夢のもつれ

なんとなく考えたことを生の全般ともつれさせながら、書いていこうと思います。

音楽と数学の葛藤

2012-05-09 | review
長年、音楽を聴いてるとそんなつもりはなくても調性だの和声だの旋法といった言葉と付き合わされる。
それで楽譜を見たり、音楽辞典を読んだりするけれど、ドとレが全音で、ミとファが半音なんて五線譜の間隔を変えておけと思ったり、長3度や増4度なんてバラバラな言い方はやめて4半音とか6半音って言えばいいじゃないかとイライラして放り出してしまう。
それとは別にアカペラで歌われる宗教曲の響きの美しさは格別のものがあって、そこに器楽が入って来ると濁った感じがして、それが純正律の響きなのかな、でもコンピュータでなんでもできる時代なんだから転調が自由な純正律楽器(ソフト?)を作ればいいじゃないかと思っていた。

この本は数学的に説明してくれるから、ぼくのイライラと疑問にかなり答えてくれた。
まず音階の話でいうと弦を張って、開放弦の音をド(C)だとすると真ん中を押さえて出る音は周波数が2倍のオクターヴ上のCになる。これが2倍音(2倍波)。
次に1/3のところを押さえて長い方(2/3の長さ)を弾いて出る音がソ(G)で、周波数は3/2倍(完全5度)。
つまり弦の長さと周波数は逆数の関係になっている(振動の周期の逆数が周波数の定義だけど)。
このソのさらに2/3の長さを弾くとレ(D)だが、元のドの9/4倍の周波数(2倍を超えている)だからオクターヴ上になるので、半分の9/8倍として(8/9のところを押さえて弾き)オクターヴ内に収める。
このように順次3/2倍(又は3/4倍)して、つまり3倍波を芋づる式に使ってラ(A)、ミ(E)、シ(B)、ファ♯(F♯)を作る。
ちょっと音楽を知ってる人なら五度圏になっていることに気づくだろう。

これを続けるとC♯、G♯、D♯、A♯、Fとなって、Cになる。
これがピタゴラス音律で、その名のとおり1オクターヴを12音に区切るのも2,500年前に遡る。
だが、実際にはCにはならない。
なぜなら12回目の音は3^12/2^18(2の18乗分の3の12乗)=2.02729となってずれてしまっているから。
音響的にも、数学的にも理にかなっていて完全数の12で終われると思ったのに残念。
そんなの大したずれじゃないと思うかもしれないが、チューニングの基本のラ(440Hz)の場合だとオクターヴ上が本来、880Hzなのが892.0076Hzになって、これはCの1/8音高い音(892.79784Hz)にほぼ近いからB♯とでも言うしかない。
この前、「けいおん!!」を見てたらギー太のネックが湿気で反って「半音の半分の半分ぐらいずれてる」って唯が言う場面があったけど、あれは単音だったと思う。
それがオクターヴだからずれは誰だってわかる。

この本には書いてないが、3/4の長さになるように弦を押さえて弾くと(周波数が4/3倍の)F(完全4度)になって、これをさっきと同じ手順で4倍波を使うとB♭、E♭、A♭、G♭…が導出できる。
計算すればわかるように(しなくても数学的に明らかだが)例えばF♯とG♭は異名異音である。

次に純正律だが、ピタゴラス音律から響きの悪い音をできるだけ単純な比の音に取り換えて響きを良くしたものと言っていいだろう。
具体的には3倍波と4倍波で直接できるF(4/3)、G(3/2)とCに、5倍波によってそれぞれ5/4を掛けて、A(5/3)、B(15/8)、E(5/4)とする。
D(9/8)はピタゴラス音律と同じで、これで白鍵の音が揃う。
これらの隣同士の間隔は全音が9/8又は10/9、半音が16/15なのでその点でも響きはまずまずのはずであるが、不揃いな間隔なので転調は困難である。
それとも関係するのだが、ピタゴラス音律では3/2の比であったDとAが40/27≒2.96/2とかなりずれていて非常にまずい。
そうした例が他にも多々あるため、純正律では変化のある多彩な音楽は不可能に近い。

ここまでで感じるのはピタゴラス音律には古代ギリシャの論理性と調和感が感じられ、純正律には古代ギリシャの学問を換骨奪胎しながら純粋で狭い思弁世界に閉じこもった中世ヨーロッパらしさがあるということ。

そういう意味では、完全に12音を均等割りにした平均律は正に合理主義的な近代の産物であり、すべての音が平等でかつ不協和なのは民主主義的だなと思わせる。
平均律は理論的にどの2つの音をとってもキレイに響かない。
なぜなら周波数を分けるには等比数列的に分けないといけないので、12音に分割するためには一般式で2^a/12(2の12乗根のべき乗a=0~12)となってすべて無理数になるから。
おもしろいことに五度圏でCからいちばん遠いF#=G♭が2^6/12=√2と正方形の辺と対角線の比になっている。
整数比を愛し、分数で書けない無理数を忌み嫌ったピタゴラスとは水と油。
古代ギリシャの論理性と近代の合理性は似て非なるものとまでいうのはちょっと無理があるけど。
それはともかくCに最も協和度の高いGですら2^7/12≒1.4983とずれがある。

実際のピアノの調律はそんな機械的なものではなく、いろいろやりくりをしているらしいが、やはり違和感を感じることはある。
ジャズと共演するためのアフリカから来日したミュージシャンがピアノの音を聴いて、「この楽器は音痴だ!」と罵倒したという。
パソコンやiPhoneで聴くmidi音源のピアノ・アプリはぼくでもそう思う。

この本のまだ半分も紹介していないので、また続きを書きたい。
ネット動画を探すと純正律と平均律の違いを聴かせたり、オシロスコープで見せたりしたものなど、いろいろあっておもしろい。
ただ純正律の美しさを演奏で聴かせようとしたものは、新鮮食材でも調理がねーといった感じ。
参考までに純正律平均律のウィキの英語版にリンクを張っておく。
一見しただけで、日本語版より内容がずっと充実していることがわかるだろう。

特に数学関係がそうなんだけど、ウィキを見る時はぼくはざっと英語版を見ることにしている。
日本語版が単なる翻訳ならまだいい方で、書いている人がちゃんと理解してないで縮こまった説明や数式を並べられるのは迷惑でしかない。



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