肯定的映画評論室・新館

一刀両断!コラムで映画を三枚おろし。

『サクリファイス』、観ました。

2012-01-08 13:41:13 | 映画(さ行)

監督:アンドレイ・タルコフスキー
出演:エルランド・ヨセフソン、スーザン・フリートウッド

 『サクリファイス』、観ました。
誕生日を迎えたアレクサンデルは、言葉が話せない息子と枯れた松の木を
植える。そこに突然、核戦争が勃発した。無神論者だったアレクサンデルは
「愛する人々が救われるのなら、自分はすべてを捨てる」とその生涯で初めて
神に祈る。そして、使用人のマリアを抱いた後、家に火を放って我が身を
神に捧げるサクリファィス(犠牲、献身)を実行する──。
 初めて『サクリファイス』を観たのは、20代の頃だった。その時の印象を
振り返ると、映像は観ていて吸い込まれそうに美しい‥‥が、ストーリーは
何度繰り返し観直してもよく分からない。難解こそが高尚だとは言わないまでも、
当時の自分には“敷居が高い”の一言で片付けてしまったような気がする。
あれから20年あまりが過ぎ、改めて今こうして観直してみると、ストーリーの
細部まで理解できたかどうかは別にして、監督のA・タルコフスキーがこの
『サクリファイス』をもって伝えたかったものは分かりました。なんせ昨年、
あれほどの震災を経験した我々だもの…(涙)、それはもう、痛いほどにね。
 果たしてここでみたものは、目の前の“現実”なのか…、それとも、頭の
中だけの“幻想”なのか…。果たして、主人公の老人は、自ら進んで犠牲
(サクリファイス)となった“救世主”なのか…、あるいは、単に戯言を並べた
“狂人”なのか……。いや、その事ばかりに目を捕らわれ回答を見つけ出そうと
すると混乱する。思うに、それはどちらでも構わない。言い換えれば、どちらの
ルートを通っても“映画の着陸地点”は同じなのだ。いずれにせよ(仮に老人が
みたもの、したこと全てが“幻想”だったとしても)、ここにひとつ“揺るがない
事実”が残った。それは、ここでみたものは今後“現実に起こりうる可能性が
ある”ってこと。我々はまさに《目の前の恐怖に直面している》、少なくとも、
それだけは“真実”だ。ややもすると、オイラの考えは悲観的過ぎて嘲笑される
かもしれない。これは映画の中のお話で、とにかく世界は救われたのだ。それで
良いじゃないか、と。ならば、逆に問いたい。それが現実に起きたと仮定して、
今の我々に何が出来るだろうか。映画の中の老人の代わりとして、誰が生贄と
なって犠牲を払えば良いのか――、それで本当に世界は救われるのか――。
 この遺作に込められたタルコフスキーの想いは、痛切だ。豊かさや平和とは、
“たった一人の犠牲”の上に立っているものではなく、その時代に生きた全ての
人々が“同等の責任”を負い、皆が“少しずつ痛み”を分け合うことで成り立つ
ものなのだ。また、人間のみの価値観や、その時代のみが許されるエゴで
自然界をいじってはいけない。人類の進歩は、物質的進歩と精神的進歩の
両輪で動かしてこそのもので、その両者のバランスが崩れると歪みが生まれ、
やがて崩壊してしまう。そして、もし、この世界を再生できるものがあるとしたら、
それは科学の進歩ではない。“心の成長”において他ならない。しかし、心は
ある日突然に美しい花が咲き、豊かな実が成るものはない。毎日毎日来る日も
欠かさず水をやり、少しずつ…、ほんの少しずつ成長していくものなのだ。
例えば、そう、映画冒頭で老人と子供が植えた老木のように……。何でも良い、
我々ひとりひとりが皆、身の回りで出来る“ほんの些細なこと”から始めてみる。
《世界を変える》とは、その時やっと“その第一歩目”が踏み出せるのではなかろうか。

 

 
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