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(86)直訳は誤訳 オバマ大統領広島演説より-2

2011年01月17日 | 翻訳いろいろ


2016年5月27日、オバマ大統領が広島を訪問し、そこで式辞が読み上げられました。この記事は、英語の原文と報道各社が公表した日本語訳を比較し、直訳は誤訳だということを書いたものです。

この記事の目次
・原文、私訳、原文の輪郭
・英文Aの解釈
・英文Bの解釈


~原文、私訳、原文の輪郭~

Remarks by President Obama at Hiroshima Peace Memorial
A) Seventy-one years ago, on a bright, cloudless morning, death fell from the sky and the world was changed.
B) A flash of light and a wall of fire destroyed a city and demonstrated that mankind possessed the means to destroy itself.
C) Why do we come to this place, to Hiroshima?
D) We come to ponder a terrible force unleashed in a not so distant past.
E) We come to mourn the dead, including over 100,000 in Japanese men, women and children; thousands of Koreans; a dozen Americans held prisoner.

私訳  『オバマ大統領広島訪問式辞』
A) 71年前のある朝。雲一つない青空に一発の爆弾が落され、広島は死の街へと一変したのです。
B) まぶしく光った次の瞬間、街は燃えあがり焼け野原となりました。この爆弾は人類を滅ぼす力を見せつけたのです。
C) 本日ここ広島で、ご列席の皆様方とお会いすることができました。
D') 核兵器廃絶に向けた願い、また、犠牲となった方々を悼む心は、私も皆様方も同じであります。
E') 10万人を超える日本人が命を落とし、そこには子どもも含まれています。数多くの朝鮮半島出身者、そして12人のアメリカ人捕虜も犠牲になりました。これは遠い過去の出来事ではありません。


原文の輪郭については『直訳は誤訳-1』で検討しました。以下がその要点です。
・オバマ大統領は礼儀正しさ、日本文化への敬意を持って式辞を読んだ。
・式辞の文体は、子どもにも理解できる優しい英語で書かれている。
・忌避の規則によって『原子爆弾』を言い換えている箇所がある。明確な訳出をする。
・人称代名詞weは『オバマ大統領と参列者』という意味で使われている。

以下、細部の検討に入ります。


~英文Aの解釈~

A) Seventy-one years ago, on a bright, cloudless morning, death fell from the sky and the world was changed.

朝日の訳文を見ると『on a bright, cloudless morning』を『明るく、雲一つない晴れ渡った朝』と直訳しています。そのため、日本語として違和感のある表現になっています。『明るい、雲一つない、晴れ渡った』という修飾語(形容詞)は、日本語では、本来『朝』を修飾することばではなく『空』を修飾することばです。『明るく、雲一つない晴れ渡った空』とすれば、まだましだったことでしょう。

更に、朝日の訳文に違和感を感じる原因は、訳文の中で修飾語(形容詞)を三つも連続させたことです。英語では形容詞が二つ、三つと連続することがありますが、日本語では形容詞を連続させることは馴染まない(忌避する)という特徴があります。当たり前のことですが、言語によってルールが違うのですから、英語の文法規則を日本語に持ち込むことはできません。直訳できないということです。

連続した形容詞を日本語に訳出する方法を説明させていただきます。次の英文は『複数の形容詞の順序』からの引用です。

英文1 They have a lovely old red post-box.

学校では次のようなやり方で翻訳を教えます。英文を品詞分解する。単語をそれぞれ直訳し、語順を入れ替えるというやり方です。



直訳1 彼らは一つの、愛らしい、古い、赤い郵便ポストを持っている。

日本語ネイティブであれば『直訳1』のような言い方をしないですよね。形容詞を連続させることは、日本語には馴染まないからです。英語では一つの名詞に対し複数の形容詞で修飾することがしばしばあります。日本語でもこうしたことがないわけではありませんが、自然な日本語表現ではありません。英文1だけでは前後関係が分からないので意味を確定できませんが、次のような訳出が考えられます。

私訳1 (この街にある)あの赤い郵便ポストは、長い間大切に使われてきたようだ。
私訳2 (この街にある)あの赤い郵便ポストを見ると、何か懐かしさを感じる。
私訳3 (この街にある)真っ赤な郵便ポスト。レトロな感じがかわいらしい。

形容詞が名詞を修飾する形には、前置と後置の二通りがあります。英文1のように『形容詞+名詞』の形を前置修飾といいます。英語では、形容詞が連続して前置修飾する形がよくありますが、日本語では、このような言い回しは、不自然な日本語(エラー)になります。


これを解決するため、形容詞を後置修飾とする、または前置と後置に分けて修飾するというテクニックを使います。



次の英文では、4つの形容詞が前置修飾する形になっています。
英文2 The playroom has six small round plastic tables.

