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現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」140

2016年03月04日 | 物語「水辺ノ夢」

「巧!」

ひとりの西一族の男が、巧に駆け寄る。

「ほら。」
「なんだよ」
「これ。野菜」

見ると、彼は野菜を抱えている。

巧は野菜を見て、彼を見る。

「どう云うつもりだ」

「お前、野菜が欲しいって、何件か回っているだろ」
「・・・・・・」
「受け取ってくれ。お前には借りがあるんだから」

巧は何も云わず、彼を見る。

「肉も少しだけどな、持って来た」

彼は、野菜と肉を差し出す。

「巧」
「余計なお世話だ」
「そう云わずに、受け取ってくれよ」

彼が云う。

「俺に出来ることがあれば、云ってほしい」
「頼むことなんか、何もない」
「巧、」
「気を遣うな」
「ほら。東一族のことも、俺が頼んでやるよ」

その言葉に、巧は目を細める。

「村長に云ってやるよ。お前のところから、東一族を追い出すよう、」
「余計なお世話だ」

巧が云う。

「頼んだ覚えはない」

「え、巧、」

「俺にかまうな」

巧が歩き出したので、彼は慌てる。

「そういうわけにはいかない。俺のせいでお前は腕を失ったんだぞ」

彼は、巧の前に出る。

「なら、せめて、この野菜と肉を受け取ってくれ!」

巧は、彼が持つ野菜を、再度見る。

「な、巧」

「・・・野菜だけもらう」

巧は野菜を手に取り、歩き出す。

「巧! また、野菜を運んでくるから!」

彼が声をかけるが、巧は振り返らない。


人目を避けるように、巧は、家へと戻る。


家に入ると、巧は、坐っていた杏子の前に野菜を置く。

「まあ」

杏子はその野菜を眺める。

「こんなにたくさん。・・・どうしたの?」

杏子が訊くが巧は答えない。

「この野菜・・・」
杏子が云う。
「この野菜を見ると、春だなぁと、思えるわね」

そう、杏子が笑う。

「今日は、これで、スープを作るわ」

巧は外を見る。

外の樹に、つぼみが付いている。
もうすぐ

花が咲くのだろう。



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