「あら、小鳥がいるわ」
杏子が指をさす。
その先を追うように、真都葉が走る。
「真都葉、危ないわ!」
思った通り、真都葉は転ぶ。
「ほら、気を付けなくちゃ」
杏子が近寄ると、真都葉はひとりで立ち上がる。
服が汚れているのも構わず、走り回る。
・・・子どもの成長は早い。
そう、杏子は思う。
ついこの前、歩き出したと思ったのに、もう走れるようになった。
「ねえ! ねえ!」
真都葉が声を上げる。
鳥を呼んでいるのだろう。
「真都葉、小鳥が驚いてしまうわ」
小鳥は、ふたりを見ている。
「だっこぉ」
「はいはい」
杏子は真都葉を抱き上げる。
小鳥がよく見えるように。
真都葉は手をひらひらさせる。
「とりさん、きてきて」
小鳥は首を傾げるようなしぐさをし、空へと飛んでいく。
「あー」
「行ってしまったわね」
「とりさん・・・」
「また来てくれるわ」
杏子の腕の中で、真都葉はバタバタする。
杏子は真都葉を下ろす。
また、走り回る。
人目を避けて家の中にいるのが、退屈なのだろう。
真都葉は外に出ると、はしゃいでいる。
楽しそうに声を上げる。
西一族の子どもたちと同じ。
普通の子ども。
「あっちあっち!」
「真都葉、それ以上遠くへは行けないわ」
「いく!」
「ダメよ」
真都葉は石を掴み、
土を触り、
花を見る。
「お花きれいね」
「おはなきれいね」
「今度、お父さんに畑に連れて行ってもらいましょうか」
「はたけ?」
「そう」
杏子が頷く。
「いろんな花が咲いているわ、きっと」
「いくー!」
今度ね。と、杏子は真都葉の頭をなでる。
「さあ。そろそろ家に入りましょう」
「や!」
「真都葉、」
「やぁあ!!」
仕方ない、と、杏子は真都葉を抱き上げようとする。
と、
「かあ、だれか」
「え?」
「あそこ」
真都葉は、杏子の後ろを見ている。
杏子は振り返る。
そこに、
誰かがいる。
こちらを見ている。
西一族の誰か、が。
杏子は慌てて、真都葉を抱きかかえる。
家の中に入る。
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