遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(468) 小説 いつか来た道 また行く道(28) 他 無は無限大

2023-10-08 13:08:00 | つぶやき
            (2023.6.24日作)



 無は無限大 限界はない  
 存在が限界を定(き)める
 無の心
 一つ一つに反応
 囚われの心
 制限 限定
 自由な羽ばたき不可
 軌道修正 束縛される
 無心 無
 純白 無
 可能性 無限大
 何色にも染まる



              

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            いつか来た道 また行く道(28)



 
 
 炎が消えて炉の中に灰を見た時、これで計画の第一段階が終了した、と思った。
 残る懸念は中沢の交友関係だった。それでも、それは余り心配しなかった。
 おそらく中沢同様、彼等の誰もが脛に傷を持つ存在に違いないと推測した。
  中沢の不在を嗅ぎ付けても声高に騒ぎ立てる事はないのではないか。
 どの道、中沢の交友関係なら、裏街道を生きているような人間達に思えた。         
 中沢自身、友達らしい友達の居ないような事も言っていた。   
 それも安心材料の一つになっていた。
 わたしの平穏は保たれた。
 何事もない日々が続いた。
 安心感と共に妄想に苦しむ事もなくなった。
 わたしはまた、レストランで食事をしたり、仕事仲間と一緒に映画の試写会に行ったり、劇場へ足を運んだりしていた。
 街路樹の陰に男の姿を見たのは中沢栄二を殺害してからひと月以上が過ぎた日の夜だった。
 来春のブラウスの売り込みに来た業者が帰った後、一息入れる為にタバコに火を付け窓辺へ行った。
 クリスマスの飾り付けや年末の装いなどを凝らした街は華やいで見えた。
 しばらくはその街並みの華やぎを見下ろしながら吹かす煙草の煙りと共に、順調に進んだ商談への満足感に浸っていた。
 煙草の灰が長くなり、短くなった煙草に気付いて慌てて手にした灰皿の中で火を消して窓辺を離れようとした時、ふと、思いがけず眼に飛び込んで来た一つの景色に心が留まった。
 おやッ、なぜだかその時、そう思った。
 一本の街路樹に身を寄せて黒っぽい服装をした一人の男がタバコ を吹かして立っていた。
 普段、何処にでも見られるありふれた光景だった。
 それでいながら何故かその時、そう思っていた。
 わたしは窓の横の壁に身を隠して男の様子を窺った。
 男の動きに不自然さは見られなかった。男はただ、通りを見詰めたまま街路樹に身を持たせ掛けて退屈そうに煙草を吹かしていた。
 しばらくはそんな男の様子を見詰めていた。
 依然として、男の様子に不自然さは見られなかった。
 気のせいだ、とわたしは思った。と同時に、心の奥の何処かではまだ、怯えの意識が抜け切っていないのだろうか、と自分自身の気持ちを思って沈み込む気分になっていた。
 二度目に窓辺へ行ったのは四十分近くが経った午後七時過ぎだった。
 シヤッターを降ろす前に用心の為にカーテンの隙間から覗いて見ると男の姿は既になかった。
 やはり気のせいだ、となぜか安堵する気分に包まれていた。
 その日、それでもわたしは車を出す時、何時ものように正面の出口から出る事をしなかった。裏の出口を使っていた。無意識裡の行動だった。何故、そうしていたのか、自分にも分からない。自然な気持ちでそうしていた。無意識裡の警戒心かも知れなかった。
 男の姿を再びその場所に見たのは、三四日経ってからだった。
 男は同じような服装で同じように煙草を吹かしながら立っていた。
 昼間見た時には居なかった。
 午後六時過ぎの退社時間に近い時刻だった。
 男のその黒っぽい服装と共にわたしは再び眼にした男の姿に、もしや刑事では ? という警戒心に捉われていた。
 胸の鼓動が早鐘を打った。
 わたしは黙ったまま窓辺を離れた。
 まだ社員達も居た。
 その日もわたしは社員達が帰った後、最後まで事務所に残っていた。
 帰る時間になって先程眼にした男の存在が気になって再び窓辺に行った時、男の姿はなかった。七時に近い時刻だった。
 いよいよ帰る時になって事務所の扉を閉め、鍵を掛けてハンドバッグに合い鍵をしまいながら人気のない廊下を歩いている時、ふと、思わぬ不安に捉われた。
 もしや、先程、姿を見せなかった男がこの人気のない廊下の何処かに身を隠して待ち構えているのではないか ?
 勿論、理由のない不安だった。
 それが、中沢を殺害して葬った事による無意識の怯えによる不安だという事はすぐに理解出来た。
 日頃、平静な気持ちで日々を送って居ながら、依然として心の奥底の何処かでは無意識裡の怯えに怯えている自分自身を、改めて意識せずにはいられなかった。
 その無意識裡の不安に怯えながらその日、わたしは自分の車を使わなかった。
 依然として先程見た、正体の知れない男の姿と共に、あの男が刑事だとは限らないだろうし、わたしの様子を窺っていたという証拠になるようなものも無いのだ、と思いながらもなお、怯える心のまま警戒心を解く事が出来ずに駐車場の裏口から出て、タクシーを利用して自宅に帰った。
 その夜は眠れなかった。同じ男の姿を二度、同じ場所に見た、という事実が胸の底に凝(しこり)となって絡み付いていた。
 何でもないのだ、思い過ごしにしか過ぎない、わたしのあの秘かな行動が他の人に知られるはずがない。
 そう心に言い聞かせて眠りに入ってもすぐにまた、奇妙な夢を見ては眼を覚ました。
 何度かそんな事を繰り返した。
 それでも朝が明けると何時もの様に身支度を整えて出社した。
 何時もと同じ様に仕事をした。
 その間には何度も窓辺へ行って外の様子を窺った。
 男の姿はなかった。
 やっぱり、気のせいだったんだ、と自分に言い聞かせた。
 そしてまた三四日、男の姿を見る事はなかった。
 その電話が鳴ったのは、午後九時を過ぎていた。
 わたしは自宅に居て夕食も済ませ、テレビを点けたまま最新のモード雑誌に眼を落としページをめくっていた。
「はい、杉本です」
 わたしが応えると電話の相手は、
「杉本美和さんのお宅ですか」
 と言った。
 男の声だった。
「はい、そうです」 
 今頃、聞き慣れない男の声で電話を掛けて来るなんてなんだろう、と軽い不審の気持ちと共に答えると、
「ブテック・美和の社長さんですね」
 と、男の声は言った。




