キツネは、流れていく小川を追いかけるように少し駆けてから立ちすくんだ
「小僧よ、おれは孤独なのだ
今の俺は、この流れていく水さえもいとおしい」
「ところで俺には
帰る方角がわからない」
狐は途方に暮れている
「お坊さんがここで迷ってしまった理由は何なんでしょうね?」
「うーん、だいぶ昔の話になるな
500年前、この地に
一人の旅の修行僧が訪ねてきた
その者はわたしに一つ教えていただきたいことがあると言い、こう尋ねたのだ
『過去を捨て、未来を捨てて一つのことに心を集中させれば、過去に為した罪を解消させることができましょうか』と」
「わたしは得意気にこう答えた。「そのとおり、過去を離れ、未来を離れてただ一つのことに集中すれば、過去に為した行為は消え去るのだ」と、
それからどういうわけか、わたしはこの森の中から出られなくなり、狐となり500年迷い続けているのだ」
そう言って、狐は右の前足で自分の顔をこする
この森一面を闇が覆いつくそうとしていた
森の主役が夕日からお月様へ、変えられようとしている
「実を言うと、僕はいま私の背中の方角からやってきました。ですからこの道をまっすぐ 反対の方へ戻れば、村に出られます」
僕はこの狐さんを助けたいという思いにかられた。
いや、もしかするとここから早く帰りたいという思いのほうが強かったのかもしれないが、
お月さんが出たことで僕は急き立てられる思いがしたのだ
「何?反対の方へ戻れば、村に出られる?」
「反対 反対 逆
・・・
そうか!
坊主ありがとう
そういうことだったか!!!」
過去を離れ、未来を離れて一つのことに集中しても、過去に為した行為は消えないと答えればよかったのか
そんな単純な行為で魔法のようなことは起きないと
水の入ったお椀をこぼしたならば、それをもとに戻すことはできないように
過去に為した事は、もう帰らない
もう一度お椀にお水を入れるということを為すしか方法はないということか
ありがとう」
狐さんの顔にはじめて笑みがこぼれた
「その蛙大事にしてやってくれ
わたしもそう
おたまじゃくしから蛙に変態するように
キツネからかつての修行僧へと変態するであろう」
そう言って、狐は発光しながら雲散霧消したのであった。
お月さんの下で、白い煙がふわふわと浮いていた
あれは、わたしがまだおさない子供のことだった
あの狐の言ったことが、還暦を迎えたいま
ようやくわかってきたような気がする
不落因果 不昧因果
語句の解説:不落因果~因果律の制約を受けないでしょうか
不昧因果~因果律の制約は眩ますことができない
臨済禅の言葉です。500転生の間野狐として迷っていた
者の問いかけの言葉が
「悟った者は因果律の制約を受けないのでしょうか?」
それにに対する和尚さんの答えが
「因果律の制約は眩ますことができない」とあります。
例えば、盗みをなした者が、盗みをなしたという行為の結果として警察に捕まる。
たとえ何かを悟ることによって気持ちが楽になったとしても、盗みをなしたという行為の結果として警察に捕まるのは捕まりますよね
本物語に出てくる白キツネは、500年前修行者だったときに生半可な悟りしか得ていなかった。それで間違った答えを伝えたことによって、相手の修行者を迷わせてしまったわけです。その迷いの行為の反作用としてキツネに変じてしまい500年ある森のなかで迷っていました。
かくして500年後、偶然か、み仏の思し召しか、突然現れた少年の深読みしない素直な考え方にはっと悟らされ、思わぬ救いを得たのでした。その悟りとは、
因果の理法はくらますことができない
この物語は、3月24日「社会や国家の人生を考えるということ」という記事に対応しています。(こちらをクリック)そちらもご覧いただくことで物語の言わんとしていることがより明らかになると思います。
注:この物語はフィクションです
ちなみに、主人公の少年はわたくしではありません
「小僧よ、おれは孤独なのだ
今の俺は、この流れていく水さえもいとおしい」
「ところで俺には
帰る方角がわからない」
狐は途方に暮れている
「お坊さんがここで迷ってしまった理由は何なんでしょうね?」
「うーん、だいぶ昔の話になるな
500年前、この地に
一人の旅の修行僧が訪ねてきた
その者はわたしに一つ教えていただきたいことがあると言い、こう尋ねたのだ
『過去を捨て、未来を捨てて一つのことに心を集中させれば、過去に為した罪を解消させることができましょうか』と」
「わたしは得意気にこう答えた。「そのとおり、過去を離れ、未来を離れてただ一つのことに集中すれば、過去に為した行為は消え去るのだ」と、
それからどういうわけか、わたしはこの森の中から出られなくなり、狐となり500年迷い続けているのだ」
そう言って、狐は右の前足で自分の顔をこする
この森一面を闇が覆いつくそうとしていた
森の主役が夕日からお月様へ、変えられようとしている
「実を言うと、僕はいま私の背中の方角からやってきました。ですからこの道をまっすぐ 反対の方へ戻れば、村に出られます」
僕はこの狐さんを助けたいという思いにかられた。
いや、もしかするとここから早く帰りたいという思いのほうが強かったのかもしれないが、
お月さんが出たことで僕は急き立てられる思いがしたのだ
「何?反対の方へ戻れば、村に出られる?」
「反対 反対 逆
・・・
そうか!
坊主ありがとう
そういうことだったか!!!」
過去を離れ、未来を離れて一つのことに集中しても、過去に為した行為は消えないと答えればよかったのか
そんな単純な行為で魔法のようなことは起きないと
水の入ったお椀をこぼしたならば、それをもとに戻すことはできないように
過去に為した事は、もう帰らない
もう一度お椀にお水を入れるということを為すしか方法はないということか
ありがとう」
狐さんの顔にはじめて笑みがこぼれた
「その蛙大事にしてやってくれ
わたしもそう
おたまじゃくしから蛙に変態するように
キツネからかつての修行僧へと変態するであろう」
そう言って、狐は発光しながら雲散霧消したのであった。
お月さんの下で、白い煙がふわふわと浮いていた
あれは、わたしがまだおさない子供のことだった
あの狐の言ったことが、還暦を迎えたいま
ようやくわかってきたような気がする
不落因果 不昧因果
語句の解説:不落因果~因果律の制約を受けないでしょうか
不昧因果~因果律の制約は眩ますことができない
臨済禅の言葉です。500転生の間野狐として迷っていた
者の問いかけの言葉が
「悟った者は因果律の制約を受けないのでしょうか?」
それにに対する和尚さんの答えが
「因果律の制約は眩ますことができない」とあります。
例えば、盗みをなした者が、盗みをなしたという行為の結果として警察に捕まる。
たとえ何かを悟ることによって気持ちが楽になったとしても、盗みをなしたという行為の結果として警察に捕まるのは捕まりますよね
本物語に出てくる白キツネは、500年前修行者だったときに生半可な悟りしか得ていなかった。それで間違った答えを伝えたことによって、相手の修行者を迷わせてしまったわけです。その迷いの行為の反作用としてキツネに変じてしまい500年ある森のなかで迷っていました。
かくして500年後、偶然か、み仏の思し召しか、突然現れた少年の深読みしない素直な考え方にはっと悟らされ、思わぬ救いを得たのでした。その悟りとは、
因果の理法はくらますことができない
この物語は、3月24日「社会や国家の人生を考えるということ」という記事に対応しています。(こちらをクリック)そちらもご覧いただくことで物語の言わんとしていることがより明らかになると思います。
注:この物語はフィクションです
ちなみに、主人公の少年はわたくしではありません