TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」25

2013年10月29日 | 物語「水辺ノ夢」


場所は村の集会所に移された。
集会所に村長の声が響く。

「さて、広司」

そこには村長と広司しかいない。

「本当に、お前の名前を呼んだんだな?」

広司は頷く。

「……」

集会所に村長のため息が響く。

別室のドアが開き、補佐役が出てくる。
ドアに鍵をかけると二人に向き直る。

「知らない、帰して、を繰り返すばかりだ」

別室には、杏子が閉じ込められている。

「動揺しきっていて、私にはとても諜報員には見えないな。
 ……あれで、演じているのならばたいしたものだ」

補佐役は視線を送り、指示を仰ぐ。

「しばらくは様子を見るしかないな
 村の情報をどれだけ知っているのかも
 はっきりさせておかねば」

考えることは多いのだろう。
とりあえず、と
村長は広司に向き直る。

「広司、お前の判断は間違っていない、よくやった。
 だが騒ぎを起こしたのも事実だ」

「そうだな、俺が内通者の可能性もあるしな」

「そうは言わない。だが、しばらくは謹慎だ」

「……分かった。詳しく決まったら教えてくれ」

広司は集会所の扉に手をかける。

「ところで広司」

世話役が言う。

「お前は内通者に心当たりはないのか?」

振り返った広司は、薄く笑う。

「ウチの一族で、
 ―――舟を使うやつは限られているよな」



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「水辺ノ夢」24

2013年10月25日 | 物語「水辺ノ夢」

湖。

相変わらず、霧は濃い。
西一族側の岸で、一層の舟が揺れる。

ひとりの男が、その舟を、岸につなぐ作業をする。

その様子を、大勢の西一族が見ている。
ただ、誰も近づかない。
遠目で、見る。

「早く人払いをしないか!」

突然、人をかき分け、西一族の村長が現れる。
ざわついていた人々が、静かになる。
村長の後ろにいた、補佐役の男が云う。

「みんな、自分の仕事に戻ってくれ! さあ、早く!」

人が消えるのを待たず、村長が声を上げる。

「広司! いったいどういうことだ!」

呼ばれて、広司は顔を上げる。
云う。
「なんだ、村長か。・・・話が早い」
岸にいた広司は、舟に移ろうとする。
「いや、待て」
村長が云う
「女を舟から下ろすな。・・・気を失っているのか」
「そうだ」
村長は、舟に近付く。
補佐役は、一歩離れて、その様子を見る。

それ以外に、人はいない。

「・・・東一族、か」
村長は、舟に転がる杏子を見る。
云う。
「諜報員でもないお前が、なぜ、東一族を連れてきた?」
村長は、広司を見る。
「いや、連れ去ってきた、か」
広司は目を細める。云う。
「こいつは、以前にもこの村に来たことがある」
「なんだって?」
後ろの補佐役が、口をはさむ。
「東の諜報員と云うことか?」
「知るか」
広司が答える。
「俺の名まえを知っていたからな。誰かと接触はしてるだろ」

「どちらにしても」

村長が云う。
「この女を、東一族の村へ返すわけにはいかない」
村長は、頭を抱える。
「広司。ほかの東一族には見られてないな?」
「当たり前だ」
補佐役が云う。
「では、この女は、今、東一族側で行方不明とされているわけだ」

村長が云う。
「目を覚ます前に、村へ運べ」



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「水辺ノ夢」23

2013年10月22日 | 物語「水辺ノ夢」
ふと、圭は顔を上げた。
なんだろう、
心なしか、外が騒がしい。

「……狩りの日でもないのに」

外に出るが、
それだけでは何があっているのか判断がつかない。
ただ、村が浮き足立っていて落ち着かない。
そんな感じだ。

通りすがった村人に尋ねる。
顔つきから何か知っているようだった。

「……何かあったんですか?」

「あぁ、圭か。
 大変なことになったぞ」

村人は、息を切らせて言う。

「広司がしでかしてくれた」

「しでかした、て、何を」

「他の一族の女を連れてきたんだ!!」

よほどの事なのか、村人の説明もおぼつかない。

「え?」

「連れ去ってきたと言うことだ。これは、まずいぞ」

圭ですら、相手の動揺が分かった。

他民族。
村全体が慌てるほどの相手。

「東……一族?」

「分からん、だが、見たやつの話では黒髪だったらしい」

そこまで言うと、村人は別の村人の元に駆けていった。
彼自身少しでも情報を得たいらしい。

そこには圭だけが残される。

「まさか」

いや、と圭は自分に言い聞かせる。
黒髪は他民族にも居る。
何も東一族だけではない。

けれど

「……違うよな、杏子」



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「水辺ノ夢」22

2013年10月18日 | 物語「水辺ノ夢」

杏子は、広司を振り払おうとする。
けれども、広司の力は強い。

「なぜ、お前が、俺と圭を知っている?」

広司の問いに、杏子は答えない。
首を振り、云う。
「東一族が、・・・来るかもしれないよ」
その声は、震えている。

広司は、笑う。
「こんな道もないようなところに?」
云う。
「東一族が来るとは思えない」

広司は杏子をのぞき込む。

「お前、うちの村に来たことがあるんだな」

杏子は再度、首を振る。

「おいおい」
広司が云う。
「そうじゃないと、つじつまがあわないだろ?」
さらに、広司は続ける。
「東一族は、舟を持たないよな」
杏子は、広司から目をそらす。
「いったい誰が、お前を西一族の村へ連れて行った?」

広司は、杏子の腕を強く掴む。

「・・・痛っ」
杏子は、顔をしかめる。
「詳しく話を聞く必要がありそうだ!」
「放して!」
広司は、杏子を掴む手に、さらに力を込める。
杏子を引きずる。

「誰かっ」

誰か

杏子の声が、こだまする。
けれども、東一族の村まで、その声は到底届かない。

広司は、杏子の口をふさぐ。
杏子を舟に乗せる。

・・・誰か、・・・助けて

西一族の舟が揺れる。
東一族側の岸を、離れる。

やがて

舟は、霧の中へと、消える。



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「水辺ノ夢」21

2013年10月15日 | 物語「水辺ノ夢」

「……圭……だと?」

舟の上から声がかかる。

違う、圭……じゃ ない。

杏子は目を凝らす。

「なんで、あいつの名前を知っているんだ?」

舟から人が下りてくる。
青年が一人。
少し毛先の色が違うけれど、白い髪。

「……あ、 西一族?」

杏子は後ろへ後ずさる。

だが、それよりも青年の動きは早い。
どんどんと歩いて来て杏子に迫る。

「そうだ、西一族だ!!
 それよりお前、今、圭と言ったか?」

青年は杏子の腕を掴む。

「っ!!」

「答えろ、今、圭と言ったか!!」

杏子は混乱して、とっさに声が出ない。

どうしよう。
どうしよう。

この人は圭とは違う。

でも。

どこかで会ったことがある?
けれども杏子は西一族を圭しか知らない。

ならば、なぜ?

「……あ」

会ったのでない。見たのだ。
圭と一緒に西一族の村に行ったときに。

見回りに来た西一族。
名前は……確か。

「あなた……広司?」

青年―――広司の顔色が変わる。

「圭と、会ったことがあるんだな!!!」



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