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気まぐれ読書・映画・音楽の記録。本文に関係のないコメントについてはご遠慮させていただきます。

江國香織「雨はコーラが飲めない」

2010-01-17 | エッセイ
かつて私は、しばしば音楽にたすけられました。いまは雨にたすけられています。私たちは一緒に暮らし始めて二年三カ月になる。はじめて雨に会った日のことは、忘れられない。凍えそうに寒い、十二月の、雨の日だった。そのすこし前から、私はまるで幽霊みたいに日々を暮らしていて、その日もまるで幽霊みたいに、雨だというのにデパートの屋上に煙草をすいにのぼった。なにしろ幽霊なので、雨に濡れても平気だった。なにがどうなってもいいのだった。その屋上に、雨がいた。
 
濃い栗色の巻き毛をした雨は、オスのアメリカン・コッカスパニエル。私たちは、よく一緒に音楽を聴いて、二人だけのみちたりた時間を過ごす。もちろん、散歩にも行くし、玩具で遊んだりもするけど。甘えたがりの愛犬との特別な日常や、過去の記憶を呼び覚ます音楽について、冴え冴えと綴ったエッセイ集。
 
雨と私のいる部屋に、音楽が流れている。雨には雨の意志や感情があり。私には私の意志や感情がある。でも、私と雨はそれを言葉で伝え合うことはできない。一緒にいても、実は全然別の世界を生きているのかもしれない、と思うことがある。…私は言葉に依存しがちなので、言葉に露ほども依存していない雨との生活は驚きにみちている。驚きと、畏敬の念に。
 
私は雨に敬服する。そして自分の持っている闇雲な恐怖、あるいは反射的な恐怖、非理性的な恐怖を不甲斐なく思う。「全てのものを自分の目でしっかり見て、必要ならにおいをかいだりつついたりもしてみて、判断してから怖がる人に、わたしもなるよ」雨に、そう言ってみる。恐怖はたぶん一人一人がみんな個別に、いつも、そしてずっと、戦わなきゃならない何かなんだろうなあ。
 
犬と暮らしたことのある人ならきっと、わかる。
犬との距離感。好きだなあ。江國さん。
山本容子さん小川洋子さんも犬のエッセイを書くけど…。
犬は友だちであり、恋人だったり、ペット以上の存在。
私も、30年間も犬と暮らして(2匹)外犬だから、しぶしぶ散歩に行きましたが…。
気持ちよさそうに穴を掘って、悠々と昼寝をして、散歩の時とバーべーキューの時だけ張り切っちゃう。彼らが、まったく憎めなくって愛らしくて。懐かしい。室内犬は音楽を聴くのか…。音楽と江國さんと雨くん…。あまりにも素敵な関係に。癒されます。


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