上がった。
「跳ねましたねぇ。シーバスですかねぇ。それともチヌかな」
yasuくんが落ち着いた口調で言う。
ゴンゴンゴンゴンと首を振る。振り続ける。
つくずく思うがシーバスの首振りの感触は尺メバルのもがきにそっくりだ。
ラインは0.5号PEだがガチ締めのドラグを緩める必要性を感じない。案外簡単に寄ってくる。走らない。
これがメバルであるといいなぁ、などとシー様に失礼な事を思ってしまう。
20m程に寄せたところでまた派手にエラ洗いをやった。
「シーバスですねぇ。なんか好かれてますねぇw」
そう言ってyasuくんが笑う。
足元まで来てようやくその魚は走った。LEDに照らされて澄みきった海中で銀色が閃く。
「結構でかいですよ!」
「やめてくれー」
ブレイクだけはごめんだ。
83deepの粘り腰ベリーと強じんなバットはその疾走をやんわりといなしてくれる。ラインも持ってくれた。
なんとかyasuくんの足元まで誘導する。空中のスーパーボールがびよんびよんと揺れる。
yasuくんはすんなりとグラスパーを下あごに掛けてハイ!っと手渡してくれた。
おお!これ!グラスパー。持ってみたかったんだよな~w
60半ば程か。スレンダーな魚体。きらめく海中に映える銀色が美しい。
嬉しかった。獲れて良かった。シーバスは嫌いではない。全然嫌いではない。
ただこのタックルで掛かって欲しくないだけだ。口にルアーを残したくないだけだ。
グラスパーのレバーをゆっくり引いてリリースする。ふ~。
そこでyasuくんが不吉な事を言った。
「あんなのうろうろしてたらメバルもいやでしょうねぇ」
それだけは困る。やめてくれ。
しかしそれは杞憂だった。
数投後。すぐ近くで馴染みのあたりが出る。メバルだ!26cm。
そのまた数投後また近くで25cm。
そして遥かロングキャストの沖でひときわ強いあたりが出て27cm。
いいっ!ここいいっ!yasuくんいいのっ!
なんて素晴らしいポイント。ここは僕の財産になる。
その後も釣れ続く。しかし時々止まる。そしてまた釣れはじめる。また止まり、また釣れる。
このリズムはなんだろう?考えながらリトリーブする。
ふと気付いた。あっ!と閃いた。
月だ。
空には真っ二つに割ったきれいな半月が、天頂からやや南の位置に輝いている。
切れ切れに浮かぶ雲がその月を隠したり照らせたりしていた。
釣れるのは月が隠れた時だ。
空を見ながらリトリーブした。月が隠れる。月が出る。手に伝わる短い時合はほぼそのリズムに合っていた。
月か…。
もちろん例外はあろうが今日のこの場所は月に支配されていた。明確に分かった。
長年の命題が解けた気がした。
命題「月は良いのか悪いのか」
「満月は釣れる」と釣りに出掛ける。しかし煌々と輝く満月の下でアオリイカ以外で良い思いをした事が無い。
特に天頂に輝く時間帯では海は沈黙する。
要するに影なのだ。フィッシュイーターは影に身を潜める。天頂に輝く月はその影を無くしてしまう。
より深い影を求めて魚は深く潜り込む。光の届かない岩の下や藻の中に。
食い気はあるはずだ。しかしその影をよほどタイトに狙わないと食ってこない。
それが出来ない。出来ていない。
思い出す。先シーズン舌”くんが言っていた。輝く月の下で。
「月が出るとメバルはテトラに入りますね。よほどタイトじゃなきゃ釣れないですよ。」
そうなのだ。この事なのだ。実感した。
今日この場所のメバルは月の輝きに従ってこまめに「そこにある何か」から出たり入ったりしている。
