場所は村の集会所に移された。
集会所に村長の声が響く。
「さて、広司」
そこには村長と広司しかいない。
「本当に、お前の名前を呼んだんだな?」
広司は頷く。
「……」
集会所に村長のため息が響く。
別室のドアが開き、補佐役が出てくる。
ドアに鍵をかけると二人に向き直る。
「知らない、帰して、を繰り返すばかりだ」
別室には、杏子が閉じ込められている。
「動揺しきっていて、私にはとても諜報員には見えないな。
……あれで、演じているのならばたいしたものだ」
補佐役は視線を送り、指示を仰ぐ。
「しばらくは様子を見るしかないな
村の情報をどれだけ知っているのかも
はっきりさせておかねば」
考えることは多いのだろう。
とりあえず、と
村長は広司に向き直る。
「広司、お前の判断は間違っていない、よくやった。
だが騒ぎを起こしたのも事実だ」
「そうだな、俺が内通者の可能性もあるしな」
「そうは言わない。だが、しばらくは謹慎だ」
「……分かった。詳しく決まったら教えてくれ」
広司は集会所の扉に手をかける。
「ところで広司」
世話役が言う。
「お前は内通者に心当たりはないのか?」
振り返った広司は、薄く笑う。
「ウチの一族で、
―――舟を使うやつは限られているよな」
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