杏子は、湖へと向かう。
誰にも気付かれないように。
ひっそりと。
村を出て、
森を抜け、
湖に、たどり着く。
そこは、深い霧でおおわれていた。
岸の向こうは見えない。
いつものこと、だ。
杏子は、足元を確認する。
濡れていない場所を探し、腰を下ろす。
肌寒い。
杏子は、うずくまる。
目を閉じる。
・・・これから、どうしよう。
ちゃんと考えなければ。
いない。
いない。
もう、いない。
なぜ?
誰に、どう問いても、いない。
いない。
いない。
もう、いない。
いないのだから、
忘れて
自分ひとりで、・・・これから、は。
想い が、杏子の頭の中を回る。
答えは、何も出てこない。
・・・圭は、どうしているだろうか?
杏子は、ふと顔を上げる。
湖を見る。
静かだった水面が、揺れているのに気付く。
杏子は、あたりを見る。
霧の向こうから、ほのかな光。
人工的な、光。
それは、ゆらゆら揺れ、だんだんと近付いてくる。
杏子は立ち上がる。
光を見る。
「・・・圭?」
思わず出た言葉に、杏子は手で口を隠す。
霧の中から、一層の舟が現れる。
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