「さあ、真都葉」
杏子は袋を見せる。
真都葉がやってきて、それを見る。
「お弁当よ」
杏子は、袋を真都葉に持たせる。
中にはパンが入っている。
「べんとー!」
「そう」
杏子は真都葉を見る。
「たくさん遊んで、お昼になったら食べてね」
「うん」
「それまで開けちゃだめよ」
「うん!」
マツバは袋を持って走る。
「とう! べんとー!!」
「よかったな、真都葉」
圭は、畑に行く準備をする。
「真都葉、支度は出来たかしら」
「はたけ!」
真都葉は、杏子の手を取る。
「かあは?」
「お母さんはお留守番」
「かあもいこう」
「家で待っているわ」
真都葉は杏子を見る。
そして、圭を見る。
「かあ、いかないって」
「お父さんとふたりで行くんだよ」
真都葉はほんの少し、不安げな顔をする。
「何も心配いらないわ」
杏子は、真都葉の手を握り返す。
「だって、真都葉にはお父さんがいるんだもの」
圭は、その様子を見る。
しばらく、
真都葉は杏子の手を握っていたが、自分で手を放す。
圭のもとへ行く。
「とお」
「うん」
「行ってらっしゃい」
杏子は手を振る。
「夕飯を作って待っているわね」
真都葉は圭の手を握る。
反対の手で袋を持ち、その手を振る。
「さあ、真都葉。行こうか」
圭と真都葉は出かける。
ふたりが出て行ったあと、
杏子は掃除をしようと、窓を開ける。
天気は、いい。
「あら」
杏子は木の上を見る。
「ああ、また来たの」
杏子は鳥を見る。
よく、このあたりにやってくる、鳥。
「大丈夫。私は大丈夫」
杏子は云う。
鳥に話しかけるように。
「だから、心配しないで」
鳥は、ただ、杏子を見つめる。
「とう、とりさん!」
圭と歩く真都葉は、木の上を指さす。
「本当だ」
「とりさんねー、まつばにあいにくるねー」
「そうなんだ」
歩きながら、圭は笑う。
「かあにも、あいにくるねー」
「鳥さんは、真都葉とお母さんを好きなんだな」
「ねー」
家と畑は、それほど遠くはない。
けれども、
真都葉はあちこちで立ち止まり、寄り道。
そのたびに、圭もその様子を見守る。
畑への道のりが、いつもの倍。
「とう、はな!」
「うん」
「むしさんいるよー」
「真都葉は虫が平気なの?」
「とりさん!」
「あー・・・、さっきの?」
途中。
数人の村人とすれ違う。
彼らは、圭と真都葉を見る。
何かを話す。
そのまま、通り過ぎる。
真都葉は気付いていないのか、楽しそうにおしゃべりを続ける。
圭は、真都葉の手を握りしめる。
畑に着くころには、日が高くなっている。
「はたけー!!」
真都葉は袋を置き、走り出す。
「とう、またこようね!」
「真都葉、まだこれから畑のお仕事だよ」
「ふふ」
畑作業をする圭の近くで、真都葉ははしゃぎまわる。
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