『夜間飛行』

また靴を履いて出かけるのは何故だろう
未開の地なんて、もう何処にもないのに

『よい匂いのする一夜』 池波正太郎

2010-03-27 | Books(本):愛すべき活字

『よい匂いのする一夜』
池波正太郎(1923-1990)
1981年・平凡社
1986年・講談社文庫

++++

私は、この宿の家庭的なもてなしと、朴葉味噌(ほおばみそ)が、すっかり気に入ってしまった。

囲炉裏の上の金網へ朴の葉に盛った味噌とネギのぶつ切りを乗せ、焼きあがってくるのを、ふうふういいながら食べる。

東京の者にとっては、このうまさはまったく経験のないものだった。


(戦争が終わったら、また、高山や、この宿へ来てみたいな)

そうおもった。

おもったが、絶望した。


戦争はいずれにせよ終わるだろうが、そのときまで私の命があるかどうかわからない。

おそらくないだろう。


間もなく、私は海軍へ入り、どこへ行くかわからぬが、戦争中の日本の一兵士になることは決定している。

++++


湯布院・玉の湯、厳島・岩惣、京都・俵屋・・・

池波さんの旅が、良い宿を中心に綴られる。


文章が上手いとはこういう事を言うんだろう。

例え満員の通勤電車で読んだとしても、10ページの小旅行に連れて行ってくれる。

(だいたい一宿10ページくらいでまとめてある)


この本で取り上げられている何軒かの宿には俺もお世話になったことがあるが、やっぱりその時は池波さんの本に書いてあった事を思い出しながら、景色を見たり、同じメニューを頼んでみたりする。


食通として知られた池波さんは職業病的(?)に痛風なわけだが、

さっき湯船の角に足先が触れただけで飛び上がって悲鳴を上げたのに、

その後ちょっと調子がよくなると、食堂にいってステーキを食べていたりする。

そりゃ、一生治らんで・・・。


池波さんは戦後の急速な近代化(金銭至上主義)のせいで、多くの旅館は居心地の悪い不潔なものに変わってしまったと嘆き、だからこそ、この本で取り上げたような心意気を保った宿を愛し、ここに記録している。


「料理の一品二品を減らしても、私は掛布団のカバーを替えてもらいたいと思う」

これは至言だと思う。

氏の旅館観(変な言葉、勝手に今作った)みたいなもんを一言で言い表してる。


名刺に刷りこんでおいて、チェックインのとき、女将に渡したらどうだろう。


ああ、今夜から3泊でお願いします。

ちばみに、私こういうものです。

「料理の一品二品を減らしても、私は掛布団のカバーを替えてもらいたいと思う
 ―池波正太郎―」

絶対カバー替えるでしょ。


■YOUはShock(食)!!

『壇流クッキング』 壇一雄 (1975)
『土を喰う日々』 水上勉  (1978)
『よい匂いのする一夜』 池波正太郎 (1981) 
『喰いたい放題』 色川武大 (1984) 
『酒食生活』 山口瞳 (2002)
『そうざい料理帖 巻二』 池波正太郎 (2004) 
『食の王様』 開高健 (2006) 
『やさしさグルグル』 行正り香(2008) 
『ちびちびごくごくお酒のはなし』 伊藤まさこ(2009) 
『ごはんのことばかり100話とちょっと』 よしもとばなな (2009)
『小津安二郎 美食三昧 関東編』 貴田庄 (2011)
『サンドウィッチは銀座で』 平松洋子 (2011) 
『ひと皿の小説案内』ディナ・フリード (2015) 


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よい匂いのする一夜 (講談社文庫)
池波 正太郎
講談社

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1 コメント

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みつからなーい! (こうの)
2010-04-17 17:12:04
汐留と新所沢のリブロで探したけど、この本が見つからないわ~。

しかたがないから、昨日、村上春樹のBOOK3を買っちゃったf^_^;

ミーハーσ(^_^;)

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