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現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」170

2017年01月06日 | 物語「水辺ノ夢」

「あら、小鳥がいるわ」

杏子が指をさす。

その先を追うように、真都葉が走る。

「真都葉、危ないわ!」

思った通り、真都葉は転ぶ。

「ほら、気を付けなくちゃ」

杏子が近寄ると、真都葉はひとりで立ち上がる。
服が汚れているのも構わず、走り回る。

・・・子どもの成長は早い。

そう、杏子は思う。

ついこの前、歩き出したと思ったのに、もう走れるようになった。

「ねえ! ねえ!」

真都葉が声を上げる。
鳥を呼んでいるのだろう。

「真都葉、小鳥が驚いてしまうわ」

小鳥は、ふたりを見ている。

「だっこぉ」
「はいはい」

杏子は真都葉を抱き上げる。
小鳥がよく見えるように。

真都葉は手をひらひらさせる。

「とりさん、きてきて」

小鳥は首を傾げるようなしぐさをし、空へと飛んでいく。

「あー」
「行ってしまったわね」
「とりさん・・・」
「また来てくれるわ」

杏子の腕の中で、真都葉はバタバタする。

杏子は真都葉を下ろす。
また、走り回る。

人目を避けて家の中にいるのが、退屈なのだろう。

真都葉は外に出ると、はしゃいでいる。
楽しそうに声を上げる。
西一族の子どもたちと同じ。

普通の子ども。

「あっちあっち!」

「真都葉、それ以上遠くへは行けないわ」

「いく!」

「ダメよ」

真都葉は石を掴み、
土を触り、
花を見る。

「お花きれいね」
「おはなきれいね」

「今度、お父さんに畑に連れて行ってもらいましょうか」

「はたけ?」

「そう」

杏子が頷く。

「いろんな花が咲いているわ、きっと」
「いくー!」

今度ね。と、杏子は真都葉の頭をなでる。

「さあ。そろそろ家に入りましょう」

「や!」

「真都葉、」

「やぁあ!!」

仕方ない、と、杏子は真都葉を抱き上げようとする。

と、

「かあ、だれか」
「え?」
「あそこ」

真都葉は、杏子の後ろを見ている。

杏子は振り返る。

そこに、

誰かがいる。
こちらを見ている。
西一族の誰か、が。

杏子は慌てて、真都葉を抱きかかえる。
家の中に入る。


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