『夜間飛行』

また靴を履いて出かけるのは何故だろう
未開の地なんて、もう何処にもないのに

『土を喰う日々』 水上勉

2010-05-30 | Books(本):愛すべき活字

『土を喰う日々 ―わが精進十二ヵ月―』
水上勉(1919-2004)
1978年・文化出版局
1982年・新潮文庫


++++

「承弁や。またお客さんが来やはった。

こんな寒い日は、畑に相談してもみんな寝てるやもしれんが、二、三種類考えてみてくれ」


承弁というのはぼくの僧名だった。


酒の方が第一だから、先ず、燗をした徳利を盆に、昆布の揚げたのをつまみにのせて出しておいてから、台所で考える。

くわいを焼くのは、この頃からぼくのレパートリーだった。


のちに、還俗して、八百屋の店頭に、くわいが山もりされ、都会人には敬遠されるとみえ、ひからびているのを見ると、涙が出たが、一般には煮ころがしか、あるいは炊きあわせにしかされないこれを、ぼくは、よく洗って七輪にもち焼き網をおいて焼いたのだった。

まるごと焼くのだ。


ついさっきまで土の中にいたから、ぷーんとくわい独特のにがみのある匂いが、ぷしゅっと筋が入った亀裂から、湯気とともにただようまで、気ながに焼くのだ。

(中略)

ぼくは、この焼きあがったくわいを大きな場合は、包丁で二つに切って皿にのせて出した。

小さな場合はまるごと二つ。

わきに塩を手盛りしておく。

これは酒呑みの老師の大好物となった。

++++


ここにある通り、水上さんは少年時代に禅寺の侍者を経験している。

承弁という僧名は、きっと突っ込むべきではないのだろう。(不信心者っ!)


その後、齢をかさね60歳を前にして、軽井沢の仕事場にて、少年時代の老師とのやりとりに思いを馳せながら、精進料理と共に歩む1年間を描く。

何でもかんでも、季節を問わず食料が買えてしまう現代。

輸入物や温室物のオンパレードで、ヘタをすると旬という概念さえ失われつつある。


しかし、いざ身のまわりの畑や野山から調達した食材で生活していこうと思うと、老師の言うとおり、まさに「畑に相談する」しかないのである。

1月から12月までが各章に別れ、それぞれの月の楽しみが記される。


貯蔵庫から芋を取り出すしかない1月、蕗の薹を網で焼く2月があるからこそ、5月に筍が顔を出す時、自然と顔がほころぶのだろう。

素敵だなぁ、自然との対話。


・・・という内容の本を、ホテル日航のイタリアンを満腹食べた帰り道で読んだ。

プフォッ、もう食えない、マジで。


水上さんの調理中の写真がちょっと多すぎる気はするけど、いい本だ。


■YOUはShock(食)!!

『壇流クッキング』 壇一雄 (1975)
『土を喰う日々』 水上勉  (1978)
『よい匂いのする一夜』 池波正太郎 (1981) 
『喰いたい放題』 色川武大 (1984) 
『酒食生活』 山口瞳 (2002)
『そうざい料理帖 巻二』 池波正太郎 (2004) 
『食の王様』 開高健 (2006) 
『やさしさグルグル』 行正り香(2008) 
『ちびちびごくごくお酒のはなし』 伊藤まさこ(2009) 
『ごはんのことばかり100話とちょっと』 よしもとばなな (2009)
『小津安二郎 美食三昧 関東編』 貴田庄 (2011)
『サンドウィッチは銀座で』 平松洋子 (2011) 
『ひと皿の小説案内』ディナ・フリード (2015) 

 

<アマゾン川>

土を喰う日々―わが精進十二ヵ月 (新潮文庫)
水上 勉
新潮社

 


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1 コメント

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読んだー (こうの)
2010-10-11 01:44:34
図書館で別の本を探していて偶然、見かけてレビューしていたなぁ、と思い出してぱらぱらっと。料理のジャンルのとこにあったよー。

表紙がここにあげられているのと違って、水上さんが高名な誰とかさんにお願いして書いてもらった題字がメインというかそれだけのシンプル?地味?な装丁だった。

水上さんがロマンスグレーな感じで好みだったわ~。いらん情報ね~。

いろんな煩わしいことを捨てて、ひっそり静かな山奥で空や風を見て暮らしたくなるねぇ。あ、土か。


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