「少年少女飛行倶楽部」表紙
(画像は文藝春秋社のWEBサイトから)
タイトルと冒頭の文章に惹かれて買った1冊……いや、「文章に惹かれる」ってのは性格じゃないですね。以下の文言が「飛行クラブの活動内容」として記載されていたので、展開がすごく気になったんです。少し長いけど、以下に活動内容の全文を引用します。
- あくまでも「自分自身が」飛行することを旨とする。たとえばペットボトルロケットなどは、非常に魅力的であることは否定しないものの、、本クラブの活動内容としてはふさわしくないと考える。紙飛行機、模型飛行機、ラジコンの類も全て同様である。
- 当然ながら、「落下」は「飛行」ではない。従って、パラシュートで飛び降りる、バンジージャンプなどは除外される。
- 航空機やヘリコプターなどでの飛行は除外される。なぜなら、これらの乗り物では風を感じることが出来ないからである。といって、遊園地の遊具の類は論外。遠心力でぶんぶん回っているような代物では「飛行」は出来ないと考える。
念のために付記しておくが、たとえばディズニーシーの「ストームライダー」のような劇場型体験飛行の類も、当然除外される。
- 究極的には、理想を言えばピーター・パンの飛行がベストである。「自分自身の力で」、「なんの助けも借りず」、「自由自在に空間を移動する」。また、道具を用いた例としては『ハリー・ポッター』シリーズや『魔女の宅急便』などが想起されるが、我々が魔法使いでない以上、また、魔法のほうきが現実には存在しない以上、あまり参考にはならないだろう。
- 現段階に於いて、諸処の条件を満たした「商業的飛行」はいくつか存在している。だが、利用料金はどれも非常に高額であり、また実施場所も遠方であり、中学生の部活動という意味ではあまり現実的とは言えない。また、人力飛行機の制作についても同様である。
これを読んだ瞬間、考え込んでしまいました。あくまでも自分自身が「飛ぶ」こと、航空機の利用はダメ、バーチャルリアリティーの類もアウト。この条件に合致する物はそうそうありません。せいぜい、パラグライダーやハンググライダー? でもグライダーは「航空機」なのでアウト。仮にセーフであってもそうそう実施できる物でもありませんが、いずれにしろ相当条件が厳しい。記述の中にある、「条件を満たした『商業的飛行』」ってなんだ…? 航空機以外で飛べる物……
正直、この答えが見たくて買った側面も大きいです。
ストーリーは中学に進学したばかりの女の子、佐田海月(さた みづき)の視点で
進んでいく「青春物」です。幼なじみにつきあわされて「飛行クラブ」に入部した海月が、変人部長や超甘えん坊な幼なじみ、高所平気症(高所恐怖症の逆。高さに対する恐怖心が無い)やツンデレ(?)なクラスメート達などなど、個性的な面々に振り回されつつ「飛行」を実現するために活動していきます。これはこれで読み物としては面白かったです。
で、最終的に「飛行」は実現するんですが…詳細はネタバレ防止ということでここには書きません(笑)。でもちょっと肩すかしを食った気分になったのも確か。「これってあり?」みたいな。
作者が「航空機」の定義を知っていて敢えてそうしたのであればしょうがないですけど、知らなかったのであれば、「ちょっとそこに座れ」と言いたくなる気分になりました。
本書を読み終わった後でもその理由が判らない方はWikipediaの「航空機」の項目でよいので見てください。個人的にはあの変人部長が航空機の定義を知らなかったとは考えにくいんだよなぁ…
飛行機マニアであるが故にちょいと採点は辛めになりましたが、物語としては良いできだと思います。
航空機にこだわりがない方(笑)で、青春物が読みたい人にはお勧めです。