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携帯電話システムの強み

2009年07月26日 | 産業

携帯電話システムと一言でいっても、いろいろな観点から論じることができるため、その強みについても様々な意見があろうかと思います。それでも、例えば固定電話やインターネットに比べて、携帯できるという観点から、小さかったり、モビリティを備えていたりという強みが挙げられることは間違いないでしょう。そうした諸々の論点がある中で、私としては、携帯電話システムの内、認証と課金システムが、今後のネットワークを考えるにあたって、最も活かされるべき強みであると考えています。

認証と課金のシステムとは、単純な話、携帯電話で通信を行えば、その通信した人が誰であるかを特定できるだけでなく、その通信時間や有料コンテンツの利用是非等から、その人に対して、いくらの請求をすればよいといったことが分かるシステムです。

私が考える次世代のコンピューターシステムについては、既に本ブログの中で繰り返し述べており、その仕組みの中で、この携帯電話の認証と課金のシステムは、非常に重要な役割を果たすと考えています。あらためて書くと大変長くなるので、詳述を避けますが、ポイントは以下の通りです(詳しくは、「シン・クライアントの潜在力」、「ネットとコンピューターの融合」、「新コンピューターシステム」等参照)。

  1. コンピューターの主要機能は、ネットワークに繋がった先のサーバー側で持つ。
  2. ソフトウェアやコンテンツの利用、視聴等はサーバーを通じて行う。
  3. ユーザーがコンピューターを利用するときは、必ず認証システムでユーザーを特定する。
  4. 「3」の情報から、各ユーザーの「2」の状況を把握して課金を行う。

非常にシンプルにまとめてしまっているため、これで伝わるか分かりませんが、要は、携帯電話システムの認証と課金のシステムを使うことで、新しいコンピューターシステムの利用料金を非常に簡単に確定させ、回収できるということです。そして、この利用料金の支払いが、1円単位から気軽にできるというところがポイントです。

通常、インターネットのコンテンツを利用したり、商品を買ったりする場合、そのユーザーが誰かを特定するために、IDやパスワードを入力してもらい、さらに支払いに関する情報を入力してもらったりします。しかし、1円単位で、簡単に決済をするというのは、なかなか難しいものです。クレジットカード、銀行振込、コンビニ決済、代金引換、電子マネー・・・。いろいろとありますが、1円単位で気軽に決済するというのは、手数料等の関係で、非常に困難であると言えるでしょう。もちろん、電子マネーは、一度買ってしまえば1円単位の決済が容易ですが、その電子マネーを購入するまでの障壁ゆえに、「手軽に決済できる」と言えるかどうかは微妙です。

携帯電話では、これがいとも簡単に行えます。これは何も新しいものではなく、既に行われていることであり、携帯電話会社は、携帯電話の各ユーザーが、何をどれだけ使っているかをきちんと把握できるようになっており、月に一回の料金請求によって、それに応じた利用料金を細かく計算して回収しているのです。この内、前半の部分が認証システムであり、後半の部分が課金システムということになります。そして、ここでのポイントは、ユーザーは何も難しいことを考えず、勝手に1円単位できちんと料金を払えているということなのです。

このことは、実は非常に大きな意味を持っており、私は、この仕組みをもっと積極的に利用することで、インターネットが全く新しい局面を迎えることになると考えます。それは前述したような、インターネット上での商取引において、クレジットカード決済等に比べて、より安全で便利な支払い方法を提供するというものに留まりません。

ネットワーク一体型の新しいコンピューターシステムにおいては、その主要機能がサーバー側にあり、そこに提供すべき価値(アプリケーションやコンテンツ)が集中しているという意味で、それらの利用料金を授受するための仕組みを持つことは極めて重要です。そして、その課題に対して、携帯電話が持つ認証と課金のシステムは、非常に有効であると考えられるのです。

例えば、「Youtube」のような動画共有サービスがあります。こうした動画共有サービスでは、動画コンテンツを端末で保有せず、ネットワークに繋がった先のサーバー側で一括管理しているという意味で、私が考えるネットワーク一体型の新しいコンピューターシステムのかたちを成していると言えます。しかし、携帯電話のような認証と課金のシステムは備えていません。したがって、正確に誰が接続しているということは把握できず、当然のことながら、その人から料金を回収するということができない仕組みになっています。そのため、事業のモデルとしては、単純に再生数やページビュー等の統計に基づいた広告業を主軸に置くかたちとなっています。

現在の動画共有サービスのかたちは、ひとつの事業モデルとしては立派であり、これについて、あまり批判的な議論を展開するつもりはありません。ただ、こうした広告モデルというのは、そこに動画をアップした人、それらの動画を楽しむ人というコミュニティーを使って、広告主と動画共有サービス会社との間で金銭授受が行われているものであり、実際に動画をアップした人々、楽しむ人々同士では、そうした経済的価値の交流がないのです。現在のインターネットが、そうした交流を可能たらしめる仕組みを有していない以上、やむを得ないことではありますが、それはけっして放置されてよい問題であるとは思いません。

メディアの役割とは、多くの人々にコンテンツを提供することにあります。そして、そこにはコンテンツを作る人々の生活を支えていくということも、含まれるのではないかと思います。然るに、今日の動画共有サービスの広告モデルは、コンテンツをアップする人々に金銭を還元できる仕組みがなく、それがたとえ、現在のインターネットの限界ゆえに仕方ないことであるとしても、そうした本来のメディア機能としては、大きく欠けているのではないかと思えてならないのです。

こうした観点からすると、携帯電話の認証と課金のシステムは極めて大きな意味を持ち得ます。動画コンテンツの支払いで、100円、200円という金額は厳しくても、1円、2円という金額を手軽に放り込める仕組みになっていて、しかも、それがコンテンツの作り手に入るシステムになっていれば、インターネットのコンテンツインフラは、お金という血の通ったネットワークとして、ますます発展していくことでしょう(コンテンツをめぐる、ユーザー間の金銭授受のイメージは右図の通り)。

動画共有サービスの話は、あくまでもネットワーク一体型の新しいコンピューターシステムにおける認証と課金の問題を考える上で、動画コンテンツという切り口で見た時の例えに過ぎません。コンピューターは、実に多くのアプリケーションで動いており、それらをめぐるユーザー間の金銭授受の仕組みを構築することが、新しいコンピューターシステムを巨大なインフラとして機能させるためには、極めて重要だと言えるでしょう。

それは、上記の動画共有サービスの例え話の内、「動画」、「動画をアップする人」、「動画を楽しむ人」という言葉を、それぞれ「アプリケーション」、「プログラマー」、「ユーザー」に置き換えれば、いわゆる普通のコンピューターとしてのイメージとして、ある程度、見えてくるのではないかと思います。そこでは、携帯電話が持つ認証と課金というシステムが、非常に大きな役割を果たすのです。

《おまけ》
こんな話をすると、「既存の携帯電話会社はやれないの?」という質問を受けたりします。私は、そうした可能性を否定するわけではありません。ただし、今のままの携帯電話会社の通信事業者としての発想では、けっして成し得ないモデルであるとも考えます。上記は、あくまでもアプリケーションやコンテンツの自由市場を作り上げるという観点から発しているインフラモデルです。これを実行するには、既存の通信という事業モデルを根幹から(本当に根幹の根幹から)崩さないと実現しないため、相当難しいのではないかと思います。

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