適当に流す僕のジグヘッドは「出た」時にしか射程距離に入っていないのだ。
空を見ると大きな雲がゆっくり流れ月が顔を出そうとしていた。
その空の風の上流にはもう雲は無かった。
澄んだ空に、輝く半月だけが取り残された。
そしてあたりが止まる。yasuくんが言った。
「移動しましょうか!」
OK。目立つストラクチャーの無い、このぺったりとしたシャローはこれまでだ。
また海の中をじゃぼじゃぼと歩き、大きな岩を越えた。
3カ所目。
嬉しい事にここにはテトラがある。しかも横からそのテトラ際を長く引ける角度。
思わず「わー」と声が出る。なんてタイムリーなポイントだろう。テトラだ。タイトだ。萌えた。
と思っていると何も無いシャローでフロートリグをキャストしていたyasuくんが連発する。
「こっちいっぱいいますよー」
えっ!と思うが投げてみて納得する。
ここは藻が異常に濃い。着水直後のリトリーブでもスローシンキングのスーパーボールが藻に触れる。
2gのジグヘッドも引けない。シンキングミノーなんて完全にアウトだ。
影が近い。強制的に魚の潜む影をタイトに流す事になる。射程距離に入るのだ。
そしてひとつのポイントを見つける。それは足元だった。
遠く沖から続く藻場がなぜかそこだけ切れている。垂直に立ち上がる海藻。そのきわで連発。影だ。
yasuくんが27cmを上げる。僕も何本か掛ける。
間違っていない。わずかに傾いた月からその藻の垂直な立ち上がりは背中を向けているのである。
テトラが目に入る。試してみたい事がある。そちら側に立っていたYasuくんに声をかけた。
「テトラ、打ってみたいんだけど…」
「あっどうぞどうぞ」
テトラの延びる延長線上のやや海側に月は浮かんでいた。テトラの沖に影は出来ていない。
ジグヘッド2gにビームスティックを刺した。
10m沖を狙ってキャストしてみる。何も起きない。
5m沖を流す。何も起きない。
2m。同じ。
そして根掛かり覚悟で「10cm沖」をイメージしてキャストした。上手く入る。
リトリーブ。
こんっ!
ジグヘッド特有のきれいなあたりが出る。一瞬テトラに潜られたが引き出した。
27cm。
タイトだ。
時計を見ると21:00。あまり時間がない。
「もう1ヶ所案内したいところがあるんですけど!」
yasuくんがうずうずしたように言う。
望むところです。こちらからお願いします。
車に乗り込み、後ろに着いて305をすっ飛ばす。はえ~この人。なんでもはえ~。ハンドルを真剣に握った。
ずいぶん走る。かなり走る。
まだかなぁと思いはじめたところでめったに点灯しなかったブレーキランプが赤く輝きウィンカーが右に出た。
ここかぁ!
ここは知っている。嬉しかった。ポイントが合う。
100m程離れた場所にほんの2日前にも入っていた。昼間。シーバスだ。1本バラシた。
調子に乗ってシーバスロッドを買ってから3本目のバラシだった。世の中そんなもんだ。
しかし夜、ここに入った事は無かった。
でかいメバルいるんだろうなーと思ってはいたがなんだかものすごく気色悪くてひとりでは入れなかったのだ。
礒場。ごろごろと大岩が転がりショアから10m程に根が点在する。
そこから3mのブレイクになり100m沖は砂地だ。
夏に良くここで泳いだ。魚も貝も豊富。言うこと無しの1級ポイントである。
「ここ知ってますよ」
「えぇ~そうなんですか?」
「何年か前にyasuくん見かけた事あります。友人があれが飯田くんやって教えてくれたのw」
「友人って?」
