「……圭……だと?」
舟の上から声がかかる。
違う、圭……じゃ ない。
杏子は目を凝らす。
「なんで、あいつの名前を知っているんだ?」
舟から人が下りてくる。
青年が一人。
少し毛先の色が違うけれど、白い髪。
「……あ、 西一族?」
杏子は後ろへ後ずさる。
だが、それよりも青年の動きは早い。
どんどんと歩いて来て杏子に迫る。
「そうだ、西一族だ!!
それよりお前、今、圭と言ったか?」
青年は杏子の腕を掴む。
「っ!!」
「答えろ、今、圭と言ったか!!」
杏子は混乱して、とっさに声が出ない。
どうしよう。
どうしよう。
この人は圭とは違う。
でも。
どこかで会ったことがある?
けれども杏子は西一族を圭しか知らない。
ならば、なぜ?
「……あ」
会ったのでない。見たのだ。
圭と一緒に西一族の村に行ったときに。
見回りに来た西一族。
名前は……確か。
「あなた……広司?」
青年―――広司の顔色が変わる。
「圭と、会ったことがあるんだな!!!」
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