「巧!」
ひとりの西一族の男が、巧に駆け寄る。
「ほら。」
「なんだよ」
「これ。野菜」
見ると、彼は野菜を抱えている。
巧は野菜を見て、彼を見る。
「どう云うつもりだ」
「お前、野菜が欲しいって、何件か回っているだろ」
「・・・・・・」
「受け取ってくれ。お前には借りがあるんだから」
巧は何も云わず、彼を見る。
「肉も少しだけどな、持って来た」
彼は、野菜と肉を差し出す。
「巧」
「余計なお世話だ」
「そう云わずに、受け取ってくれよ」
彼が云う。
「俺に出来ることがあれば、云ってほしい」
「頼むことなんか、何もない」
「巧、」
「気を遣うな」
「ほら。東一族のことも、俺が頼んでやるよ」
その言葉に、巧は目を細める。
「村長に云ってやるよ。お前のところから、東一族を追い出すよう、」
「余計なお世話だ」
巧が云う。
「頼んだ覚えはない」
「え、巧、」
「俺にかまうな」
巧が歩き出したので、彼は慌てる。
「そういうわけにはいかない。俺のせいでお前は腕を失ったんだぞ」
彼は、巧の前に出る。
「なら、せめて、この野菜と肉を受け取ってくれ!」
巧は、彼が持つ野菜を、再度見る。
「な、巧」
「・・・野菜だけもらう」
巧は野菜を手に取り、歩き出す。
「巧! また、野菜を運んでくるから!」
彼が声をかけるが、巧は振り返らない。
人目を避けるように、巧は、家へと戻る。
家に入ると、巧は、坐っていた杏子の前に野菜を置く。
「まあ」
杏子はその野菜を眺める。
「こんなにたくさん。・・・どうしたの?」
杏子が訊くが巧は答えない。
「この野菜・・・」
杏子が云う。
「この野菜を見ると、春だなぁと、思えるわね」
そう、杏子が笑う。
「今日は、これで、スープを作るわ」
巧は外を見る。
外の樹に、つぼみが付いている。
もうすぐ
花が咲くのだろう。
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