蓬莱の島通信ブログ別館

「すでに起こったことは、明らかに可能なことがらである」
在台日本語教師の東アジア時事論評あるいはカサンドラの眼差し

中華人民共和国ブロガーの間で高まる「琉球」奪還論Ⅱ

2005年11月09日 | 「謀略」に抗するために
 前回に続いて、中華人民共和国ブロガーの間で高まる「琉球」奪還論の動向を報告したい。今回、取り上げるのは、以下のブログである。
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中央電視台終於喊出琉球群島是中國的了,振奮啊2005年10月27日
(中央テレビ局が遂に「琉球群島」は中国のものだと叫びだした、震えが来るぜ!)
http://www4.blog.163.com/article/-84Mn-ee9sZy.html
剛看完中央電視台紀念台灣光復六十週年的晚會――平常很少這麼從頭到尾看完一個晚會的,有幾個地方評說評說。
(中央テレビ局が「台湾復帰60周年集会」を記念する番組を見終わって、いつもは、最初から最後までこうした集会を見るのは少ないが、いくつか言ってみたいことがある。)
一、借助七子之歌,中華母親終於向琉球幼子發出了深情而堅定的召喚。越來越多的人知道七子之歌,小日本日子就會越不好過。
(「七子之歌」に喩えて、中国という母親がついに琉球という幼子に向かって心情を吐露し、きっと呼び戻すと告げた。ますます多くの人が「七子之歌」を知るようになれば、ばかな日本の日々はますます悪くなるだろう。)
二、整場晚會是挺悲情的,尤其是前大半場,我一大男人都受不了。台灣人老實向大陸喊悲情,這回大陸也悲情了,兄弟同悲,以後少互相埋怨了。
(集会全体が悲壮な空気につつまれ、特に前半は大の大人の私でも耐えられなかった。台湾人のお年寄りが大陸に悲しみを訴え、これに答える大陸もまた悲しみでいっぱいだった。兄弟は互いに憐れんで、以後、恨みは消えていくだろう。)
三、岳飛的詞《滿江紅》唱得好,有種悲壯的氣勢,而且有震撼的效果。不過說實話,清朝的服裝和長辮子的打扮有點怪怪的。
(岳飛の「満江紅」は上手に歌われ、悲壮な雰囲気を盛り上げ、感動させる効果があった。ただ、本当のことを言えば、清朝の服装と辯髮の紛争をしていたのはちょっとおかしかった。)
四、「四百萬人同一哭,去年今日割台灣」反覆又吟又唱的,我都忍不住了。
(400万人が一同に泣く、昔も今も台湾が割かれていることを)これが何度も繰り返されると、わたしはがまんできなかった。
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 この記事は、中華人民共和国の「網易(ブログ)」で見つけたもので、題名がgoogleに引っかかったらしい。内容には、それらしい文句はない。しかし、これだけでも随分反響があり、記録を見ると閲覧者584名、回答21名で、記事の掲示板にはかなりの書き込みがある。
 このブログを見ていくと、「中日研究」というコーナーがあって、かなりの投稿が毎日ある。「靖国」「東海」「石原」など政治の話題が多数でている。
「中日研究」http://bulo.163.com/group/-0-1R.html
以下に、一部分ひとつだけ記事を紹介する。