「すえもんっていいます」
「あ~すえもんさんですか!何回か話した事あります!彼はベイトで釣るんですよね~。あのスタイルに憧れてました!会いたいな~」
あの~yasuくんyasuくん…。
あんなのに憧れんでも良いですw会っても良い事無いですw
ポイントに入る。岩が林立する。所々の岩の間に海に延びる道がある。そこを通していく。
「つーさんはメバルで!僕はシーバス狙います!」
勝手が違う釣りに苦戦しているといきなりyasuくんの落ち着いた声が聞こえた。
「来ましたよ」
うわーいきなり。シーバス。べた凪なのに…。固定観念が崩壊する。ここは荒れないと出ないと思っていた…。
声も上げず簡単にいなし簡単にキャッチする。
60後半。太い。HALUCAの新作。シンキングバージョンらしい。
写真を撮りながらひとつの疑問を聞いてみた。
「シーバスルアーのカラーってどうやって決めるの」
「カラー?あ~なんでもいいですよっw」
なんて明快…。
釣り座を移動した。2m程の岩に登る。沖にいくつも根が有り丸く囲まれたような場所。
その光景に突然記憶が蘇った。ここは5年前にシーバスで立った岩だ。その日僕は10連続バラシに見舞われた。
デスのF6-69に20lbのPE。引き波が強く硬い短竿では対処が出来ずことごとく逃した。
この岩からも2本ばらしている。目の前の岩陰から水面のMaria the firstめがけて突き上げてきた。
うわー。シーバス恐いなぁ。このタックルでこの根だらけの場所では掛けたくないなぁ。
と思っていたらyasuくんが声を上げる。
「ここ。シーバスだらけですね~」
見るとまたロッドが曲がっている。
シーバスだらけ…。なんて恐ろしい響き。
メバルタックルを持つ僕の耳には「シーバスだらけ」が「血の池地獄」に聞こえる。
ずいぶんでかそうだ。あぁ…なんて…神…。何度も言うがべた凪なのだ。
そしてまたyasuくんは声を上げた。
「うわっ!潜られました~」
あちこちの岩を飛んでなんとかしようとしている。獲れるといいが。
さて。自分の釣りをしよう。メバル。いるはずだ。
さっきの月と影理論を思い返す。ここは影だらけだ。
空を見上げる。ずいぶん傾いた半月が左上方から照る。
振り向くと少し高いところに街燈がある。この場所は確実にあの街燈の影響を受けているはずだ。
街燈は歩いて回らない。過去から未来永劫まであの角度からここを照らし続けている。
それによる魚の付き場所を考える。当然影だ。でかいやつほど影だ。
しかし月も照っている。これは空を歩いて回る。今は左横からだ。
それによって左側に出る影は消滅させられる。影は岩の右前方の90°にのみ存在するはずだ。そこを狙おう。
小さくて尖った沈み根があった。弱い波で時々渦を巻く。右前方90°を狙うにはうってつけの角度にある。
ルアーはAthlete55Trout Tune。ここはPinTail tuneの飛距離もカウントダウンも必要ない。
根を狙って、投げた。少し外す。根から1m程離れる。だめだ。
もう一度投げる。根の真上やや右。入った。ここだ。集中してリトリーブした。
ゴンッ!
強烈に突き上げられる。しかし外す。あ~!。声が出る。トラウト用の極細のフックが1発で伸ばされた。
Pintail tuneに替える。フックが太い。
もう出ないだろうか。出ないだろうな…。あたりだけではなく一瞬乗せてから外したのだ。
同じラインを通す。1回。だめ。
2回目。ほぼあきらめかけていた。
が。
ゴン!
来た!