学校では次のようなやり方で翻訳をします。



直訳2 その遊戯室は、6つの、小さな、丸い、プラスチックのテーブルを持っている。

英語ではsix small round plastic(形容詞×4)と形容詞が四つ並ぶ形ですが、これを直訳したのではおかしな日本語になります。日本語ネイティブはこうした言い回しをしません。英文2だけでは前後関係が分からないので意味を確定できませんが、次のような訳出が考えられます。

私訳4 遊戯室には小さなテーブルが6つあり、天板は丸くプラスチック製であった。
私訳5 遊戯室の中に小さな円卓が6つ置かれていて、天板はプラスチック製であった。
私訳6 プラスチック製の小さな円卓が6つ、遊戯室にあった。

以上の例でお分かりになったと思いますが、英語の文では形容詞がいくつも連続して名詞を修飾する場合があります。これは英語の表現として全く問題ないのですが、この連続した形容詞をそのまま直訳すると、日本語として理解しにくい不快な文章になります。このような場合、後置修飾の形に変える。前置と後置に分けて修飾させると、自然な日本語に訳出することができます。これは意訳ではありません。忠実な原文解釈を守りつつ、正しい日本語に翻訳する、そういう手法です。英語の授業の中でこうしたことは教えません。これを教えてしまうと、直訳で教えることができなくなるので都合が悪いからです。

外国語を勉強する時の基本になりますが、言語構造が違う二つの言語間で直訳は成り立たない、一語一訳は成り立たないということがあります。ところが学校英語では、英語の文法構造をそのまま日本語に持ち込む直訳を教えます。例えば『A no more~than B~』という形を、日本では『クジラ構文』という形をこしらえて教えていますが、これは何とも滑稽なお話で、英語の文法規則に従って日本語を作文させているようなものです。これでは、まともな日本語文はできません。詳しくは『オバマ大統領就任演説 クジラ構文が当てはまらない』で書かせていただきました。クジラ構文で訳出すると、意味不明な日本語文になります。直訳は誤訳です。

通訳や翻訳のやり方について、学校では『直訳か意訳か』といった二者択一の枠組みで教えていますが、そもそも『直訳か意訳か』といった枠組みそのものが不適切なのです。翻訳(通訳)という作業は、直訳でも意訳でもありません。直訳や意訳とは全く異なる、第三の手法があります。英文Aを例に説明させていただきましょう。

英文Aを読み、大統領は何を言いたいのかを考え、頭の中でイメージを作ります(映像化)。英文を読んですぐにイメージを作れない場合は、ワン・フレーズ位の大きな単位に分け、そのフレーズがどのような慣用表現となっているかを調べるという方法がベターです。この時、英文を一つひとつの単語に細かく分け、それぞれの単語を辞書で調べるという作業はしない方が良いのです。これをやると誤訳をする危険性が高まります。英文Aから、以下の画像がイメージできます。

on a bright, cloudless morning, death fell from the sky
イメージ画像


こうしたイメージ化ができるかどうかが、原文解釈の勝負どころになります。『なるほど。大統領はこうしたことを言いたいんだな』と、クリアなイメージができたら、次はこのイメージに相応しい日本語に訳出します。訳文を作る場合、英語の語彙、品詞、時制など英語のルールは全て頭の中から排除しなければなりません(原文放棄)。日本語の訳文を作るのですから、日本語のルールで訳文を作らなければならないからです。