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中國其實沒有必要給日本手下留情2005年11月8日
(中国は、日本に対していかなる手加減もする必要はない)
http://www6.blog.163.com/push/-Ehk4-fcSYwK-0-1R.html
(前略)
我想說的是中國政府輸不起這兩場戰爭!只要動武打台灣或日本了,中國會暫停一切發展、傾國力和對手幹一仗!哪怕是向對手發動毀滅性的攻擊。只要開戰,所有的理智將會被我們遺忘,我們不會向任何人屈服,哪怕和敵人同歸於盡!
試想萬一輸了會有什麼後果?首先領土喪失,國格被損,國力削弱,將會遭萬國宰割;其次西藏、新疆、蒙古將會出現危機,屆時國將不國,生靈塗炭,我大好河山必定四分五裂,中國復興之路將遙遙無期;再次海外華人將成為衆矢之的,遭到排山倒海的迫害。那樣領導人將成為千古罪人,遭萬世唾罵!
(私は、言いたい。中国政府はこの二つの戦争(台湾と日本)で負けてはならない。ただ武力によって台湾と日本をたたかなければならない。中国は一切の発展をとめて、国力を傾けても相手に一撃を加えなくてはならない。相手に壊滅的攻撃を加えるのを恐れることはない。ただ開戦あるのみ、私たちは理性を忘れて、いかなる者にも屈せず、敵を殲滅することを恐れてはならない。試しに万一負けた結果を思えばよい。まず領土を失う、国の品格は傷つけられ、国力は弱まり、万国に割讓される。その次に、チベット、新疆、蒙古に危機が起こる。こうなっては国は国ではない。塗炭の苦しみに遇う。私の大好きな国土は四分五裂で、中国復興の道は永遠に遠くなる。海外の中国人は非難の的になり、至るところで迫害にあう。こうした指導者は永遠の罪人となり、永久に唾弃されることになる。)
(以下略)
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 この記事も、先日あげた唐淳風の「中日開戦論」を受けて、”日本と台湾に壊滅的打撃を与えよ”という、こうした愚論を述べているようである。文章を見ると、四字熟語など紋切り型の文句を多数使い自分の感情だけを扇情的に述べており、あまり海外の事情を知らない庶民の若者が書いているらしいことが分かる。今年春の「反日」暴動の潜在的な主体はこうしたブロガーなのかもしれない。中国からは、インターネットで見られる海外の情報に制限があると言われているので、海外の記事を見ていないせいもあるが、いかにも陳腐な紋切り型の四字熟語の多用は明らかに文化的創造力の衰退を示しているとも言える。現実を見ようとする意志がない、こうした無知で愚かな若者を先日の外交官唐のような人物がしたり顔で煽動するのはいとも容易であろう。
 さて、先の記事に戻ると、キーワードがいくつかある。
 ①中央テレビ局の晩會:「中央電視台紀念台灣光復六十週年的晚會」
以上のページを始め、多数の記事がある。

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http://www.huaxia.com/zt/pl/05-087/2005/00379634.html
華夏經緯網10月25日訊:今天是台灣光復六十週年。由中共中央宣傳部、中共中央統戰部、中共中央台灣工作辦公室、台灣民主自治同盟、中華全國台灣同胞聯誼會共同主辦、由海峽兩岸的藝人聯袂演繹的史詩性大型文藝晚會「中華情――紀念台灣光復六十週年」25晚在中央電視台一號演播大廳上演。
(概訳:10月25日は台湾復帰60周年で、中華人民共和国共産党中央宣伝部などが、大陸・台湾の芸能人と連係して歴史叙事詩的な大規模な文芸集会である。CCTV1で上演が放送された。)
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 最近、忙しいので台湾でもニュースがあったのかどうか見ておらず、台湾での反響は分からないが、中国共産党主宰による大陸側の”台湾本土復帰60周年”記念の歴史ショーだったらしい。先の愚かな若者同様、共産党も「理性」ではなく、こうした感情に訴える煽動工作を行っていることが分かる。このショーのニュースはかなり反響があり、各国の中華人民共和国関連のホームページやブログに紹介があり、大陸ばかりではなくアメリカ、ドイツなどのドメインを含め約600件のヒットがあった。

