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川上弘美「機嫌のいい犬」

2011-02-23 | 詩、短歌、俳句

川上弘美、初にして全句集300句
人気小説家である著者が、俳句を始めて16年。恋愛、日常、食卓、旅・・・小説同様、なにげない日常の光景から、男女の機微が浮かび上がる300句をまとめた初句集。新たな川上ワールドの魅力が明らかに.

川上さんの感覚は、とても親近感があって、現代の女性ならではの気持ちがぎゅっと詰まった句だと思う。

575こんな短い言葉を選んで。一句一句に、なるほどなあ。あ~そうそう。げんだいっぽくても、その季節に見えるもの。自然にある事柄を単語をポンっと置くだけで、川柳じゃなく。俳句として、輝きを持つのではないかな。

日々暮らす。女性。主婦。の目線。柔らかな心をもつひとが、日常を言葉に置き換えると。何でもないことが、きらめきにかわる。そんな気がする。

 

夜店にて彗星の尾を見つけたり

はっきりしない人ね茄子投げるわよ

情念のうすくうすく氷よ張れ

捨てかねし片手袋のありにけり

会うときは柔らかき服鳥曇

春闌けてハモニカならし飽きにけり

白シャツになりすもも食ふすもも食ふ

サイダーの泡より淡き疲れかな

泣いていると鼬(イタチ)の王が来るからね

ペーチカや夜の森には夜の歌

恋ふ人を忘れるつもり夜濯ぐ

夜濯やときどき消える蛍光灯

冬りんご大きく齧る会ひたしよ

恋愛の如く吾が子と抱きあふ

屋上に少年歌ふ深雪晴れ

残雪に椿少女の踏みにじる

目覚むれば人の家なりチューリップ

てのひらにのせるうみたてたまご初夏

五月雨やうがみてあをきラムネ玉

目を入れてだるま淋しき日永かな

音高く包丁つかふ立夏かな

恋文をみせあふ少女百日紅

黒髪ヲ売リマスとあり路地の秋

秋の夜の古屋の屋根に猫うじゃうじゃ

流星を待ちてをるなり草の上

何の骨ぞ浜辺にひらふ秋の暮

家ぢゆうの鏡みがける小春かな

口わろき鸚鵡を愛す寒さかな

接吻は突然がよし枇杷の花

布かけて文鳥の籠冬深む

楽しさは湯豆腐に浮く豆腐くづ

遠花火運河に海の匂ひけり

ハンガーに干されて蛸や雲低き

夕立に少年濡れて匂ふなり

朝顔の鉢さげ共の来たりけり

湯屋の富士描きなほされて夏に入る

時計屋に昭和の時計秋深む

骨軽くわれあり春の闇のなか

散髪のあちのさみしさ鳥曇に

湯を沸かす間のおもひ鉄線花

野球少年球離さずよ昼寝の中(うち)も

名画座へゆく落第のおとうとと

永き日のサーカスの熊くたぶれぬ

マーブルチョコ舐めて色とる日永かな

春日やアパートぢゆうの赤子泣く

秋晴れや山川草木(さんせんそうもく)皆無慈悲

もの食うて機嫌なほりぬ春の雲

闘ひにゆく香水をつけ替えて

まんじゆうしやげ褪せういくときもいつせいに

春光や人死ぬるとき潮満ちぬ

春日の循環バスを降りられず

みなちがふ靴のへりぐせつちふれる

しのぶ会行かでしのばむ春の雪

息子よりひじきの煮方教へてと

となりをる人ととんぼを見ていたる

 

 



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