ロシア正教のニコライ堂があったおかげで、御茶ノ水地区は空襲をまぬがれたという説がある。してみると、東京の下町には、守るべき文化遺産がなかったのかねと絡みたくもなるが……。ニコライ堂の鐘は風に乗って、駿河台下まで聞こえてくる。黒い法服の神父が時おり犬を連れて散歩している。11月だかにバザーがある。ギリシアやトルコのワインのほかに、水で割ると白濁するウゾという強い酒も並ぶ。キリスト教でも、どこか東ローマ帝国の土着のにおいがあると思う。
フェラーラの評判がよいのか、姉妹店で三井住友海上ビルの南側、三井住友海上小川町ビルに出たのが「イザベラ・ディ・フェラーラ」。フェラーラよりもっと気取っている。結婚式の予約も承っているとかで、ＯＬさんは好きそうだけれど、気軽に入れる雰囲気の店じゃありませんね。この場所に昔、筑摩書房があった。玄関を入ると、すぐ日本電報通信社（電通の前身）寄贈と書いた大きな振り子時計があったのを覚えている。
三井住友海上は、昔、中央大学があった敷地に建つ。道路を挟んで御茶ノ水駅よりに三井住友海上の別館があって、ここにイタリア料理のレストラン「フェラーラ」がある。気取っている。テーブルにつくと、花瓶のような水差しが置かれている。昼のパスタなら千円程度だが、パスタにパン２切れ、サラダじゃ、夕方までもたない。外から丸見えなのもいやだし。だいたい、「リストラ」なんて名前が最低だ。
神田女学校の向かい、水道橋駅に近い。門柱に「文化庁有形文化財」とあった。入るとすぐマリア像がある。建物も日干し煉瓦づくりのようで、南欧風の香りがある。宗教心がないので、この建物を利用すれば、おしゃれなレストランができるなどと考えてしまうが、結婚式はあげられるようだ。舞浜のエクスピアリの建物と似ている。ロマネスク様式とルネッサンス様式を融合した設計。神田教会は明治７年創建。現在の建物は昭和３年竣工。フランシスコ・ザビエルが保護聖人で、聖遺骨を安置する。
朝、通勤時に平和堂の角を曲がったら、お旅所が出来ていて驚いた。神田祭りだ。そういえば何日か前から飾りが目に付いた。神田祭りは今度の土日に神輿が出るのかな。どうも子供の頃からお祭りは苦手で、だいたい、あのファッションになじめない。それとワッショイとかセヤセヤとかいう掛け声が恥ずかしい。それとも、みんなで同じものを一斉にかつぐことに嫌悪感があるのだろうか。
今日は天ぷらにするか、とんかつか、昔から迷うことが多かった。油ものでは同じかもしれないが、学生の時は、問題なく「とんかつ」を選択した。この年齢になると、どちらも気が引ける。で、たまに入るのが天丼だけの「いもや」。この店は一人で入るのが原則で、２人、３人はどうでしょうか。空いた席から座らされるので、どうしても隣同士じゃなきゃいやという人には向かない。標準的にはエビ、イカ、キス、かぼちゃ、のりの天ぷらに甘辛いタレをさっとかけてある。竹筒に入った七味を一振りするとうまい。味噌汁はさいの目の豆腐かしじみが多い。１００円でエビ、イカ、キスが追加できる。一度、追加を頼んでみたいなと思いつつ、まだ頼んだことがない。天ぷらを揚げているオヤジの後ろを店の若い衆が通る時、「うしろ、通ります」というセリフが気持ちいい。
神保町三井ビルで移転してしまったが、明文図書のあたりに「餃子屋」があって、いつもサラリーマンで混んでいた。ぼくはまだ大学を出たばかりのフレッシュマンで、先輩社員に連れて行かれた「餃子屋」で、客がみんなラーメン餃子を注文するので驚いた。ぼくは昼食代を節約しようと、単品でラーメンを頼んだ。あのころから餃子屋は量は多いが安くはなかった気がする。「天鴻餃子房」は「餃子屋」の系列だが、原点に帰って餃子をアピールしたのがえらい。しかし、中国人の安い労働力をうまく使っただけなのかもしれない。となると、昔からあるが発展しない、すずらん通りの「スヰートパオズ」をどう位置づけたらよいのだろう。
最近はおにぎりというと、コンビニのおにぎりばかりだが「らいす倶楽部」は米屋がやっているので、ごはんがうまい。定番のシャケ、たらこ、おかか、昆布といったところからウインナ、シュウマイ、沖縄ミソと変わりダネも並ぶ。コロッケ、きんぴら、かぼちゃ、おひたしと、いかにも手作りのお惣菜が買える。昼休みになると行列ができる。順番が来た時はさっと注文しないと後回しになるので、一気に注文の品を頼むこと。錦華通り、北神保町郵便局そば。