②「七子之歌」
 中華民国時代に作られた祖国回復の歌らしい。以下のような歌詞が紹介されている。

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http://www.wforum.com/newspool/articles/headline/69706.html
《七子之歌》
作者:聞一多
邶有七子之母不安其室。七子自怨自艾,冀以回其母心。詩人作《凱風》以慰之。吾國自尼布楚條約迄旅大之租讓,先後喪失之土地,失養於祖國,受虐於異類,臆其悲哀之情,蓋有甚於《凱風》之七子,因擇其與中華關係最親切者七地,為作歌各一章,以抒其孤苦亡告,眷懷祖國之哀忱,亦以勵國人之奮興云爾。國疆崩喪,積日既久,國人視之漠然。不見夫法蘭西之Alsace-Lorraine耶?「精誠所至,金石能開」。誠如斯,中華「七子」之歸來其在旦夕乎?

  澳門
  你可知「媽港」不是我的真名姓?
  我離開你的襁褓太久了,母親!
  但是他們擄去的是我的肉體,
  你依然保管著我內心的靈魂。
  三百年來夢寐不忘的生母啊!
  請叫兒的乳名,叫我一聲「澳門」!
  母親!我要回來,母親!

  香港
  我好比鳳閣階前守夜的黃豹,
  母親呀,我身份雖微,地位險要。
  如今獰惡的海獅撲在我身上,
  啖著我的骨肉,嚥著我的脂膏;
  母親呀,我哭泣號啕,呼你不應。
  母親呀,快讓我躲入你的懷抱!
  母親!我要回來,母親!

  台灣
  我們是東海捧出的珍珠一串,
  <<琉球>>是我的群弟我就是台灣。
  我胸中還氳氤著鄭氏的英魂,
  精忠的赤血點染了我的家傳。
  母親,酷炎的夏日要曬死我了;
  賜我個號令,我還能背城一戰。
  母親!我要回來,母親!

  威海衛
  再讓我看守著中華最古的海,
  這邊岸上原有聖人的丘陵在。
  母親,莫忘了我是防海的健將,
  我有一座劉公島作我的盾牌。
  快救我回來呀,時期已經到了。
  我背後葬的儘是聖人的遺骸!
  母親!我要回來,母親!

  廣州灣
  東海和匈州是我的一雙管鑰,
  我是神州後門上的一把鐵鎖。
  你為什麼把我借給一個盜賊?
  母親呀,你千萬不該拋棄了我!
  母親,讓我快回到你的膝前來,
  我要緊緊地擁抱著你的腳踝。
  母親!我要回來,母親!

  九龍
  我的胞兄香港在訴他的苦痛,
  母親呀,可記得你的幼女九龍?
  自從我下嫁給那鎮海的魔王,
  我何曾有一天不在淚濤洶湧!
  母親,我天天數著歸寧的吉日,
  我只怕希望要變作一場空夢。
  母親!我要回來,母親!

  旅順,大連
  我們是旅順,大連,孿生的兄弟。
  我們的命運應該如何的比擬?
  兩個強鄰將我來回的蹴蹋,
  我們是暴徒腳下的兩團爛泥。
  母親,歸期到了,快領我們回來。
  你不知道兒們如何的想念你!
  母親!我們要回來,母親!

這篇組詩作於1925年3月,當時聞一多正在紐約。  
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 台湾の部分は以下のような意味である。

台灣
  我們是東海捧出的珍珠一串,   我々は東海に突き出た一連の宝珠だ
  <<琉球>>是我的群弟我就是台灣。 琉球は我々のたくさんの弟、私とは台湾だ。
  我胸中還氳氤著鄭氏的英魂,   私の胸には鄭氏の魂が宿っている
  精忠的赤血點染了我的家傳。   忠誠の赤い血は我々の家伝を染めている。 
  母親,酷炎的夏日要曬死我了;  おかあさん、炎天下の夏の日が我々を日干にしようとしている
  賜我個號令,我還能背城一戰。  私に命じてくだされば、町を後に戦いに向かう
  母親!我要回來,母親!     おかあさん、私は帰りたい、おかあさん。

