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リアステア2



リアステア1では、「バイクでは、微速時以外は、リアタイヤを含む車体全体で舵を切る。だから「リアステア」と言うんだ。」という、第一段階のお話をしました。

しかし、普通にツーリングしていて、また、少し飛ばして走っても、バイクが直進する、傾けて旋回する…といったことは分かっても、「リヤで舵を切ってる感覚」って、そんなに味わってないような気がします。
ハンドルを切って曲がっているのでなく、バイクが傾いて、それに応じて前輪に舵角がつくとしても、舵角のついた状態で両輪で普通に旋回している感じ。
これのどこがリアステアだというのか、なんだか騙されてるようで納得いかない…、という方も多いのではないでしょうか。

そう、ゆっくり旋回しても、ハイスピードで旋回しても、両輪でバランスして旋回している感じからはリアステアという感覚は生まれてきません。

リアステア、という状態は、リアタイヤで地面を蹴って、リヤを含む車体全体が旋回しているという、旋回状態をはっきり自覚できる状態です。
ここで、誤解なきように言っておきたいのですが、リアステアを感じさせない両輪旋回が決して悪いわけではなく、単純にバイクの機械としての旋回力が一番発揮され、オンザレール感覚で曲がれているときというのは、この両輪での旋回状態をいいます。

しかし、他方、リアステアでの旋回状態は、ポテンシャルとしてははるかに高い両輪での旋回よりも、ずっと豊かな接地感と旋回の手ごたえをライダーに与えてくれ、そこからの立ち上がり加速へのつながりも自信と醍醐味に満ちたものにしてくれます。

リアステアは安全で楽しいコーナリングをライダーにもたらしてくれる旋回テクニックなのです。

そのことをお話するために、ある程度慣性の働く、極低速時を除いた状態でのバイクのありかたについて、ちょっと図式的にとらえてみたいと思います。



図1は、普通に一定速で走っている状態です。
最近のバイクは静止状態での前輪荷重が増加傾向にあります。昔は静止していてもリヤに多くの荷重がかかっていたものでしたが、最近のスーパースポーツ(以下SS)では、前輪の方に多く荷重がかかるものが増えています。
まあ、しかし、図式的に少々乱暴に言えば、ライダーが跨って一定速で走っているときには、バイクは前輪と後輪に同じくらいの荷重がかかり、従って両輪がほぼ同じだけ仕事を分担して支えている状態になっています。これを、《両輪の支配度が同じ状態》としましょう。



図2は、フルブレーキの様子を極端に表現したものです。後輪が浮いてしまっては、荷重はすべて前輪にかかっていることになります。
このとき、後輪はなにしろ浮いているのですから、ほとんど全く仕事をしていない状態です。
実際には前7:後3や、前8:後2のように、掛けるブレーキの強さや、タイヤのグリップ力などによってその比率は変わりますが、この状態は、《前輪の支配度が高い状態》といえます。



図3は、逆にフル加速で、フロントが浮いてしまっていますね。ここまで加速すると、フロントタイヤは路面に対して仕事ができません。これも現実には前輪がずっと浮いたままコーナリングすることはほとんどないので、荷重比は前3:後7とか、前2:後8とかになることが多いと思いますが、この場合は、そう、後輪荷重が多く、前輪が仕事をしていない、《後輪の支配度が高い状態》です。


さて、ここからですが、この3つの状態でコーナリングしたらどうなるでしょうか。
《両輪の支配度が同じ状態》でのコーナリングは日常では一番多いかもしれません。マスツーリングなどで、一定の速度のまま、カーブを右へ左へとバイクを傾けて走っていく状態です。

《前輪の支配度が高い状態》、この極端な後輪が浮いたままの状態でコーナリングはできるでしょうか。
トライアル競技などの極低速での場合を除けば、基本的には「できません」。
止まる時にブレーキで後輪を跳ね上げるのをジャックナイフといい、ジャックナイフ状態で泊まらずにブレーキをかけたまま走り続ける技をストッピーといいますが、このままコーナーを曲がることはできません。

前輪の支配度が高い状態というのは、本来、旋回に向かない状態なのです。
いかに今のSSが初期旋回で前輪荷重を稼いで舵角を入れて…と解説されていたとしても、この二輪車の構造上の原理までは覆せません。

例えば、速い人と走っていつもよりペースが上がったとき、いつものようにブレーキングし、ゆるめながらバンクしたはずなのに、思ったよりバイクが曲がらない感覚のまま走ってしまい、ますますブレーキを離せなくなってバンクも深くできず、結局転ばないようにと祈りながら嫌な感じでコーナーの大外をなぞるように減速しながら通るしかなかった…という経験をしたことはないでしょうか。

ブレーキを強く残したままだと《前輪の支配度が高い状態》にあり、その状態ではバイクは旋回力を発揮できないので、曲がれない、曲がれないからもっと速度を落とさねばならない、ブレーキが緩められないから前輪支配度が高いまま、だから曲がらない…、と曲がらないスパイラルに陥るのがこの例です。


(写真出典は『MOTOGPオフィシャルサイト』より。
GPライダーといえどもハードブレーキのままで旋回に持ち込むことはできない。
ロリスカピロッシ選手のコーナリングアプローチ。)

