蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

レヴィストロースを読む 番外 序曲とテーマ変奏曲のまとめ 

2017年10月27日 | 小説
(2017年10月26日)
レヴィストロースの著書「Le cru et le cuit」(生と調理)の解説を10月10日から掲載しております。昨日(26日)が6回目の投稿で初回(表題は「神話と音楽」)と合わせ7回の投稿となりました。そのまとめとしての本投稿です。
神話解析、レヴィストロースの手法は序曲に記述されています。
1 外界(存在)をどの様に認識するか(構造主義の理念)
2 神話の内部構造(ここまでが序曲)
本文(第一楽曲)に入り第一楽章の表題は「テーマと変奏」
3 神話1~12を取り上げ、構造神話学の手法で(序曲で開陳した通りに分かり易く)解析している。

1~3を詳しく説明します。
外界の認識(1)について。
存在の中には混沌と記号(秩序)が共存している。記号を覚知(perception)すれば秩序ある(神が創造した)本質を知る事ができる。敬けんなクリスチャン、メルロポンティが唱えた現象論です。レヴィストロースはこの現象論を一歩、無神論として、進めて「秩序と混乱は共存ではない、対立している」「本質とはその対立構造にある」とパラダイム変換させた。
<des filaments epars se soudent, des lacunes se comblent, des connexeions s’etablissent, qulequechose qui ressemble a un ordre transparait derriere le chaos>(11頁)
訳;(星雲がぼんやりした周辺から中央の輪郭に至る外観を混乱と秩序に比喩して)分散している光芒が寄り集まり、間隙が埋まり、なにやら秩序だった物がカオスから抜け出る。

秩序とは思想である。故に存在と思想との対峙が構造主義である。前作のTristes tropiques悲しき熱帯で論じています。

神話の構造について(2)
レヴィストロースはカントのentendementを導入します。その意は=Fonction de l’esprit qui consiste a relier les sensations en systeme coherent=感性を一貫性ある体制に結びつける精神機能 (辞書robertから) 、分かり易く「理解力」とも訳される。神話構造に音楽、言語などとの関連を論ずるにあたり、知性と認識の人での共通性(universalite)を担保するためにカントの先験性を引用した。さらに続けて神話の表現は音楽、言語と同じく3分節に分かれるとした。1は要素(element)で人物動物行為など。2に状景(sequence、シークエンス)。3が骨格(armature)。
それぞれが対峙する「思想」を持つ。それは属性(propriete)、符号(code)、scheme(スキーム、これもカントの用語で先験的図式と訳される)。この手法、3分節とそれらの思想、これこそ構造神話学の神髄である。
神話をあらすじとして10~30行程度で紹介するが、分析はかならず「思想」側から肉薄している。例えばproprieteに関しては、ヒーローの「息子」とはどの様な立場か、父となぜ相克するのか、なぜ母と近親姦をしでかすのかを社会の構造、風習から説明を加える。まさに文化人類学者として、南米先住民のフィールドワークを通した経験が光る。

写真説明:観察されていたのは先住民族だけではなかった。構造主義者も観察されていた。「文化人類学のヒトって真っ白ね、毛むくじゃら」との正しい観察が(ボロロ語で)聞こえていた。毎朝、ボロロ式のシャワーを浴びる著者(同氏の著作から)

神話1~12について(3)
基準の神話1を紹介したあと、ボロロ族の邑落の構造を図で紹介します。東西に引かれた(仮想の線で)2の部に分離され、それぞれに4の支族を有します。支族は対向する部の一支族とのみ婚姻を結べる。部は族外婚、支族は族内婚。男は成人の精通を迎える頃に通過儀礼(initiation)を受け、共同の男屋に居住する。婚姻相手の女(小)屋(女系家族が持つ)には夜にのみ問う。さりげない紹介ですが、婚姻規定、居住空間の規定、それと服飾、行動、音楽演奏などにも厳格な取り決めがあります。
この民族誌の紹介のあと神話分析が始まります。神話を2群にわけて(ボロロ族のみ)とジェ語族の分析です。ここではsequenceの符号による解析を披露しています。
際だつのはボロロ族の「分断」を希求する意志です。分断とは夫婦、親子、義理の息子、ヒーロー(子、あるいは義理の息子)と村との分離です。母と子は(近親姦で)同盟する、子は祖母と同盟する、しかしこれがその後の分断を引き起こします。
分断とは分散。これがculture文化につながるとの思想です。そしてこれに対峙する思想は同盟、連続、nature自然です。自然から文化に移るという図式ではなく、放任放縦の(自然)から介入の(文化)に移る。ボロロ族神話とは世界の創造を謳っているとレヴィストロースが読み取りました。
(神話と音楽テーマと変奏を10月13、16、18、20、26日に投稿しています。次回から第二楽章、一部のソナタ、二部の小交響曲を紹介します、28日予定)

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