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現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「夢幻章伝」50

2015年07月21日 | 物語「夢幻章伝」

遙か昔のことである。
湖に1匹の魔物が現れた。

突然現れた魔物とその強大な力に
人々は為す術が無かった。

自分達だけでは適わない。
他の一族の力を借りねば。

湖を挟み敵対していた数多くの一族は
そう悟り、力を合わせることにした。

長い歴史の中でも
全ての一族が手を取り合ったのは
この時、一度だけである。

水上戦が得意な一族の舟に乗り
三つの目を持ち、遠くまで見通すことが出来る一族が
全ての指揮を執った。
薬に長けた一族が作った毒薬を塗った武器を使い
二つの狩りの得意な一族が
魔物の体力を削った。

最期に
緻密な魔法を使う一族、
封印の魔法を使う一族、
により魔物の封印を行うはずだった。

だが、封印には
魔物の動きを完全に止める必要があった。
体力を削られながらも
魔物は動きを止めなかった。

その時、
湖の南側に位置する一族の若者が
最前列に進み出た。

自分に任せろ、と
彼は一族に伝わる呪文を唱え始めた。

その呪文は
敵どころか味方の動きも止める程の威力であったらしい。


―――という、

「由緒ある呪文でな!!!」
「そうよ、この呪文は
 ゆっくり大きな声で唱えるほど
 効力を上げていく物であって」

恥ずかしい詠唱呪文を聞かれた
アヅチとマツバは一生懸命説明する。

「いえ、あの、お気になさらず」

谷一族のミィチカは
温かくも切ない笑顔で返す。

「そういうのはトウノで慣れています。
 あの、私、聞かなかった事にしますから」

優しさがつらい。

「でも、トウノ以外に
 妄想を繰り広げる人たちが居るなんて
 少し驚いてしまって」

えぐるような言葉の攻撃!!!
マツバは聞かれたのが自分でなくて良かった、と
胸をなで下ろし、
アヅチはちょっと泣きそうになった。

「なんでミィチカがこんな所に」

さっき、谷一族の村の出口で
旅立ちは済ませたじゃないか。

はっ!!

まさか。お宿代を。
二人は焦り始める。

「あ、そうそう、
 これを渡さなくてはと思って」

ミィチカは箱を取り出す。

「お二人に、渡すのをすっかり忘れてしまって。
 お約束の我が家に伝わりし秘宝です」

ずずいっと。

「……え?」
「でも、これ」

アヅチとマツバは戸惑う。
これはトウノを助ける代わりに
貰うというお礼だ。

「私たち、まだトウノを追いかけている最中よ」
「これ、受け取るわけには」

いいえ、と、ミィチカが首を振る。

「受け取って下さい。
 もしかしたら何かのお役に立つかもしれませんし
 私たち谷一族のモットーは
 堅実誠実な前払い、なのです」

ぐさーーーっ。

「あ、あああ、そうだな」
「ありがとう、それじゃあ頂くわ、
 じゃあ、私たち、急いで行かなきゃ」
「受け取ったからには
 俺たち頑張ってトウノを連れ戻さないと」

「あ、前払いと言えば
 私何か伝えなきゃいけない事があった様な」

「いいんだよ、思い出したときで
 それじゃあ、俺たち行くぜ!!」
「急がなきゃトウノに追いつかないものね。
 また今度、さ-よ-う-な-ら-」

アヅチとマツバは猛ダッシュで北一族の村へ駆けていく。

一人残されたミィチカは
あっけにとられて手を振っていたが

「そうだ、トウノを助けてくれる代わりに
 お宿代は結構ですって
 言わなきゃいけなかったのに!!」

思い出してぽつりと呟く。

「あの秘宝、
 お金にはならないと思うし」

アヅチとマツバは
とりあえず猛ダッシュで街道を行く。
もう、ミィチカには追いつかれない早さで。

彼女の姿はとっくに見えなくなっていたが

ダッシュして

とりあえず、ダッシュして。

「「…………」」

無言で急ブレーキをかける。

「ねぇ」
「あぁ」

二人は進行方向を向いたまま
会話する。

「今」
「何か」
「居た、ような」

くるりと後ろを振り向くと。

道ばたに人、が。

「……寝ている」
「……わけないし」


道の真ん中に、老人が。

「「お爺さんしっかり!!!!」」



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