敢えて中学生・高校生向け講座とした。一般の人は経験則で分かっているからである。
第1講 水深から派生する「寄りかかり」の力
(1)「寄りかかり」の力は水圧から生じる。縦の水圧から横の力へ
水深のみに関係する縦の水圧から派生する水量の横への「寄りかかり力」について、一般に水圧と言われている。下図は縦の水圧が横の「寄りかかる力」と同じである事を示す実験である。
図 1
学校ではこのような器具で実験し、またはこのような図を示されて「水圧」の説明を受けるはずである。穴の空いたビーカーに水を入れる。水深が深くなるほど水圧が高まり水滴は下の穴ほど遠くに飛ぶ。 縦=横を示す奇跡の実験といえる。
(2)水圧はダムの大きさには関係しない。深さが同じなら水圧は同じ
下の図は小さいダムと大きいダムの水圧を示している。水圧はダムの表面積などの大きさに関係なく、専ら(もっぱら)、水の深さにのみ関係する事を示している。深さが同じな二つのダムの水圧は同じである。
2 図
3 図
水圧が同じであるからダムの壁面にかかる「寄りかかり」の力(矢印→)も同じである。しかし、1 図、2 図、3 図のように水圧に準じて「寄りかかり」の圧力は深いほどに大きくなる。そのためにダム建設は普通堤防の下の方を厚くして「寄りかかり」の力に対抗している。深くなれば下の方をより厚くしなければならないからだ。河川堤防の場合も同じである。もっとも、そうしないと自重で堤防やダム自体がもたないからでもある。
(3)「寄りかかり」の力は小さい。それは津波の力ではない
下図は岩手県沿岸広域振興局土木部宮古土木センターの津波時における諸力ベクトルの図である。宮古市鍬ヶ崎地区に計画している直立式=逆T字型防潮堤にかかる津波の力を分析的にばらばらにして、いろいろなベクトルで表している。例えば、一番上の「津波時衝突荷重」とは津波で沖から流されてきた船や漂流物が防潮堤にぶつかる力を表している。
ベクトル 中学校・高校で習う力の方向と大きさを表す記号。矢印の向きで力のかかる方向を表し、矢印の長さで力の大きさを表す。一般に「ベクトル的には…」等と普通語としても使われている。
4 図 (正面の断面が逆T字形になっている)直立式=逆T字型防潮堤にかかる諸力
岩手県は津波時に防潮堤にかかる主な力を下の5 図の太い線で囲んだ「津波時津波水圧(静水圧)」で示している。一番下のベクトルが一番長く(強く)、順次上にいくほど短く(弱く)なっている。下から上に整然としたこの力は、まさに「寄りかかり」の力である。津波時なのに「静水圧」という言葉の矛盾もさることながら、この「寄りかかり」の力が津波の力だという表現(考え)はおかしいと誰もが思う。
5 図 県庁の津波の力。「寄りかかり」の力(太線で囲まれた三角形)
津波の被災者に限らず沿岸や東北各地で津波の実態をいろいろな形で経験した人は津波の破壊力を経験則として知っている=経験知。特に津波の横に働く襲撃力は「津波水圧」とか貯水ダムの「寄りかかり」の力とは比較にならないくらい巨大である。それは俗に根こそぎと言われたり新幹線に例えられたりする。この図には津波の本当の力がどこにも表現されていない。設計者に経験知がないからだ。単に机上の設計であった事が逆証明されたと言える。
(4)「寄りかかり」の力以外の力は…
津波の本当の力を解説する前に、4図、5図の防潮堤にかかる全ての力のベクトルを調べてみると ──
6 図(4 図)
(上の方から)
津波時衝突荷重 上で説明している。沖から流されてくる船舶や漂流物がぶつかる力(笑)
津波時津波水圧(静水圧) 上で説明した。貯水ダムの「寄りかかり」の力と区別がない海水の「寄りかかり」の力である。波の高さから生じる微弱な力である。図で、衝突荷重はともかく、防潮堤を横から襲い防潮堤を横に倒そうと働く唯一の力である。弱すぎて、直立式=逆T字型防潮堤の強さの証明にはならない。はっきり言って意味が分からない。たんに防潮堤が津波を防止しているといいたいがためのようである…
津波時水塊重量 「寄りかかり」の力が派生する水圧。「寄りかかり」の力と表裏一体、分けようもなく同じものと言える。また逆T字型の底版表面の半分を上から押して支えていると言える(言えない言えない)。 注)水塊重量の縦の重量と横の「寄りかかり」の力への分散(ベクトルの状態/程度)は本物の物理の先生に教えてもらいたいものだ。
主働土圧(津波時) 津波時に海側から防潮堤土台にかかってくる力。ほか平時、地震時にもいろいろな方面から土圧がかかってくるという。御意、
自重 防潮堤そのものの重さ=力。防潮堤の重さは津波の防御力にとって大事な要素である。蛇足ながら巨大橋梁の丈夫さの99%(ほとんど)は自重を支えるためなそうである。
▽+11.17 おそらく、干潮時の宮古湾平均水位から防潮堤天頂までの高さ。11.7メートル
(他で D.L.+11.17と表記されているから、おそらく海面のダウンレベル(干潮時)あたりの意味であろう。ダウンロードではない)
▽T.P+10.40 東京湾平均海面水位(Tokyo Peil)から防潮堤天頂までの高さ。10.4メートル
▽+2.02 おそらく、干潮時の平均水位から岸壁地面、防潮堤底版表面までの高さ。2.02メートル
(5)津波の本当の力。津波の高さよりも横に動く「運動の力」である
津波の強い力は「寄りかかり」の力ではなく津波の「運動の力」に由来する。 運動の力=定数×質量×(スピード)の2乗 結論から言えばこの公式で表される力の事である。中学生はまだ習わないかもしれないが高校生は学校で必ず習っていると思う。いずれにしても詳しい説明は後にページを改めて解説するつもりであるが、すでに習っている高校生は、今、すでに直感的に、私がいいたい事を理解していると思う。「質量」は海水の重さである。1cc が1グラム、1 リットル 1 キログラム、1立方メートル1トンである。「スピード」は津波の沿岸を打つ速度。時速30キロが観測されている。時速アバウト120キロという記録もある。遥か沖合ではそれこそ新幹線より速いともいわれている。詳しくは後としてここで感じてほしい事は時速30キロの津波と120キロの津波では、計算上その「運動の力」(例えば破壊力)に16倍の差があるという事である。スピードによって、防潮堤を打つ力が大きく違ってくる、という事である。上記(1)~(4)の「寄りかかり」の力などとは全く違った桁(けた)違いに大きな力である。
最初に書いたように一般の人はこの「運動の力」も経験則として知っているが、これからは大人も学生もない、3.11の大津波を、特に防潮堤の関係で検証する際、経験則も大事だが、一歩踏み込んで議論や実証をしなければならない。このブログでは、すでに何回もこの「運動の力」について述べていて、そちらを振り返って読んでいただいても中味は同じであるが、後ほどページを改めるのでよろしく読んでいただきたい。そして誤りや足りないところを指摘してほしい。何回目になるか分からないが講座名は「中学・高校(津波)講座(3)運動の力」となる予定。
おわり
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