報道各社は『death fell from the sky』を『死が空から降った』と直訳していますが、上のイメージ画像から判断して『死が空から降った』という表現が、的外れだということが理解できると思います。空から降ってきたのは『爆弾』です。『死』ではありません。器の形が変われば中に入ってる水も形を変えるように、ことばの意味も、文脈が変われば自由に変化をします。deathが爆弾という意味をもつ場合もあるのです。学校では『death=死』と一語一訳式の解釈をさせますが、こうした教え方が根本的に間違っているということです。

『輪郭を捉える』で書かせていただきましたが『death fell from the sky』というのは『原子爆弾』のことを英語の修辞表現で言い換えたものです。英語には同じことばを繰り返すことを毛嫌いする、忌避の規則があるので、原子爆弾のことを『death fell from the sky』と言い換えています。英語のネイティブは『death fell from the skyは、原子爆弾のことだな』と理解しています。

これも『輪郭を捉える』で書いたことですが『死が空から降った』という表現を日本人が読むと『死の灰が降ってきた』という意味だと誤解します。読む人に誤解を与えるあやふやな訳文が商品として価値があるのでしょうか?プロの翻訳者であれば、訳文に少しでも日本語として違和感(エラー)があれば、違和感のない訳文に訂正しなければなりません。訳文の中からエラーを排除し品質を向上させることも翻訳者の仕事です。読みにくい日本語訳、誤解を生む日本語訳を公表するというのは、翻訳者の手抜きです。


and the world was changed.
イメージ画像


『the world was changed』も報道各社は『世界が変わってしまいました』と直訳しています。これでは『世界情勢(国際関係)に変化が生じた』という意味になりますが、これでは文脈から外れた唐突な表現です。大統領はそういうことを言いたかったのではありません。worldは、世界という意味のほか、生活、環境、風景という意味もあります。この文脈のworldは『広島のいつもの朝の風景。日常生活』を意味しています。従って『the world was changed』は『広島は死の街へと一変した』という意味を表しています。『world=世界』と一語一訳式に翻訳すると誤訳になるのです。

どの報道機関も『death=死、world=世界』と直訳しています。『death、world』は中学校で教わる基本語彙ですが、プロの翻訳者でも『death、world』をきちんと翻訳できていないのです。由々しきことだと思います。学校では『語彙を増やしなさい。語彙を増やせば英語が理解できるようになります』と教えますが、こうした詰め込み学習は外国語習得にとって弊害になるだけです。中学で覚える語彙を500~1,000程度に抑え、基本語彙の使い方、応用に時間を割いた方がもっと有益な学習になります。多くの語彙を覚えても『death、world』すら翻訳できないのでは、英語を理解しているとは言えませんよね。語彙を増やすだけの詰め込み教育は、百害あって一利なしです。

以上をまとめると、英文Aの解釈は次のようになります。
『今から71年前の朝。雲一つない青空に一発の爆弾が落された』
『広島は死の街へと一変した』

私訳
A) 71年前のある朝。雲一つない青空に一発の爆弾が落され、広島は死の街へと一変したのです。

この私訳は、意訳で作ったものではありません。原文に忠実に訳出したものです。



~英文Bの解釈~

B) A flash of light and a wall of fire destroyed a city and demonstrated that mankind possessed the means to destroy itself.

B) A flash of light and a wall of fire
イメージ画像


『A flash of light』に対し、どの新聞社も『閃光』という訳語を選択していますが、この訳語は、原文と目的言語の等価な関係を壊します。『輪郭を捉える』で書かせていただきましたが、式辞には日本人でも理解できる易しい英語で表現しようという大統領の意図が込められているのですから、『閃光』という普段聞きなれないことばを選択するのではなく、『まぶしく光った』と小学生でも理解できる訳語を選択するべきです。原文が、子どもにも分かることば使いをしているのに、科学者が講義を語るような口調で訳出したら、原文と訳文の等価性が壊されることになります。こうした訳文は間違いです。原文に忠実に翻訳するのであれば、原文と訳文の間で等価性が確保されていなければなりません。

