桂木嶺のGO TO THE THEATER!~Life is beautiful!~

歌舞伎中心とした演劇・クラシック音楽・美術展・映画など芸術全般のレビューを書きます。優れた芸術は応援します!

名優の面影【特別篇】明日は高倉健さん、森光子さん、森繁久彌さん、うちの祖父の命日です。

2017-11-09 19:09:54 | 芝居のエッセイ

 

11月10日、もうそんなになるんだな・・と思います。

いつもだともっと寒いのですが、ことしはポカポカ陽気でよかったですね(^^)

 

さて、明日の御命日を前にして、高倉健さんの思い出のつづきをお話したいと思います。

健さんが、「四十七人の刺客」という作品で、大石内蔵助を演じられまして、

そのときの完成披露試写会の様子は、以前お話したと思います。

そのとき、まだ宣伝部にきてまもなかった私に、いろいろ励ましてくださったこともお話しました。


これにはもうひとつ、続きがありまして、雑談ではいろいろなかたにお話していますが、

健さんというひとが、いかにすばらしいひとだったか、あらためてお話して、

故人をしのびたいと思います。

 

健さんはわたしに「キミは、『四十七人の刺客』の初日は、俳優控室の係をやるの?」と、きかれたので、

「わかりませんけれども・・」とドキドキしながらお答えしましたら、

「じゃ、初日、お願いするね(^^)」とニコニコと話してくださったので、感激したかつらぎでした。

 

初日になりました。私はやっぱり控室係になりました。健さんがニコニコとされていました。

わたしは、俳優さんたちにお茶をだしたり、灰皿をすすめたりしながら、映画館のほうに行って、

「いま、お客さんたちがならんでます!」「いま、お客さんたちが映画を見ながら感激しています!」と

俳優さんたちに報告していたのでした。


健さんは、明るくみんなと談笑されながら、「よかったね(^^)」といってくださっていました。

すると、「〇〇君(わたしの本名)、ちょっとお願いがあるんだけど」と申します。

わたしが「ハイ、なんでしょう?」とききましたら、

「ちょっとね、宣伝部長と営業部長を呼んできてくれるかな(^^)」と

おっしゃいます。

下っ端の私にとっては宣伝部長も営業部長も雲の上の人だったのですが、

とにかく健さんのおっしゃることなので、

すっとんでふたりの元へ行きました。


で、もっと驚いたのは、宣伝部長(当時。いまはどうなったかはご本人の名誉もあるのでいいません)と

営業部長(当時。以下同文)が、ふたりとも真っ青になりながら、

健さんのもとにやってきたのでした。

このふたりをしても健さんは「超超超大スター」だということなのでした!!

 

ハラハラしながらわたしがみまもっていたら、

健さんがおもむろにきびしい口調でこうふたりにおっしゃいました。

「きょうの10時の『打ち込み』、全国でいくつだったか、全部報告してごらん!」

 

宣伝部長と営業部長は、もうそれはそれは真っ青になりながら直立不動で、

「日劇東宝で〇〇、渋東シネタワーで〇〇、梅田で〇〇、‥以上です、健さん!」

と報告していて、こんな姿をわたしは初めてみて、「健さんのオーラってすごい!」とおもったのでした。

 

すると、健さんは、しずかにこうおっしゃいました。

「・・・つまり、この映画の配収は(当時は配給収入でした。いまは興行収入です)〇〇億円だね?」

宣伝部長と営業部長は、「その通りです、健さん!」とビックリしていました。

「宣伝費はいくらだった?」と健さんがおっしゃったので、

宣伝部長が「・・・・〇億です」

健さんがはじめてニコニコして、「ふたりともよくがんばったね、お疲れさん(^^)」

とおっしゃったので、宣伝部長も営業部長も、大変ほっとしながら、帰っていきました。

 

わたしは、(´∀`*)ポッカーンとして、その光景を見ていました。というより、呆然としました。

なんで10時の打ち込み(10時に入る全国の劇場の人数と興行収入のことをいいます)だけで、

配収がわかるんだろう?!

