蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

ボロロの遺構、発見される2 (最終回)

2018年01月11日 | 小説

(2018年1月11日投稿)

K氏が指した土手の先には竹編み木組み、笹葺きの小屋、掘っ立て一棟。侘びしさ溢れる佇まいを見せていた。頃は今が松の内、新春の光こそ斜めに流れる真上から、その立ち姿はこの角度と今の刹那、誇らしげに見えた。しかし何やらかが異質である。屋根の組みの形に似通いこそ認められるも、ボロロ族の男屋とやはり違う。違いの根本が奈辺かと己の記憶を探る投稿子は、これはボロロならず、ボロボロであるためと分かった。
それにつけても目前の誇らしい立ち姿は、うらぶれ掘っ立てなりの見よがしの、腐れの果てにこの今朽ちるか、自壊か滅亡かを前にして、もはや土手脇には立ち続けられない諦めが、輝きひたすら、陽春の午後の晴れがましさとの対象にボロの居直り、見せつける異形が己の存在と自虐に酔っているのかも知れぬ。
零落振りに一か二条、投稿子(蕃神ハガミ)は落涙を許す頬を咎める事ができなかった。
そして気付いた、これはボロでもボロロでもましてボロボロですらない、涙ほろりのホロロだ。(発見された遺構の写真は前回1月6日投稿をご参照)

発見までの経緯、K氏はかく語る;
「昨年末の伐採作業が立木を倒し、藪を払うまで完了した。伐採された木々はトラックで取り払われたが、篠笹が小山の姿でこんもりしたまま残された。その状態は1月2日まで続いていた、この土手近辺は私(K氏)の散歩の行程なので日がな、伐採の作業を見ていた。しかしその下に建造物が残されていたなどとは思いもしなかった。当の作業員ですら、その存在には気付いていなかった」
気付いていたら大騒ぎした筈と言いたげのK氏。


ボロロ族の戦士、彼を目撃した日野市民はいまだ現れていない。

3日にはオホーツク低気圧が968ヘクトパスカルに気圧を下げた、台風並み。大陸高気圧の優勢さがひとしきり勝った。当然に西の強風が吹いた。お不動さんにお参りを試みた小老=投稿子の脚を、出がけの門脇で風の厳しさが止めた。年始、時ならぬこの強風は多摩の一帯を怖がらせた。
K氏は続ける;
「浅川の土手道でもこの辺りに上ると散歩者の影はめっきり減る。4日にもいつも通りに出たが早朝だったからか、散歩者の姿はどこにも見え無かった。儂が一番乗りだったのだろ、片付け残しの笹をみると全てが吹き飛ばされていた。小山だった跡地からボロロ男屋が出現した」
一旦住まいに戻って昼になって投稿子を呼びつけたのがこれまでの流れだった。
K氏は肝腎の質問には答えていない。百歩譲って、これがボロロの小屋としたらボロロ族が日野市浅川べりに徘徊している筈だ、しかし裸族の目撃など聞いた例しがない。そしてK氏の答えはとてつもなかった;
伐採の前、その地は小規模ながら原生林と原生藪の植生を恣にしていたのだが前提。「遙かの昔の植生だった」とK氏は伐採前の風情をひときわ懐かしんでおもむろに、
「幾千年幾万年の原生藪に囲まれていた。目の前のこの小屋は古代の遺跡を生きるが如くに残すモスポールに浸っていたのだ。なればこれは縄文人の遺構、一万年前から密かに立ち続けていたのだ」
「なんと、これを縄文の小屋と主張するのか」
かく疑問を投げるも、投稿子はK氏の主張を信じた。透けて見えるその構造、組み方編み方がニュートンなどの啓蒙書にイラストされている縄文小屋に酷似している。そしてK氏はニタリ不気味な笑いを返しながら;
「ボロロ族の祖先が陸続きになっていたベーリング海峡を渡ったのは一万三千年前と推定されている。その頃には列島弧に縄文人が生活を始めている。一方、新大陸に入った民族は、瞬く間と言えるほどの短期間、一~二千年で南北大陸を踏破した。とある部族がブラジル、マトグロッソ、ヴェルミリョ河畔に定着してボロロ族と自立した時期を一万年前とする。ボロロ族の神話形成時期とこの小屋の建造時期が同時、さらに両民族はシベリアバイカル湖畔に住んでいた古代のサハ民族を祖として共有する」
「ならばこれは縄文、すなわち古ボロロ族の遺構か」
「その通り」
年始早々に投稿子を呼びつけた理由がこの「古ボロロ族」の小屋の佇まい、屋根裏に潜む建築の技巧に絡んでいたとは。

古ボロロのホロリの小屋を後ろにしたK氏、新ボロロの戦士とに変身しここに住み込む決意。後ろは市の公共施設。

ボロロ族のKejara村落をレヴィストロースが訪問したのは1936年、あれから80年余が過ぎた。ボロロ族はその村落で神話的生活、 男屋生活、母系集団との確執をもはや送っていない。神話民族としてのボロロは消えた。K氏は古ボロロ族の小屋にしみじみと語りかけた;
「儂が新ボロロ族となって縄文小屋に住み着くぞ」

(ボロロの遺構、発見される 了)

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