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六月の風2 日高

北海道の面積は本州の約三分の一。
札幌―根室間は500㎞を越える。
北海道は広い。
札幌から襟裳岬までは240㎞弱。
太平洋に沿った235号線をひたすら南東に走り続ける。
鵡川のコンビニでトイレを借り、おにぎりと缶のカフェオレで糖分とカロリーを補給したら、つらい巡航の始まりだ。

朝の通勤通学時間帯にかかって来た。
とはいえ、人口の少ないこのあたりでは、そういう渋滞は起きない。
ただ、イエローラインでゆっくり走る軽トラックや営業車の後ろについての淡々とした巡航が続く。

実はこうしただらっとした巡航が最も肩凝りを誘発するのだ。
パーシャルを維持したスロットルは視界を遮る前車の動きで唐突にブレーキや加速を強いられ、しかもそれはたらたらしたペースのために緊張感を保ちにくい。自然、ニーグリップは甘くなり、腹筋背筋で上半身を支えることをいつの間にかサボって、加減速のたびにハンドルを持つ手に上体の荷重が影響することになる。肩の筋肉は緊張し、気づかないうちに深刻な肩凝りを呼ぶことになる。

僕の感覚ではバイクは車の後ろでたらたら走ってるときが一番危ない。
車を避けるように、新冠から内陸に進路を外した。


日高地方は国産競走馬の聖地と言ってもいい、サラブレッドの牧場がたくさんあるところだ。
ちょうど今、この春生まれた子馬がお母さんと一緒に草を食べたり、ちょっと甘えたり、走りまわったりして、すくすくと育っている、その最中だ。

馬はとても気がやさしく、怖がりでもある。
まして競走馬は生育環境にもとても気を使う。
できるだけ驚かさないように、そっと遠くから見るのがいい。
バイクのエンジンを切り、柵の中でのんびりしている馬達をのんびり見ていたら、背後で子馬の声がした。



道の反対側にいた親子が、いつの間にか思いの他近くまで来ていた。
子馬は母親の影に隠れたり、ちょっとのぞいたり、少し歩いたりと好奇心旺盛でかわいい。
母親は用心深く、僕を見詰め、子馬をいざなって少し離れていった。
すぐに僕のことなど忘れて草を食む子馬。母はそれを見守りつつ、僕への用心を忘れていないようだ。

もう立ち去ったほうがいい。
馬達を驚かせないように、広い車道までGPZを押していく。
晴れた5月の風の中で、もう一度馬達に会いに来たいものだ。

そこからすぐ近く、静内町の「二十間道路」がある。
道内でも、函館五稜郭、松前と並んで称される桜の名所である。


長さ8㎞ほどの直線道路、その幅が二十間なので二十間道路と呼ばれるらしいが、その道の両側に見事な桜の並木ができている。
むろん、今は葉が茂り、枝に近づいてよく見れば、小さな桜の実をたくさんつけている。
桜の満開時にはこの道の両側が全て淡いピンク色の桜の花で埋め尽くされるのだ。
満開を過ぎた頃の風で花弁が舞い上がる様子を想像していただきたい。

この桜のすぐ横に静内農業高校がある。この高校、馬を飼育しているのだが、今年は久しぶりに男の子が生まれたと聞いた。

さて、海沿いに戻ろう。
襟裳へ。走らねばならぬ。


このあたりの海は時おり浜を見せるが、海岸段丘になっていることが多く、海から数十メートルの崖があり、その先に平原が広がることも多い。
また、山が迫るところは、昔ながらの小さな漁村といった風情の集落が多い。


なんてことのない浜と国道と山に挟まれた集落。そこでも街灯がなかなか凝っている。
花はおそらく桜だろう、そして馬のレリーフ。
こんなところに予算をかけるのはばからしいかもしれない。しかし、こうした遊び心が生活を豊かにすることもあるのではないだろうか。