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             桂蓮様

              新作 拝見しました
             勉強 人は一生勉強ですね
             もう ここで良い という事は無いですね
             総ての事象はそれぞれ何処かで少しずつ違っている
             その度に人は勉強をしている という事ではないでしょうか
             書物を読んで得る知識 実際に体験して得る知識      
             体系化出来る知識はどちらでしょうか ? わたくしは常々
             知るという事は自身の血肉と化す事だと思っています
             その点で書物から得ただけの知識はまやかしものだと思っています
             どんな偉い学者の言葉より実際にその場に立ち会っている人間の言葉を信じます
             その言葉には実践者でしか知り得ない深い真実 叡智が必ず含まれています
             漁業にたずさわる人 農業に係わる人 工場で小さなネジを造る人
             その場に係わる人の言葉には実践者でしか知り得ない
             深い真実が隠されています その小さな真実は理論 理屈の上には表れません
             実践者の感覚でしか掴み得ません そしてそれが出来た時にこそ
             初めて知っている という事が出来るのだと思います
             そうです 体系化出来るのです 実践者は必ず細かい部分
             眼に見えない部分までも説明してくれます それが
             知っているという事の真の姿ではないでしょうか
             その点で現在の世の中はなんと似非(えせ)知識人の多い事か !
             何処かから見聞きして来た情報を得意気に語って知っている振りをする
             世の中そんな人間達で溢れています テレビやインターネット
             知ったかぶりの知識人達のなんと多い事か 新作を拝見しまして
             改めてそう思っているところです      
              大変 興味深い記事 面白く拝見しました
             有難う御座いました
             また何時もわたくしの駄文にお眼をお通し戴く事に
             改めてお礼申し上げます



               takeziisan様


                コメント有難う御座います
               さすが物語を読み慣れた方の御感想 的確にお読み戴いていると
               嬉しい気持ちになります    
               結末についてはどうなるか筆を進めて見なければ分からない部分です
               大方のシナリオは出来ていますが 物語は主人公の動きによって
               作者自身 思いも掛けない方向へ進んでしまうものです
               多くの作家の方々がそう言って居ます また
               そうでなければ作品としては生きたものにはなりません
               作者が考えて作るものではなくて作中人物達の動きを追っているうちに
               作品が出来上がってゆきます ですから粗筋に従って題名を付けたりしていても
               結末はどうなるかは分からない部分です
                 思わぬ方角に進んでしまう事もあります            
                御丁寧にお読み戴き感謝しています
               今回も様々な記事 楽しく拝見させて戴きました
               ドングリ 少ない
               やはり異常気象でしょうか 木の実が少ない為 
               人里への熊の出没も増えているという事ですので
               また野菜なども今年は例年になく品薄になっていますね                          
               その高値にびっくりします
               自家製の梅酒で一杯 最高の贅沢 喜びではないでしょうか               
               それにしてもイノシシ リアルな足跡 傍目にはその環境の素晴らしさが
               実感出来るのですが 実際問題としては そんな暢気な事など言ってられない
               そういう事でしょうね 
                悲しき口笛 天才少女 美空ひばり
               面目躍如たるものが有ります 以前にも書きましたが
               完全に大人の歌になっています 何よりもこの頃の歌には飾り気がなくて
               素直に耳に入って来ます 画面を見ていて懐かしさと共に  
               当時を思い出して胸が熱くなりました
                後年 美空ひばりを初めて舞台に見た時には
               そこにいて歌っている 小柄な女性がどうしても実物の美空ひばりとは思えない
               奇妙な感覚を味わった事があります
               自分の頭の中の美空ひばりの存在の大きさと
               実物の一人の小柄な女性とのギャップに混乱していたのです 
               不思議な感覚でした
                脚 腰 痛っ 痛っ ! 年齢と共に確実に 肉体の衰えてゆく事が実感出来ます
               わたくしもこの夏の猛暑による肉体の衰えのせいか 
               膝の痛みに悩まされました でも 宣伝しきりの薬など使うのも嫌だし と思い
               柔軟体操 マッサージなどで紛らわして来ました
               暑さも収まり さてこれからどうなるか ?
               幾分 以前より楽になった気がします
                これから歳を重ねるばかり どうぞ御無理をなさいません様に
               何時も楽しい記事共々 有難う御座います
               御礼申し上げます
                なお 前回のお礼を書いた文章で一部
               「です」の所で「す」の字の抜け落ちている部分がありました
               何時も細心の注意を払っている心算ですが
               大変失礼しました 改めて直して置きましたが
               この器具の便利さと共にちょっとした事でミスにつながる
               恐ろしさを実感しました





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