ましログ

日常と好きなものと母の自宅介護の極私的記録

あの娘に会いに

2015-08-02 22:43:39 | バイコヌール 旅行
カウントダウンはない。
時計を見ると深夜3時を過ぎている。
何度もテレビで見た光景。
けれどもこれは全く違う。
目の前に画面はない。
誰かが「はずれた!」と声をあげる。
発射台に目をむける。
燃料補給マストが倒れていく。
打ち上げまで40秒を過ぎている。
え?もうそんな時間?
時間の感覚があやふやになる。
考える間もなく、今度は下のマストがはずれる。
突然、
シャーっという轟音と共に
ゆっくりとオレンジ色の光がロケットを照らす。
点火した。
まだロケットは飛び立たない。
大地がぼうっと照らされていく。
煙があがる。
二度目の閃光。
眩しい。
白い。
さっきの比じゃない。
大地が昼間のように照らされる。
見えていた星々が見えなくなる。
まるでドームの中にいるように
空がのっぺりとグレーに照らされる。
緊張して体が震えている。
違う。
胸に響いてる、、、音じゃない。
衝撃波。
体がビリビリと揺さぶられる。
こんなにすごいのか…。
圧倒される私の心など意に返さず
最後の支柱が花ひらく。
ゆっくりとあがっていく ソユーズ TMA-17M 。
あっけなく。
素知らぬ顔で。
ほんの一瞬の出来事。
この場所では何度も繰り返されてきた風景。
私にとっては一生に一度の風景。
加速してゆく機体。
太陽のように丸い閃光が
みるみる星の大きさになっていく。
体を裂くように響いていたメロディーが
だんだんと小さくなる。
自分の息が荒い。
遠い。
さっきまですぐそこにいたのに、
もう手の届かない場所にいる。
天に昇っていく火の玉は
やがて地球の丸みに沿うように
地平線へ落ちていく。
ロケットの後にうっすらと漂う雲。
あっという間に8分50秒。
宇宙船がロケットから切り離される時間。
飛行士が宇宙を感じる瞬間。
周りで起こる拍手。
祭りのあと。
旅の終わり。
寂しいような、満たされたような
自分の感情をとても整理しきれなくて
同行者の菊地涼子飛行士と握手をした瞬間
思わず泣いてしまった。
菊地さんは「よかったね」と
優しく言葉をかけて下さった。
「あそこから見ていたんだよ」と、
25年前、自身がバックアップクルーとして
打ち上げを見ていた場所を教えてくださった。
著書で「けじめをつけにきた」と
その日の事を語っていた菊地さん。
同じかもしれない。
見上げてみれば、
自分の足元も
少しはしっかり見えてくるんじゃないだろうか。
そう思ってここに来た。
ソユーズに会いに。


旅の全記録はコチラから→「バイコヌール珍道中・早見表



写真のデジタル現像処理を友人でありカメラマンの
東氏にやって頂きました。
旅の直前、露出のあれやこれやも指南してくれ
おかげで一生の思い出を記録として残すことができました。
感謝!


東氏のお店はコチラ
リミエ写真機修理工房
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