 1925年に作られたとあるから、辛亥革命の頃、中華民国時代の歌であり、欧米列強と日本の侵略に置かれた当時の中国の状況と、核兵器と世界で最も強大な陸軍兵力を有する今の中国の状況とはまったく違う。しかし、中国共産党がこの歌を再び持ち出したのは、この国が、第二次大戦後の国連の秩序ではなく、第二次大戦前の恐怖と暴力の時代を継承することを宣言しているのと同じである。中国におけるファシズム化の論理が、この歌からも明らかに読み取れる。
 また、歌の焦点がどこにあるかも明かである。歌詞の中の土地のうち、台湾以外はすでに、すべて中華人民共和国領である。歌詞の中には、「琉球」とはっきり出ており、しかも「母親,酷炎的夏日要曬死我了;おかあさん、炎天下の夏の日が我々を日干にしようとしている」で、夏の日として明らかに日本が揶揄されており、「賜我個號令,我還能背城一戰。私に命じてくだされば、町を後に戦いに向かう」と、対日宣戦布告も暗示されている。元の歌詞とは違って、日本を早期に軍事攻撃して、台湾と沖縄を中華人民共和国領化しようとする現在の中華人民共和国の軍事的拡張主義の主張が、込められた歌として使われているのである。
 かつての旧日本帝国がそうだったように、このように歴史や文学を時の権力に都合よく書き換えるのは、独裁的政権の特質であり、今の中華人民共和国がかつての日本帝国と非常によく似た行動をとっているのが、よく分かる。
 このショーが、中国共産党主宰で行なわれた意味を、私たちはよく考えるべきであろう。

 なお、不思議なことに、先に紹介した感想②とまったく同じ内容がこのページにもあって、その後に「七子之歌」が引用されていた。試しに「中央电视台终于喊出琉球群岛是中国的了」で検索してみると、約900件のヒットがあった。特定の人物または組織が、何か意図を持って複数のブログに書き込みをしている可能性があるかもしれない。「謀略」は、現代ではこうして意図も簡単に情報操作によって作られてしまうのだろう。
 


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4 コメント

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Unknown (りえたん)
2005-11-10 11:33:23
CCTVでおばちゃんが昔の歌を歌っただけですよね。中国人は沿海州が入ってないのは何故だろう?とか思わないのかな。
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光復60周年番組について (蓬莱島山人)
2005-11-10 17:16:52
りえたんさん、大陸が開いた「光復60周年晩会」は、内容を調べてみると、ほとんど「反日」色一色のショーだったようです。実は、「七子之歌」を始め、全部が”台湾が大陸に帰服しないのは、日本が悪い”という宣伝になったようです。追って、ショーの概要を紹介した大陸の新聞を訳すつもりです。
返信する
ご無沙汰しております! (tsubamerailstar)
2005-11-11 16:01:12
ご多忙なようでしたが、落ち着かれたそうで何よりです!

先月下旬に台北市とその近郊にちょっと物見遊山に赴きましたら、意外と寒かったですね。帰国しましたら出国時よりひんやりしてましたので、「そんな季節なんだな」と実感した次第です。



原点の旅行路線に戻さないととは思っているのですが。(汗)
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台湾国内も騒動しています (蓬莱島山人)
2005-11-11 16:40:42
tsubamerailsatarさん、ご無沙汰しております。台湾へ先月お出でになったとのことですが、先月末は冷え込んで冬の天気でしたが、今月に入って毎日30度の日が続き、今日見ると避寒桜から若葉が出ていました。選挙も近づいて国内も落ち着きません。暫くぶりで大陸のブログを見ていると、「琉球」奪還という記事が目に付くことに気が付きました。少しずつ紹介してみますね。

できればこんな記事を書いて時間を費やすのはさけたいのですが、大陸では”対日開戦論”などという、とんでもない論が横行しているようで、いつになれば、台湾の紹介ができるのか。学生に倣ってORZ!!
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