落ち着いてパシンッとあわせを入れる。重量が乗った。重い。走らずにその場で鈍重に暴れる。
ロッドを低くした。これはでかい。きっと太い。走らないメバルは太い。
10m足らずの近距離。ゆっくり寄せる。慎重に足元まで寄せ重さを測る。重い。28は確実。
手探りで横に置いたバッカンのふたを開けた。その中に落とそう。
ゆっくり抜き上げた。バッカンを狙って落とした。が、外す。僕のばか~。
メバルは不安定な岩の上に落ちた。べたんべたんともがく。
わ~まずい~。
慌ててしゃがみ込んでメバルを押さえた。押さえた手の感触は真ん丸だ。クマンバチのようにころんころんだ。
LEDを点ける。照らす。思わず声が出た。
「よっしゃ~!」
茶色くねばねばしているが僕にとっては宝石だ。その美しく澄んだ目は原石から覗く宝石その物ではないか。
28は余裕。29に絡む。自分に課しているメバルダービー登録サイズは確実に越えた。
バッカンに水を汲み泳がせる。計測は後だ。生きていれば縮んだりしないだろう。
(開高健よると魚は釣られると生きていても縮む。彼はそれを「恐縮する」と書いている。今思い出したw)
続ける。いくつかの沈み根を通す。が、出ない。
沖に抜ける水道を狙う。水道を越え沖に投げ、両脇の岩の影を意識してリトリーブする。
左側の岩。ややラインをこすらせながらギリギリを通過させた。
ゴン!
よしっ!合わせる。乗った。これもでかい!少し溜めて寄せようとした途端、外した…。あ~…。
もう乗っていた。乗りに乗っていた。投げ続ける。意識してオープンウォーターを流す。だめ。出ない。
根を意識してこすりつける。ロストしたって構わない。pintailなんていくらでもboxに入っている。
タイトなのだ。タイトでなければ出ないのだ。確信していた。
そしてその通り、答えが返る。
ゴン!あたる。外す。またあたる。また外す。なんて下手なのだ。いりいりする。
えいっと投げる。根を通す。またコンとあたる。しかし乗らない。
???
おかしい。pintailを見た。
ベリーのフックが2本。伸びていた…。最初のバラシで既に伸びていたのだ…。チェックしなかった…。ばか。
振り返ると遠くでyasuくんは写真を撮っていた。フラッシュが閃く。獲ったんだな。よかった。
時計を見た。22:30。タイムリミット。終了だ。
さっきの魚をyasuくんに見せる。
「うわっ!デカッ!」
この人の口からこの言葉を聞くのは何よりの快感だ。
計測する。メバル釣りで一番難しいのは計測の写真撮影だと思う。
おとなしくしててや~いいこやでな~などと声を掛けつつなだめる。
さあ鎮まったとカメラを構えシャッターを押そうとする瞬間必ずべたんと暴れる。それを繰り返す。
こいつは特にひどかった。
yasuくんに押さえてもらう。そーっと手を放した瞬間にシャッターを押そうとすると必ず暴れる。
もう10回以上やったと思う。
最初は暴れるたびに笑っていたyasuくんもそのうち笑わなくなった。いらいらし出したのだw
ようやく納得の写真が撮れた。は~ぁぁぁ。これに疲れ果てる。
これは何cmだろう。皆さんはどう思う?
yasuくんは29で文句無しと言う。しかし僕は28.5かなと思う。
「28.5ですね」
「いや~29でいいでしょ!」
「29…は…ん~微妙。28.5でいいですよ」
「29でいいですって!」
変な会話を続ける。これがすえもんとだと言ってる人間が入れ替わるw
判定は写真を見てもらいバーブレスくんにまかせる事にした。
そして翌日のやすや倶楽部を見ると29cmと読んだようだ。
でもねバーブレスくん。これ。本当の正確なところは28.7cmですよw
計測中に(凪ぎなのにw)whoozyさんが合流する。このメバルを見て彼は低い声で呟いた。
僕は聞き逃さなかったよぉw
「がんばろっと…」
ここでお別れ。楽しかった。心から。
車へ向かう一人の時間。今日を振り返る。
そして思った。
yasuくん。
濃いよぉ。
特濃180分であった。
TACKLE DATA
ROD/Glamour Rock Fish TR83deep
REEL/EXIST2004
LINE/Daiwa Emeraldas SENSOR 0.5号+7lbフロロ
LURE/ jighead0.4g+do-yodama+beamfish(seabass+mebaru)
jighead2g+beamstick
Athlete55 pintailtune
Moon DATA