《後輪の支配度が高い状態》でのコーナリングはどうでしょうか、
「バイクは舵角で曲がる」だから「前輪の舵角を入れろ」、とは最近よく見かけるライテクです。これらの記事は必ず「バイクが傾くとハンドルが傾いた方に自然に切れる、セルフステアを生かせ」という意味で書かれているので、全く正しい説明です。
しかし、ジャックナイフやストッピーでコーナリングはできませんが、前輪を上げるウイリーでのコーナリングは、慣れた人ならできます。レースでも(公道でもまれに)、立ち上がり加速でまだバイクが傾いているうちにフロントが浮き上がり、後輪だけで走っているシーンを写真等で見かけますが、前輪を上げたままでも、バイクは旋回し、バイクが起きると直進して加速していきます。
《後輪の支配度が高い状態》では、バイクはコーナリングできるのです。
昔の話になりますが、ラグナセカのコークスクリューという名前の名物コーナーで、フレディースペンサー選手やエディーローソン選手はフロントを上げたままS字を切り返して急坂を下っていきました。

リヤステア1で言った原理、「バイクでは、微速時以外は、ハンドルはリアタイヤを含む車体全体で舵を切る」、この原理に逆らわすに操作すれば、バイクは後輪が接地していれば前輪がなくても走ることができます。(私はできませんけど。)

しかも、前輪の支配度が強い状態ではコーナリングもままならず、できるとしても前輪のグリップに頼ったライダーの操作感の薄いものになりがちなのに対し、後輪の支配度が高い状態では、ライダーの積極的な運転操作によって、旋回や加速、切り返しなども行うことができるのです。


(写真は以前も紹介した『クラブマン』誌08年6月号39頁の永山氏のライド。
 分かりにくいが、前輪が軽く浮いた状態で弧を描きながら加速中。)

そして完全に両輪がバランスした《両輪の支配度が同じ状態》では、一番安定して旋回できるものの、そこからライダーが操作を加えてその状態を変化させるのには、一度バランスを崩さないと意外にバイクは重く頑として動かない感じを受けることもあります。
一定速度での流すコーナリングも、ペースが上がるにつれ、車体の重さが増し、倒しにくく、曲がり始めが曲がりにくく感じられるようになることは、誰しも経験済みではないでしょうか。


(これも何度も登場している樹生+GPZ。
リーンウィズで両輪のサスを均等に縮めた定常円旋回にちかい状態。)


つまり、リアステアには、後輪の支配度が〈やや〉強い状態を意図的に作り出し、バイクの旋回状態をライダーの意志の下に置くという意味もあるのです。
完全にフロントが浮いた状態では、コントロールには高い技術が必要となりますが、やや後輪荷重よりの動的バランスにいるときが、一番ライダーには扱いやすく、自分の意志でバイクの状態を変化させやすい状態なのです。

旋回中の荷重を前後両輪に均等ではなく、後輪よりにする…、つまりアクセルを開けるということ、これがリアステアへの第1歩となります。
「開けて曲がれ」、この教えは、意識していなくても、リアステア状態にして旋回をバイク任せではなく、ライダーが支配しろ、と言っていたのです。

さて、ここまで来ると、「あ、それはトラクション旋回と同じことじゃないか」とお気づきの方もいらっしゃるでしょう。

そうです。
リアステアの第2段階、それは、「アクセルを開け、後輪のトラクションをしっかりかけて旋回する」というトラクション旋回と同義なのです。


(これも何度も登場している樹生のトラクション旋回。
アクセルを開いたことにより、リヤに荷重がかかり、
アンチスクワット効果によりリヤサスは腰砕けにならずに路面を蹴って旋回力を高めている。
第2段階のリヤステアはこの状態を指す。
しかし、さらに本格的なリアステアはこの先にある。)


(ここで、トラクションとトラクション旋回の意味は非常に重要です。しかし、以前、かなり字数を費やして説明しましたので、今回はトラクション旋回については、説明を割愛します。
もし、よろしければ本ブログのライテク記事の中の「リーンウィズとトラクション旋回」の回、また、「トラクションとアンチスクワット」の回をご覧下さい。)

しかし、トラクション旋回といっても、確かにバイクは安定し、旋回力も強まり、リアタイヤが路面を蹴る感覚も得られたとしても、それで、「おお、これは確かにリアステアだな!」と感じる人と、別にコーナリング中に加速してるだけで、リアでステアするという実感はないな…」という人に分かれると思います。
これは単に感じ方の違いではありません。「リアステア」には、トラクション旋回をさらに旋回力アップした、その先があります。
後輪支配の状態に持ち込み、トラクション旋回をするその仕方の中に、リアステアの真髄が隠れています。

次回はさらに積極的なリアステアの生かし方、リアステアで曲げていくライディングについて書きたいと思います。


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コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
なるほど! (まーしー)
2008-10-23 19:48:47
前後の荷重バランスやアクセルの開け方で、支配度はだいぶ変わりますね。
感覚でしかつかんでいないことが、明快になりました。
続編が楽しみです。

本文とは関係ないですが、樹生さんのコーナリングは、前後のサスがしっかり沈んでいてきれいですね。
 
 
 
次回は (樹生和人)
2008-10-24 06:12:34
まーしーさん、こんにちは。
リアステア「テクニック」の前に長い説明を費やしてしまいました。
次が具体的なリアステアの方法論になる…予定なのですが、上手く行きますかどうか…。

私の走行写真はこの10年は撮ってなくて、どちらも10年以上前のものです。
この頃は乗る密度が高かったので、今ではかなり下手になってしまったかもしれません…。
 
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