北欧スウェーデン の生き方情報 スウェーデン報

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フランス ナントの大事件

2023-07-26 20:24:24 | 観光

予告通り長編です。

  ++++++

「こんなことになるなら、あそこで別れなければよかった」

フランス北西部の街ナントの駅の構内で、私は7歳の娘と二人で、夫と息子を待っていた。

夫は、筋金入りの方向音痴。

自他ともに認める。

そう、私だってそんなことは嫌というほどわかっている。

 

でも、ランチ食べかけの娘をせかして駐車スペースに戻りたくはなかった。

 

ヨーロッパの路上駐車は、料金先払い。

 

払った証拠のチケットを車内の見えるところに貼っておく。

 

監視員が来ることはほとんどない。が、万一、監視員が回ってきて、時間切れの駐車チケットが見つかると、目の玉が飛び出るほど高い罰金が取られる。

 

善意を信じているが、裏切ったら、ひどい目に遭うよ。ということなのかもしれない。

 

小心者の私は、娘のランチを途中でやめさせるか、すでに食べ終えた夫と息子だけ先に車に返すかの二択を迫られた。

 

で、直線1ブロック先に止めてある車に乗って、2ブロック先のナント駅にあるツーリストインフォメーションで待ち合わせという決断を下した。

 

だって、直線たった3ブロックで迷うとは思わなかった。

 

それに、誰に聞いてもわかるナント駅に来るのに迷うとは思わなかった。

 

なのに、別れてからすでに2時間。いまだに夫と息子と車は駅に着かない。

 

 

実は、1時間ほど前、正面から走ってくる我が家の愛車を見つけた。

 

「あー、ようやっと来た」

 

娘と二人で大きく手を振った。

 

目があったような気がした。のに、車は直前の信号で右折してしまった。

 

「え、なぜ、直進すれば駅なのに」

 

すでに、1時間以上も待っている私たちは、驚愕した。

 

でも、ここまで来たなら、きっと1周回ってすぐに戻ってくるはず。

 

なにしろ、引越し直後には、家に帰り着くのに2倍以上の時間がかかってしまう夫だ。

近隣をぐるぐる回ってたどり着くという不思議な予測不能な方向感覚を持っている。

 

しかし、あれから1時間。

 

「これはもしかして、もう一つあるツーリストインフォメーションに行ってしまったか」

 

ナント駅のツーリストインフォメーションと言ったはずだが、ちゃんと聞いていないということも十分ありうる。

 

仕方がないので、タクシーで行ってみる。

 

いない。

 

そうだよね。駅って言ったもの。

 

すれ違いを恐れて、慌ててタクシーで駅に戻る。

 

何しろ私たちは、これから、ナントから車で1時間ほど離れた港からアトランティックオーシャンに浮かぶユー島

(Île d'Yeu)で3週間の夏休みを過ごす予定なのだ。

島のサマーハウスを一軒借りている。

 

管理人も今日の到着を待っているはずだ。

 

港から出る船に乗り遅れるわけにはいかない。

 

イライラしながら、駅から動くわけにもいかず待ち続ける私と娘。

 

 

 

2時ごろ別れたまま、午後7時になっても来ない。

 

ツーリストインフォメーションもすでに閉まった。

 

 

車なら10分もあれば通り抜けられそうなナントの街。

 

なぜ、来ない!

 

 

方向音痴の夫のこと、隣町までドライブしてしまったということもありうる。

 

それにしてもそろそろ5時間。

 

 

怒りは心配になってくる。

 

 

最終の船は9時。

駅で待つのを諦めて港にバスで行くことにした。

 

 

最終の船の時間は念を押して伝えてあるので、遭えないとなったら、そこに直行しているに違いない。

 

だいたい彼の携帯を私が持っているのだから、電話の一本ぐらいかけて欲しい。

 

ふたたび、怒りがわいてくる。

 

 

黄昏の中、フランスの見知らぬ街をバスで港に向かう。

 

 

しかし、最終船にも、彼らは現れなかった。

 

 

 

 

さて、問題だ。

 

 

というのも、夫は、目的地のサマーハウスの住所も電話番号も知らない。

 

現金は私。パスポートも私。彼が持っているのはクレジットカードだけ。

 

荷物は車。でも、車から荷物を降ろすためにまず外さなくてはいけない自転車の鍵は私。

 

携帯電話は、私。でも、充電器は向こう。

 

 

会えなかった場合に起こることを考えると、想像しただけでも恐ろしい。

娘と二人で帰国するしかないのか。

 

 

 

 

島に渡る船の中の1時間。

きっと向こうの港で待っているに違いないと祈りながら、普段なら確実に船酔いするのに酔いもしない。

 

 

心配事は船酔いによく効く。

 

 

薄暗闇の中、島が見えてきた。灯台のある岬の先端に男性がひとりたっている。

 

あ、あの中年太りのシルエット、夫だ!

