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現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」141

2016年03月08日 | 物語「水辺ノ夢」

「こちらにきてずいぶん経つけど
 生活には慣れてきた?」

定期の検診で
南一族の医師が尋ねる。

「人の名前は結構覚えてきた
 ……と思う」

何しろ、南一族の村では
村人が普通に話しかけてくれる。
西一族の村にいた頃とは違う。

この村では
誰も圭の事を役立たずとは言わない。

少し心境も変わる。

「何か働き口を探してみようかと
 思っていて」

西一族の村は狩りが出来てこそ全て。
皆の基準はそこにある。

狩りに行けない圭は
働くという選択肢が無かった。

「例えば、畑とか」

西一族の村でも
家庭用の小さな畑を持っていた。
少しなら勝手が分かる。

「いいんじゃないかな」

圭の提案に
南一族の医師は頷く。

「やる気があるのは良いことだよ。
 あてはあるの?」

「これから、探そうかと」

「すぐ見つかると思うよ。
 何せ南一族は農業の村だからね。
 人手があるのは助かる」

医師の言葉に
圭の表情も緩む。

「はりきりすぎないように」

医師はそう声をかける。

数日後、
病院に慌ただしく人が駆け込んでくる。

「おい、敬(たかし)」

名前を呼ばれ、
南一族の医師は診察を止める。

「おや、村長どうしました?」
「西一族の坊主。
 ぶっ倒れたぞ」

はいはい、と
南一族の医師は立ち上がる。

「あぁ、やっぱり倒れたか」

圭は病室のベッドで
ため息をつく。

入院するほどではないが
体調を崩したので
点滴を打っている。

「なんで、
 無理だと言わなかったんですか」
「そこに怒っているのかな」
「……すみません」
「で?」
「俺が働こうと
 言ったときに止めなかった」

「希望することは止めないし
 無理なことでは無かったよ」

あえて言うならば、と
医師は言う。

「君はもう少し
 体調を考えながら作業するべきだったかな。
 ゆっくりならば出来ただろう」

例えば、
家庭菜園を世話する時のように。

「……みんな、そう言ってくれた」

まずは自分のペースで、と。
休憩しながら、と。

「でも
 お金を貰うならば
 皆と同じように出来なきゃ」

結局は西一族で狩りに出たときと同じ事。

皆が優しくしてくれるから
なおさらだった。
惨めであると同時に
申し訳ないと思った。

ここでも良くしてくれている人たちが
きっといつか
圭の事を役立たずと判断するだろう。

「自分の出来る範囲が分かっただけでも
 良いじゃないか。
 そのペースで出来る仕事を
 また探したら良い」

「……そんな上手くはいかない」

「そうかな。
 一回で諦める方がどうかしている」

あのさぁ、と、医師は言う。

「きつい言い方をするとね。
 違う選択肢を探しもしないで
 お前はただ甘えているだけだよ」

「……」

「悪いね、言い過ぎたかな」

と、ドアをノックする音がする。

「ああ、そんな時間か。
 少し相部屋になるから」

今までの会話など
何もなかったように
医師が言う。

ここは軽い処置をする部屋なのだろう。
ベッドは
圭が横になって居る物を含めて
数台並んでいる。

医師は点滴の準備を進めながら
どうぞ、と
声をかける。

黒髪の青年が看護師に支えられて
部屋に入ってくる。



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