さらに南下。様似まで来た。今日の記事のタイトル写真は様似の親子岩である。
様似の浜を見下ろす観音山に『観音山の御神木記念保護樹木』がある。
樹齢400年とも言われるカシワの樹だ。
GPZは再び国道を逸れ、観音山公園への急坂を登った。


この樹については、『6月の風』ツーりングレポートが終わったら、
改めて「北海道の樹」シリーズとして取り上げよう。

JR日高本線は、様似で行き止まりだ。
ここから先は鉄道はない。

道はやがてえりも町へ。国道もいつか番手が変わって国道336号線になっている。
その国道が岬をカットして十勝側に逸れていったら、道道34号線、通称「襟裳公園線」に入っていく。

今年は春がまだ浅いうちに襟裳岬に来たかった。
岡本おさみ作詞、吉田拓朗作曲の『襟裳岬』の歌詞と、2008年の襟裳岬の実景とを比べてみたかった。
約2ヶ月遅れで、僕は襟裳岬に着こうとしている。

襟裳は風が強い場所だ。
岬が近づくにつれ、次第に景色は木々がなくなり、草原と化していく。
まるで阿蘇のミルクロードを走っているような錯覚すら覚える。


2008年6月17日。11時15分。
岬の駐車場まであと2㎞というところで、
あんなに厚く空を覆っていた雲が切れ、岬の上に青空がのぞいていた。
いよいよ襟裳岬に到着する。    
                     (つづく)

コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
Unknown (ぶぶ子)
2008-06-21 16:30:51
♪襟裳も春は~なにもない春です~♪

昔口ずさみましたね~。

あらためて、歌詞をみて、奥深さにびっくりしました。はかり知れない世界を感じました。

今後のレポート楽しみです。
 
 
 
Unknown (弾正)
2008-06-21 17:48:48
桜の並木の直線道路っていいですね~。
北海道行くことあったら是非桜の季節に行ってみたいです。
ただ、聞くところによると5月くらいでも雪が降るって、本当ですか?
>もう立ち去ったほうがいい。
>馬達を驚かせないように、広い車道までGPZを押していく。
って当り前なのかな?
当方もマナーある乗り方しようと思います、なかなか難しいですけど。
 
 
 
いい歌ですね。 (樹生和人)
2008-06-21 20:41:35
ぶぶ子さん、こんにちは。
地震、ぶぶこさんの所は大丈夫だったでしょうか。

襟裳岬は私も十代の頃からずっと好きな歌です。
この歌があったから、襟裳岬に是非行ってみたいと思うようになりました。
今日(21日)の記事でも書きましたので、どうぞご覧下さい。

岬が近づくにつれ、ずっと繰り返して「襟裳岬」を歌っていました。
うん、いい歌ですね、やっぱり。
 
 
 
桜、雪、マナー。 (樹生和人)
2008-06-21 20:53:13
弾正さん、こんにちは。

この桜の満開時は一度だけ行ったことがありますが、本当に見事です。お薦めです。
ただ、満開の日には北海道でおそらく一番の渋滞が発生します。私が今年花の時期に行くことを断念したのは、忙し過ぎたのもありますが、とんでもない渋滞と人でごった返す二十間道路は何となく見たくなかったからです。
来年、可能なら平日に無理やり休みを取り、現地に朝6時には着くように行きたいと思っています。

さて、5月の雪ですが、降りますよ(笑)。
最近は温暖化の影響か5月にそんなにひどい雪は少ないですが、GWの頃は冷えると雪はあります。標高の高い峠は要注意です。

みんなでツーリングするととても楽しいのですが、仲間との話に夢中になって、私の場合、周囲が見えなくなりがちです。ソロのときは話し相手はバイクと周囲の風景くらいしかないので、そちらに気が行くように思います。
ヨーロッパに比べるとバイクの社会的認知度は低く、マナーの向上はバイク乗りの誇りを守るためにも大切だと思います。無理しない程度にマナーよくありたいと思っていますが、傍から見たらどう映るか…。気づかずにやっちゃうのがマナー違反なので、なんとも自信ありません。
 
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