報道各社の訳文を見ると『a wall of fire=炎の壁、火柱、火の海』と訳出しています。街が燃えてる様子を言い表すのに『炎の壁』という日本語表現はありません。a wall of fireは、通りに面した建物が燃え上がる様子をイメージしたものです。また、原爆被害を解説する日本語資料の中で『炎の壁が街を破壊した』と表現するものがあるのでしょうか?そんなおかしな日本語で書かれた資料はないはずです。『炎の壁が街を破壊した』は、英単語を直訳し並び替えただけのキテレツ文で、これは日本語ではありません。


destroyed a city
イメージ画像


『a wall of fire destroyed a city』はお決まりの表現で、『大火災が起こり街は焼き尽くされた』という意味です。式辞の文脈でいえば『街は燃えあがり焼け野原となった』ということで、destroyed は、焼け野原になったという意味です。『destroyed=破壊した』と直訳するから誤訳になるのです。


and demonstrated that mankind possessed the means to destroy itself
イメージ画像


報道各社は『人類が自分自身を破壊する手段を手に入れたことを示した』と訳出していますが、これでは何を言いたいのかピンときません。『破壊』ということばは『建造物・器物・秩序・組織などをこわすこと』と定義されています。破壊はモノに対して使われることばで、基本的に人に対して使われることばではありません。一方『滅ぼす』は、人、モノ両方に使うことができることばです。プロの翻訳者であれば『自分自身を破壊する』と違和感を与える訳語を選択するのではなく『滅ぼす』という訳語を選択しなければなりません。

大統領が言いたいのは『原爆の大きな破壊力は人類を滅ぼす脅威となった』ということです。私訳では『この爆弾は人類を滅ぼす力を見せつけた』と訳出しました。このようにはっきりと意味が分かる日本語に訳出しなければなりません。『demonstrated=示した』『possessed=手に入れた』『the means to destroy=破壊する手段』と直訳するから、意味不明な日本語になるのです。単に字面を訳すのが翻訳ではありません。大統領の意図を理解し、それに等価な日本語に置き換えることが翻訳です。

以上をまとめると、英文Bの解釈は次のようになります。
『まぶしく光った』
『街は燃えあがり焼け野原となった』
『この爆弾は人類を滅ぼす力を見せつけた』

私訳
B) まぶしく光った次の瞬間、街は燃えあがり焼け野原となりました。この爆弾は人類を滅ぼす力を見せつけたのです。


大手報道機関で、通訳者、翻訳者として働いている方は、優秀な人材として選ばれた方で、大学で英語を学び、TOEICで高得点を取り、流暢に英語を話せる方々だと思います。ところが、この記事で書かせていただいたように、名詞の基本語『death、world』の解釈ができていない、形容詞の翻訳ができていない、日本語として成り立つ訳文を作ることができていません。基本が全くできていないのです。この式辞は中学レベルで理解できる英文です。中学レベルの英文すらまともに翻訳できないのは、中学高校で、直訳、一語一訳といった偽りの言語観を植え付けられているからです。

『始めのうちは直訳で英語の基本を学習し、あとで意訳を覚えればよい』とおっしゃる先生がいますが、これは間違いです。基礎的な言語観が直訳思考で作られてしまった場合、あとになってその思考パターンを覆すというのは、不可能に近いことです。中高6年の間直訳で学習して、仮に言語観の修正を試みたとして、最も早いケースで、6年は費やすことになるでしょう。頭では『言語には恣意性がある』と分かっていても、一度体に染みついた直訳思考を変えるのは不可能に近いことです。言語観の修正がいかに困難であるかは、この記事で紹介した報道各社の直訳文を見れば一目瞭然ではないでしょうか?誤解をされないよう付け加えておきますが、私は意訳が正しい翻訳手法だとは思いません。直訳や意訳は学校英語が考える翻訳手法ですが、それとはまったく異なる翻訳手法があると思っています。

根がない草花に水をやっても育たないように、沢山の語彙を覚え、試験で高得点を取り、流暢な英語を話せても、言語に対する基本的な見方が間違っていたら成長はしないんです。



ホセア2:18~20 リビングバイブル
18.その時わたしは、もうこれ以上、互いに恐れることがないように、あなたと野獣や鳥や蛇との間に契約を結ぼう。すべての武器を滅ぼすので、戦争はすべて終わる。あなたたちは、何の心配もなく休むことができる。
19.正義と公平、愛とあわれみの鎖で、永遠にあなたをわたしにつなぎとめる。
20.真実と愛をもって、あなたと婚約する。その時、以前とは全く違って、ほんとうにわたしがわかるようになる。



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