肯定的映画評論室・新館

一刀両断!コラムで映画を三枚おろし。

『バベル』、観ました。

2007-04-29 20:34:59 | 映画(は行)





監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
出演:ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット、ガエル・ガルシア・ベルナル、役所広司、菊地凛子

 『バベル』、映画館で観ました。
それは、モロッコで放たれた一発の銃弾から始まった。命中したのは夫婦の絆を
取り戻すために旅をしていたスーザン。辺境の地で救助もままならない状況に
苛立つ夫リチャードをよそに、事態は国際テロ事件へと発展する。一方、銃の
所有者は日本人男性と判明。妻の自殺以来、聾唖の娘ミチコとの心の溝に悩む
ヤスジローである。その頃、乳母に託していたリチャードとスーザンの子供達は、
メキシコへと連れられ、生死の境をさ迷っていた‥‥。
 未だ『ディパーテッド』を観てない段階で、果たしてこの『バベル』が本年度の
オスカーを取るべき作品だったかどうかなんて、今のボクに言う資格はない。
が、しかし、少なくとも、この映画の菊地凛子こそ、その助演女優賞に相応しい
演技だったと、ボクは確信する。ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット、ガエル・
ガルシア・ベルナル、役所広司など、錚々たる世界の兵(つわもの)たちの中に
混じって、尚ひときわの異彩を放つ。その、深い哀しみの瞳、切ない息づかい、
ぽっかりと開いた心の空白…、孤独な少女は“その隙間を埋めるための誰か”を
探し、自らの心を閉ざす。彼女の父も…、親友も…、相手は目の前にいるのに、
“この心”が届かない。観ながらボクは、もどかしいほどの焦燥感に支配され、
そんな彼女が背負っている“孤独の重さ”に押し潰されそうになった(涙)。改めて、
この作品を“並の傑作”から“それ以上のもの”に押し上げたのは、紛れもなく
“彼女の力”によるものだし、“彼女無し”ではありえない作品だと思う。
 さて、映画は、たった一発の銃弾よって引きこされる“愚行の連鎖”が、世界の
各地に飛び火して、散らばっていく様を描いた群像ドラマ。また、映画タイトル
となった“バベル”は、人間が神に近づこうとして建てた高い塔のこと。ただし、
本編中の台詞で、その“バベル”については一切触れられていない。恐らく、
ここでの“バベル”は《神》を指し、映画は“神の視点”で人間の愚かさを嘆くのだ。
それにしても、人は愚かだ。何故、互いに憎み合い、傷付け合わなければ生きて
いけないのか。旧約聖書によれば、その昔、神は人の傲慢さに怒り、言葉を乱し、
世界を分けたという。しかし、果たして本当にそうなのか。この映画で、観客の
我々が目撃するものは、激化する国と国との争いが、人々の憎しみを増幅し、
いつしか身近の仲間さえ信じられなくなっていく。周りに信じられる者がいない…。
これは、この世界に生きる者とすれば、それ以上の悲劇はない。幸いにも、
ボクには妻が居て、娘が居て、帰るべき“家族”がある。例えば、映画のアメリカ人
夫婦にとっての子供の存在しかり、メキシコ人ベビーシッターにとっての実の
息子の存在しかり、モロッコにて放牧を営む一家、その兄と弟の関係しかり、更に
同じく、それは東京に住む聾唖(ろうあ)の少女チエコにとっても…。その母の死に
ついて、彼女が何を見たのか、我らは知る由もない。彼女が若い刑事に渡した、
その便箋の中身が何だったのか、今はそれすら知る必要はない。大切なのは、
ラストシーンで彼女が服を脱いだ裸のまま……、いや、“裸の心”で、初めて
その父と手を握り合い、抱きしめ合ったことだ。“都会の孤独”を包む夜の中で、
“その場所だけ”が輝いて見えたのは、きっとボクだけの錯覚ではないはずだ。



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