 

 

甲板から大きく手を振る。

 

シルエットが大きく手を振り返す。

 

なあんだ。やっぱり、先に来てたのか。

 

再び元気よく手を振る。

 

再び振り返す。

 

そうこうするうちに、船が岬に近づき、シルエットの実態が見えてきた。

 

ん、別人…。

 

 

ただの陽気な観光客だったのか。

 

ま、向こうも馬鹿に元気よく手を振る陽気な乗客と思っていただろうけど。

 

 

結局、港で待っているかもしれないという期待も裏切られ、予定よりかなり遅れて到着したことを詫びながら、鍵を預かっている管理人さんに港まで迎えに来てもらう。

 

 

既に深夜11時近い。さすがの夏のヨーロッパでも日が沈んで暗い。

 

 

疲労困憊のボロボロの東洋人の母と娘。

 

しかも、着の身着のまま。

 

疲労を加速させたのは、フランスでは英語が通じないという事実。

 

 

何度も確認に行ったナントのツーリストインフォメーションの係の人に、

「ここで夫と待ち合わせなんだけど、それらしい日本人を見かけなかったか」

と尋ねるだけで一苦労。

 

 

バスの便を確認する案内の窓口で、格闘。

 

さらに、切符売り場で、格闘。

 

 

通じないながらも、みんな親切。

 

切符を買えない私に自動販売機まで、付いてきて手伝ってくれたりした。

 

 

もしかすると、私の身振り手振りと単語で、わかったふりをしていたが、理解していた内容は、

「夫に捨てられた可哀想な妻と娘」だったのかもしれない。

 

そういえば、視線にかすかに同情の色が。

 

 

管理人に事情を説明して、万一、事故にでもあっているかもしれないと警察に問い合わせもしてもらう。

 

 

とりあえず、明朝、1番の船から港で待ってみると伝えて管理人には帰ってもらう。

 

 

念の為、電源をONにしておいた携帯電話。

 

でも、もう、ほとんど電池がない。充電器は車。

 

そして、それは、夜中に悲鳴のようなビーッを2回鳴らすと、こときれたのだった。

もう、これで、完全に連絡手段は絶たれた。

 

 

 

翌朝は、見ず知らずの隣家のドアを叩いて、タクシーを呼んでもらう。

 

なにしろ、タクシー会社もフランス語のみ。

 

とても、見知らぬ土地の住所を伝えることができない。

 

恥ずかしいだの、ご迷惑だの考えている余裕はない。

 

 

1番の船が着く。

 

娘と二人で、じっと見つめる乗客の波。

 

でも、いない。

 

無事だったら、最初の船でくるだろう。

 

さては、別の島に行ってしまったか。万事休す。

 

 

2番目の船が着くまでの間に島のツーリストインフォメーションへ。

 

やっぱり英語が通じない。

 

「だれか、英語のわかる人いませんか」

 

と店内に声をかけて、客に通訳を頼む。

 

 

「夫とはぐれた。島に来ていれば、きっとここを尋ねるだろうから、このメモを渡して欲しい」

「着替えもないので、スーパーマーケットの位置を教えて欲しい」

 

 

おかげで、滞在中。ツーリストインフォメーションを訪ねるたびに、好意的な眼差しで、迎えてもらえるようになった。

 

 

しかし、聞くところによるとその島を訪れた初めての日本人(らしい)とのこと。

 

思いっきり日本人のイメージを下げました。ごめんなさい。

 

 

 

 

さて、2番目の船、到着。

人の波。

 

いない、いない。岸壁の母の気分。(ふるっ!!)

 

 

あ、いたあ!

 

 

娘と二人で、階段を駆け上って、夫と息子に抱きつく。

 

 

「あえてよかったぁ。あえてよかったぁ」

 

 

涙目。はぐれるのも数時間だと怒りが湧くが、一晩を超えると怒りは喜びに変わるということがわかった。

 

 

周囲のフランス人旅行者たちは、日本人というのはずいぶん派手な会い方をする国民なんだなあと思っただろう。

 

 

 

 

次回からは、目的地と携帯番号と現金をちゃんと渡しておかなくちゃ。

何より夫の方向音痴をあなどってはいけない。

 

 

旅先の迷子はスリリング。

 

 

でも、人の親切に心から感謝できる。自分の色々な感情の波のりができる。そして多くの教訓を得る貴重な体験だ。

 

ちなみに夫が2番目の船で来た理由はこうだ。

「最初の船だと、きっとすごく怒っているだろうから、フェイントをかけて2番目の船にした」

 

 

彼も多くを学んだようだ。

「たまにはいいよね、こういうのも」

「いえ、二度とごめんです」

 



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