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一刀両断!コラムで映画を三枚おろし。

『殺人の追憶』、観ました。

2005-09-25 15:31:25 | 映画(さ行)
殺人の追憶

アミューズソフトエンタテインメント

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 『殺人の追憶』、観ました。
86年、ソウル近郊の農村で若い女性の無惨な裸死体が発見された。
その後も同じ手口の殺人事件が相次いで発生。地元のパク刑事と
ソウル市警から派遣されたソ・テユンらがこの難事件に挑むのだが‥‥。 
 閉鎖された村の刑事と、大都会から来た刑事が対立しながらも
捜査に乗りだす展開は『夜の大走査線』にみられる使い古された構図。
猟奇的殺人事件の犯人が死体に作為的に自分が“殺した証し”を残すのは
『羊たちの沈黙』以後“お約束”となったサイコ殺人のスタイル。
犯行時に決まって流れるラジオからのラブソングは『M』“もどき”。
捜査を悩ます土砂降りの雨はきっと『セブン』からの引用だろう。
まぁ、そんな感じで映画自体は過去の名作サスペンスからインスパイア
されている部分が多くて、手放しに褒められる映画でもないんだけど、
それにしても完成度の高い作品だ。伏線の張り方や小道具の使い方、
今までのサイコ映画をはじめ、全ての刑事サスペンスのセオリーさえ
覆すオリジナルティ溢れるエンディングにも感心した。これから
観る人のために今あえてその詳細は書かないが、オープニングと
一点に繋がるラストシーンは、観る者にこれが実話であることを
再確認されると同時に、底知れぬ余韻に浸らせることになるに違いない。
 さて、この映画の凄さは、単に“犯人捜し”だけのサイコ映画に
納まらず、その背景には“高度成長前の韓国”がしっかと浮かび上がって
いるところ。例えば、ナイキのコピー商品が横行し、まかり通る韓国の
“ニセモノ”文化、冤罪や自白の強要による捜査のずさんさ、自国では
DNA鑑定さえ出来ない精密技術の遅れ、、、物語の所々に資本に
乏しい韓国がアメリカを代表とする先進国に追いつこうと模索する姿が
描かれている。つまり、本作は“ミステリー”の形を借りつつも、
この実在した連続殺人事件を手段として《高度成長前の韓国、その暗部》を
描きたかったんだと思う。ひとつ言えることは、本作は観直せば
観直す度に新たな発見をし、 考えれば考えるほどに新たな解釈が
できる深みのある作品だということ。ともすれば、 映画終盤で
象徴的に描かれるトンネルの向こう側とこちら側は、韓国における
「現在」と「過去」なのかもしれない。


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