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「晴子と成院」1

2015年06月02日 | T.B.2000年

晴子(はるこ)は村の墓地に向かう。
彼の好きな花は、そう言えば知らなかったので
彼が好きな色の花を持って。

以前は、そういう事に気づく度
もっと彼に色んな事を聞けば良かったと
嘆くばかりだったけれど
今では少しだけ、落ち着いて考えられる。

夕暮れ時の墓地に人影はなく、
どこか寂しいけれど
晴子はこの時間を選んできた。

だが、いざ彼の墓が見えて
晴子は歩みを止める。
彼の兄がそこにいる。

「晴子」

「……久しぶり、成院(せいいん)」

そう、彼の家族は間違いなく
参りに来るだろう日だ。
成院が居るのは当たり前だ。

「お参り来てくれたんだ」
「今日は、ほら、ちょうど一年だし」

彼女は彼の家族ではない。

そこに割り込むつもりは無かったけれど
どうしても祈りを捧げたかったので
この時間を選んだ。

「ありがとう、きっと喜ぶよ」

彼の兄、成院に促されて、
晴子は墓前に立つ。

刻まれているのは
彼の名前と、彼が亡くなった日。
もう一年がたつ。

彼が死んだ事を晴子に伝えに来たのは
成院だ。

とても天気が良い日だった。
悪い事なんて何も起こらない様な
そんな日、だったのに。

「カイ、―――戒院(かいいん)」

彼の事をカイと呼んでいたのは晴子だけだ。
もう、答えてくれる彼はいないけれど。

「会いに来たよ」

気持ちは落ち着いている。
一年が過ぎて、そう思っていたけれど
やっぱり少しだけ
泣きそうになって晴子は言葉を詰まらせる。

「…………」

少し離れた所で晴子を見ていた成院は
何か声を掛けようとしていたが
静かにその場を離れた。

本当に哀しいのは家族である成院達なのに。
気を使わせてしまったな、と
申し訳ないなと思いながらも

やっと1人になれて
晴子はその場で初めて泣くことが出来た。



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