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「晴子と成院」2

2015年06月09日 | T.B.2000年
今でも覚えている。

成院が晴子を訪ねてきたのは
天気がよい、ある日の事。

「カイ?」

最初、家を訪ねてきた成院を晴子は別の人だと思った。
彼がもう一度、尋ねてきてくれると
期待していたのかもしれない。

「……あ、成院。ごめん、私ったら」

成院は玄関から動かない。
ちょうど晴子からは逆光で成院の表情がよく見えない。

「成院 どう、したの?
 ねぇ、具合悪いんじゃ」

「晴子、あいつが、俺」
「成院?」

成院の言葉はおぼつかない。
やがて、深く息を吐いて
天を仰いだ後、改めて晴子の方を向いた。

そこでやっと成院の表情が見えて
あぁ、少し落ち着いたみたい
と、晴子は少しほっとした。

「戒院が死んだよ」

突然、彼の名前が出てきて
晴子は動きを止める。

「え?」

「あいつ、流行り病だったんだ
 次期領主様と同じ」

「ねぇ、成院、冗談は止めて」

「晴子」

成院はすがるように晴子を見る。
本当の事、だと。

「うそ」

そんな、事があるわけがない、と。
晴子は首を横にふる。

「そうだな」

成院は言う。

「戒院は、いつも、はぐらかして
 本当の事なんて
 きちんと言わないやつだったから」

戒院の兄である成院は
彼と、戒院と同じ声で言う。

「晴子の事、キライになった、とか
 もう、会いたくない、とか
 他に気になる人が出来た、とか」

全部、嘘だったのになぁ、と。
目が合った成院は
不思議な表情をしていた。

きっと、泣いてしまいそうになるのを
我慢しているんだ、と
晴子は思った。

「どうしてこれは
 嘘じゃないんだろうな」



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