わたしは健さんにたずねました。「なんで、10時の打ち込みだけでわかるんですか?!すごすぎです!」

健さんはニコニコと私に応えてくれました。

「ボク、だって、200本映画に出てるんだよ?そのくらいのこと、わからなくちゃダメでしょう!(^^)/」

というのでした。


「でもどうやって調べるんですか?」と私がさらにきくと、

「(´ー`*)ウンウン、じゃキミはまだ宣伝部にきたばかりだから教えてあげるよ。

まず、土曜日の映画の初日には、営業部に行って、全国の劇場の数字を見せてもらいなさい。

それから、前売り券が、全国の劇場でいくら売れたか、それも教えてもらって、

毎週かならずメモを取るんだよ。

そして、どんな年代層のひとが買っていったか、全部調べるんだよ。

それを毎週データをとっていくと、いまみたいに、大体、どの年代のお客さんが全国できていて、

どのくらいの配収になるか、わかるようになる。

それを毎作品続けていったら、君もいつかきょうの宣伝部長や営業部長みたいになれるぞ!

女の子だからといって、遠慮することはない、どんどんこの調子でがんばってね!(^_^)/」

 

わたしは、健さんが、まるで映画の神様みたいに見えました。

ただ、ロケのときに、みんなと一緒に立っていたり、コーヒーを淹れたりするだけではなくて、

映画ビジネスの発展を真剣に考えているんだなと、

大、大、大感激したのでした!!!

もちろん、次の月曜日から、猛然とわたしが、営業の数字をメモし始めたことはいうまでもありません!

 

 

「ありがとうございます!がんばります!」と私がいったら、

「おぅ!・・・でもこのことは、みんなにはナイショだよ(^^)」

と健さんは、ビックリするほどやさしい笑顔で

おっしゃってくださいました。

その当時で65歳。でも、ビックリするほど若々しくて、かっこよすぎる健さんでした。

 

そして、さっそうと、付き人の人たちを従えて、劇場をあとにされました。

わたしはいつまでも見送っていました。

 

・・・あれから、23年。

私は宣伝部長にも営業部長にもなれませんでしたが、

映画や演劇を愛する人間として、なんとか、健さんのすばらしいお話を

こうして、お話できる人間になりました。

健さんが文化勲章を映画人として初めて受賞されたときには

当然だと思いました。

だって、こんなにすばらしい人格の人なんですもの!

(ね?女性週刊誌とか、週刊誌がいかにウソばっかり書いているか、

わかりましたでしょう?超一流のひとは、性格も超一流なんですね!)

 

健さんの一連の対応からまなぶことはたくさんありましたし、

その宣伝部長も営業部長も、大変な栄達を遂げ、出世しました。

そのときの、健さんと宣伝部長と営業部長とわたしのひみつの会話で

それぞれ奮起したのだと思います。

 

日本映画は大変な隆盛をその後とげ、健さんは、きっと満足されたと思います。

「あなたへ」で最晩年も映画人として活躍でき、

本望だったとおもっています。

 

健さんにお子さんはいませんが、「健さんチルドレン」は映画人の中にたくさんいます。

すばらしい健さんの財産を、これからもかたりついでいきたいとおもっています!

 

 

 

 


ネイルサロンで思い出した、SMAPの思い出。

2017-11-09 18:32:11 | 芝居のエッセイ

今日はネイルサロンに行ってきました😄😊🎵💕💖💘

明日は就職活動があるので、ごらんのようにシンプルなデザインにしていただきました。ネイルサロンのたのしいところは、若い女性スタッフといろいろと最近のはやりものについてお話できることです。やはりインスタグラムが主流のようです。

過日話題になった、元SMAPの「72時間ホンネテレビ」を見たかどうか、彼女にたずねてみると、「いや・・・もう私たちの世代は嵐なんで、SMAPにあんまり興味ないです」というお答え。もうかれらが解散するのは自明の理だったのですね。あまりかれらのことで一喜一憂しないことにしました。

...

