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現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」171

2017年01月10日 | 物語「水辺ノ夢」

「ただいま」

圭は家の扉を開ける。

奥から良い匂いがする。
今日の夕食だろう。

「おかえい!!」

真都葉が走って来て
圭を出迎える。

「ただいま、真都葉
 良い子にしていた?」

圭は真都葉を抱き上げる。

「とう、はたけ」
「うーん、畑?」
「いくの」
「今から?どうしたの真都葉?」

お帰りなさい、と
杏子が奥から顔を出す。

鍋をテーブルの上に置くと
ごめんなさい、と謝る。

「今日、私が畑の話をしてしまって」
「うん?」
「今度、連れて行ってもらおうって」

「そうか」

「お父さんお腹空いたな。
 ご飯を食べようよ。真都葉」
「いま!!」
「じゃあ、真都葉はご飯食べないの?」
「たべるーーーー!!」

圭はテーブルに移動する。
杏子が運んだ鍋はスープの鍋。
野菜を煮込んだ品。
先に運んであるパンは
沢子が持ってきてくれた物だろう。

圭の仕事は村人が副業としてしていたもの。
生活して行くにはやはり少ない。
今は祖母が残した資産や、
両親の支援があって、なんとか暮らしている。

以前から、そういう生活をしていたが
子どもができて
自分の力でどうにかしたいと思うようになってきた。

「…………」

もっと、仕事を増やすべきだろうか。

「とう?」
「あぁ、ごめん。
 なんでもないよ」

圭は真都葉を子供用の椅子に座らせる。
圭が作った物。

「はい、これで揃ったわ。
 ご飯にしましょう」

杏子が皿を運び、
皆で席に着く。

杏子は真都葉の隣、
まずは真都葉に食べさせる。

圭は先に食べ、
途中で杏子と変わる。

「真都葉は肉を食べるかな?」

杏子は、やはり、
東一族だから、か、
肉が入ったスープを飲むことはあるが
やはり、肉単体は苦手な用だ。

でも、真都葉は最近色々と
食べられるようになり、
圭達が食べている物にも
興味を示すようになってきた。

「………?」

返事が返ってこないので
ふと杏子の方を見ると
手が止まり、どこか遠くを見ている。

「杏子?」
「あ、圭?
 ごめんなさい、何?」

圭は尋ねる。

「杏子、どうかした?」

「…あ…ええ」

杏子は暫く考えた後、
控えめに言う。

「真都葉を、もっと外で
 遊ばせてあげたいのだけど」

杏子は、外に出るな、人目に付くな、と
そう言われている。

「真都葉は外で遊ぶのが好きよ。
 ずっと家の中じゃ」
「庭じゃ狭いか」

そうだな、と考える圭に
杏子は視線を落とす。

「……庭も、ダメ。
 見ている人がいるわ」
「そんな、庭ぐらい、俺達の勝手だろう」

そもそも、圭の家は
村のはずれにある。
隣の家とも離れていて人も尋ねて来ない。

それなのに、人が来るというのは
物珍しさだろうか。

「見世物じゃないんだぞ」

「私は良いの。東一族だもの。
 この村でうろついているのは良い気分じゃないわよね。
 でも、真都葉は」

杏子の言葉に
圭は真都葉の方を振り返る。

いつもと違う雰囲気に
驚いているのか
泣き出しそうな顔をしている。

「かぁ、とう」

「ごめんなさい、真都葉。
 まだ、ご飯の途中だったのにね」

杏子が真都葉の頭を撫でる。

「分かった。
 真都葉、明日はお父さんと
 畑に行こうな」



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