快読日記

日々の読書記録

「無限を求めて エッシャー、自作を語る」M・C・エッシャー

2010年06月20日 | アート・映画など
《6/19読了 坂根巌夫(さかね・いつお)/訳 朝日選書502 1994年刊 【美術】 Mauritz Cornelis Escher(1898~1972)》

そもそもエッシャーの作品が版画だったことすら知らなかったわたくしが言うのも何ですが(笑)、
「私のやっていることははたして芸術なのか(246p)」
これが長い間エッシャー自身を悩ませた問い掛けだったんだそうです。
ちょっとびっくりです。
しかも、世間に認められたのはかなり晩年だったんですね。
それでも生きてるうちでよかったじゃないですか、ねえ。

この本の前半では、エッシャーが1964年に行うはずだった講演2本の原稿が読めます。
自作のスライドを見せながら解説をするというものです。
わたしは、いくつもの有名な作品の雰囲気から、勝手に"そのイメージの源泉"みたいな抽象的な話を想像していたのですが、
実際は驚くほど具体的・技術的な講演でした。

その作品によって彼が追求したものについては、第3章「四つの趣味」でたっぷり語られています。
居心地のよい規則性の中に「無限(時間の流れが停まること)」を見出だし、それを正確に可視化する作業に没頭する毎日。
「ことばでは描けないものを描きたいという衝動(186p)」を抱えたエッシャーは、高村光太郎の「僕の前に道はない/僕の後ろに道はできる」そのものです。
巻末のヤン・W・フェルミューレン(エッシャーの晩年の友人)の文章がとくによかったです。
これを最初に読んでから、冒頭に戻ってもいいかもしれません。