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「山一族と規子」4

2015年09月08日 | T.B.1962年

「キコ様。
 今日は何処に行かれていたんです?」

「村を見て回っていたの」
「……村を」

首をひねる侍女に
規子は苦笑する。

でしょね、
今さらだもの、と思いながらも、
そこに規子は触れない。
もちろん侍女の彼女も何も聞かない。

「村はどうでしたか?」

「えぇ、見慣れた所ばかりだったけど
 鳥を見てきたわ。フタミの」

そこは、初めて見た。
西一族では狩りで馬を使うことはあっても
鳥を使う事はない。

「鳥を飼い慣らすのは大変でしょう?」
「ええ。
 でもフタミ様はそれが出来るのです」
「手懐ける手段を持っていると言う事?」
「……それもあるでしょうけど
 どちらかといえば、そういう『血筋』、なんです。
 フタミ様は」
「才能と言うこと?」
「うーん、なんと説明して良いのか。
 西一族の方は現実的なのですね」

「そうかもね、
 きちんと理由と筋が通っていないと
 納得いかないというか」

まぁ。それは私だけかも、と
規子は言う。

「でも、血筋が理由というなら
 私は鳥を扱えないのね」

「……すみません
 そういうつもりでは」

「いいのよ。ねぇ。
 フタミ以外の家系はなんと言ったっけ?」

「ええ、ハラとミヤです。
 ハラは占いの家系。
 ミヤは狩りの中心となって動く家系です」

「……じゃあ、ミヤかな」

「ミヤ家の者がどうかしましたか?」

「いいえ、
 西に嫁いだのはミヤ家の子?」
「そうです。
 あの子、今、どうしているんでしょうね」

西一族の代表として規子が嫁いで来た様に
山一族の代表として西一族へ行った、子。

「大丈夫よ」

規子は言う。

「彼女を迎えたのは
 私の幼なじみなの」

一呼吸置いて、
呟く様に言う。

「少し変わっているけど
 良いやつよ。
 きちんと幸せにするわ」

侍女は少し考えたかと思うと
ためらいがちに問いかける。

「キコ様は、どうして山一族に来られたんですか」
「選ばれたからよ」
「断ることも出来たでしょう?」
「……そうね」

「山一族には
 以前一度会ったことがあるから」

「そうなんですか」
「えぇ、狩りの時に」
「狩りならば、ミヤ家の者でしょうか」

「こういう人たちが居るのならば
 嫁ぐのも良いかもしれないと思ったのよ」

「そう思って頂けたなら嬉しいです」

少し嬉しそうに侍女は部屋を去る。
誰だって自分の一族の事は誇りだ。

規子だって、そう。

思わず話の流れから
西一族の事を話した。

しばらくは思い出すことも止めていたのに。

「懐かしいな」


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