あなたにとってSMAPってなんですか、とその彼女にきかれたので、
わたしは「ゲンジツでした」と申し上げました。SMAPファンの方々には申し訳ないですけど、正直な実感でしたね。SMAPの方々の主演の映画のポスターや社内報の企画や表紙をつくるたびに、正直胃が痛かったのを思い出します。

でも、実際のSMAPのみなさんにお目にかかってみると、温厚なひとたちだった(テレビ画面の彼らのキャラクターは相当作られたものなのだなと思いますね)ので、「彼らと出会えてよかったな」というのが偽らざる心境です。

かれらももう不惑をとうに超えて、壮年の男性になりました。しっかり足元をみすえてがんばってほしいですし、アイドル時代にはできなかったチャレンジをいろいろがんばってしてもらって、オトナとしての自覚をもって、いい俳優さん、タレントさんになっていただきたいですね。

ネイルサロンで、ひょんなことから思い出した、SMAPの思い出でした。


#元SMAP

#SMAP

#72時間ホンネテレビ



男たちの凄艶な競演! 幸四郎さん、仁左衛門さん、藤十郎さんが傑出している歌舞伎座夜の部です!

2017-11-09 05:23:08 | 劇評

 

きのうは、「ワンピース」の興奮さめやらぬ中、

歌舞伎座夜の部に行ってまいりました!

こちらも大変充実した内容で、まさにパーフェクト!!!

現在の歌舞伎界の底力を感じさせる、すばらしい出来栄えでした!

 

甲乙つけがたいのですが、やはりいろいろな意味で衝撃なのは、「仮名手本忠臣蔵」の五段目・六段目の仁左衛門さんの勘平です!

歌舞伎を見始めて30年になろうとしている私ですが、やはりこの仁左衛門さんの勘平は、唯一無二、史上最高の勘平ですね!絶品です!どうすばらしいかということを、うまく言えないのですが、もちろん型もきちんと守っておられ、いろいろな手順もぬかりないのですが、そこからさらにはなれて、活殺自在に勘平の緊張感と、彼の塩谷判官に対する苦渋の想い、そして「色にふけったばっかりに」となげく、そのなんともいえない美しさは、いま現在もとめられる最高の勘平像といえましょう。


いつもはどうしてもなんとなく段取りに追われる感のある五段目・六段目ですが、仁左衛門さんの手にかかると、大変にドラマティックでぎりぎりの精神状態で生きている男の、切迫感と生活感がリアルに出ていて素晴らしいです。それにけっして勘平がそそっかしくておっちょこちょいなのではなく、つねにかれは追い詰められた思いで生きていることがよくわかり、おかる(孝太郎さんがこれまたみごとな造形をみせてくれます!)との愛もかれにとっては、終の棲家ではなく、心のどこかに爆弾を抱えているような思いで生きている男のリアルな心情を見せています。


忠義というだけでない、塩谷判官への想いが全編流れているので、勘平の生きざま、義父を殺したと思いこんだこころの葛藤に非常に説得力があるのですね。姑のおかやの上村吉弥さんがこれまた殊勲賞物の演技で、ドラマを盛り上げており、今回五段目・六段目の成功を確実なものにしています。そして、一文字屋お才の秀太郎さんの、色街にいきて、さまざまな男と女をみつめてきた、どこか冷めた視線がまた新鮮で、勘平とおかるの悲劇を非常に現実感あふれるものにしています。


特筆すべきは、判人源六の松之助さんで、松嶋屋につかえてきたこの大番頭が、じつにいやらしく、こそくながらにくめず、愛嬌もたたえる上方の男の驕慢さを表していて傑作です。仁左衛門さん・孝太郎さん・吉弥さん・松之助さん・秀太郎さん、このアンサンブルが見事なので、ドラマにぐいぐい惹きつけられます。


