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現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」172

2017年01月13日 | 物語「水辺ノ夢」

「さあ、真都葉」

杏子は袋を見せる。
真都葉がやってきて、それを見る。

「お弁当よ」

杏子は、袋を真都葉に持たせる。
中にはパンが入っている。

「べんとー!」
「そう」

杏子は真都葉を見る。

「たくさん遊んで、お昼になったら食べてね」
「うん」
「それまで開けちゃだめよ」
「うん!」

マツバは袋を持って走る。

「とう! べんとー!!」
「よかったな、真都葉」

圭は、畑に行く準備をする。

「真都葉、支度は出来たかしら」
「はたけ!」

真都葉は、杏子の手を取る。

「かあは?」
「お母さんはお留守番」
「かあもいこう」
「家で待っているわ」

真都葉は杏子を見る。
そして、圭を見る。

「かあ、いかないって」
「お父さんとふたりで行くんだよ」

真都葉はほんの少し、不安げな顔をする。

「何も心配いらないわ」

杏子は、真都葉の手を握り返す。

「だって、真都葉にはお父さんがいるんだもの」

圭は、その様子を見る。

しばらく、
真都葉は杏子の手を握っていたが、自分で手を放す。
圭のもとへ行く。

「とお」
「うん」

「行ってらっしゃい」

杏子は手を振る。

「夕飯を作って待っているわね」

真都葉は圭の手を握る。
反対の手で袋を持ち、その手を振る。

「さあ、真都葉。行こうか」

圭と真都葉は出かける。

ふたりが出て行ったあと、
杏子は掃除をしようと、窓を開ける。

天気は、いい。

「あら」

杏子は木の上を見る。

「ああ、また来たの」

杏子は鳥を見る。
よく、このあたりにやってくる、鳥。

「大丈夫。私は大丈夫」

杏子は云う。
鳥に話しかけるように。

「だから、心配しないで」

鳥は、ただ、杏子を見つめる。

「とう、とりさん!」

圭と歩く真都葉は、木の上を指さす。

「本当だ」
「とりさんねー、まつばにあいにくるねー」
「そうなんだ」

歩きながら、圭は笑う。

「かあにも、あいにくるねー」

「鳥さんは、真都葉とお母さんを好きなんだな」
「ねー」

家と畑は、それほど遠くはない。

けれども、

真都葉はあちこちで立ち止まり、寄り道。
そのたびに、圭もその様子を見守る。

畑への道のりが、いつもの倍。

「とう、はな!」
「うん」
「むしさんいるよー」
「真都葉は虫が平気なの?」
「とりさん!」
「あー・・・、さっきの?」

途中。

数人の村人とすれ違う。

彼らは、圭と真都葉を見る。
何かを話す。
そのまま、通り過ぎる。

真都葉は気付いていないのか、楽しそうにおしゃべりを続ける。
圭は、真都葉の手を握りしめる。

畑に着くころには、日が高くなっている。

「はたけー!!」

真都葉は袋を置き、走り出す。

「とう、またこようね!」
「真都葉、まだこれから畑のお仕事だよ」
「ふふ」

畑作業をする圭の近くで、真都葉ははしゃぎまわる。



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