そして、話は前後しますが、五段目の彦三郎さん(千崎弥五郎)がまた実に見事な演技をしめし、忠臣蔵のドラマの悲劇の全容がよくつたわります。勘平のような悲劇をあちこちで目撃して、千崎なりに葛藤をおぼえつつ、大義と死に向かって邁進するしかない男のかなしみを全身で演じており、六段目にいたっては、その悲劇が頂点に達するので涙をおさえきれない千崎の姿をみごとに活写していました。


彌十郎さんの不破数右衛門がこれまたすばらしく、情誼に厚いながらも、大望の前には非情にならざるをえない人間の皮肉をうつしだして秀逸。とにかく、この五段目・六段目をみるだけでも、歌舞伎座顔見世の価値は十二分にあります。染五郎さんの斧定九郎もまた凄絶な美をみせてくれます。

つづく「新口村」も、現在の歌舞伎の最高峰である藤十郎さんの至芸を堪能できるばかりでなく、雪の夜の男女のかなしみと、親子の別れを歌六さん、扇雀さんがこれまた熱演しているので、大きな感動を呼ぶ一幕となっています。藤十郎さんはその若やいだ姿と言い、うつくしさといい、まさに今日の平成歌舞伎の水準の高さを示しており、大きな規範となるでしょう。また歌六さんについては、父・孫右衛門をみごとに造形しており、かれの可能性が脇役のみならず、芯の役も範疇に入るスケールの大きさをしめしており、今後の眼がはなせません!

そして、掉尾をかざり、幸四郎の名前では最後となる「大石最後の一日」を、幸四郎さんが万感の思いで勤め、大きな感動をよびます。ぜひ、「高麗屋の歌舞伎はちょっと」という方も、ぜひ、くもりのない目で幸四郎さんの人間観察のたしかさ、セリフの朗誦術の卓抜さ、華のある役者ぶりをごらんいただいて、来年の白鸚襲名を寿いでいただきたいと思います!

幸四郎さんはセリフもけっして泣きすぎず、ぐっとこらえ、大石という人間のふところのふかさ、大きさ、そしてどこかにたたずむ無常観をみせたのは大変な収穫です。「初一念」というキーワードを大切に語り、磯貝十郎左衛門(染五郎さんが神妙に演じています)と、おみの(児太郎さんが大ヒットの名演。かれは立女形として、王道をあゆむスターになるでしょう!)のあわれた恋をみまもる役回りを、しっかりと見せてくれます。大義をかかげ、吉良を討ち、死を座して待つ大石の、胸のうちにひそむ死への恐れも、幸四郎さんは正直にあぶりだし、真山青果のみごとなセリフをものにして、大石内蔵助という人物の、奥のふかさを堪能させてくれました。

おみのが四十七士の自裁を前に、みずからの命をたつ哀れさは、児太郎さんの端正な美しさとあいまって劇的効果をもたらしています。かれは今回の公演で、いちだんと大きくなりました。玉三郎さんにどことなくセリフなども似ているのがすばらしいですね!おみのの清冽な愛によって、磯貝の想いもすくわれ、すべてが再生と和解のものがたりに収斂されていくのは、大きな感動を呼びますし、幸四郎さんの孫の金太郎さんも清冽な演技をみせて期待をもたせます。

最後の幸四郎さんの万感の涙も、このすぐれた英雄役者の次の名前に向けてのはなむけとしてふさわしいものでしょう!



ぜひぜひ、「ワンピース」で歌舞伎の魅力にはまった若いみなさま、ぜひ当月の歌舞伎座にもお越しいただいて、現在の歌舞伎がいかにすぐれた水準にあるかをまざまざと体感していただきたいと思います。

歌舞伎400年、その進化はけっして止まらない_____

そんな感慨にふけりつつ、帰途についた、東銀座の熱い夜でした。

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