水面日録

フリーペーパー〈面〉編集人のブログです。
意識の水面(みなも)に浮かんでは消える様々なモノゴトを綴ります。

鰐の幸福

2007-01-25 01:42:07 | 
昨日の記事で、ショヴォー描くところの鰐は
「幸福とも不幸とも無関係であるような」永遠の命を手に入れた、
と書きました。
ところが、さきほどこの本を読み直したら、
おやおや。最後の頁には「鰐は、とても幸せだ」と書いてある。

つまり私の間違い、なのですが、
これはこれで、何と言いますか、有意義な間違い、
であるような気がします。

「幸せだ」の一文を、そこに添えられた絵は、
わずかに裏切っている。
物語の全体もまた、
鰐の「幸せ」という単純な言葉への帰着を、どこかで拒んでいる。
もちろん、「不幸せ」への帰着をも。
少なくとも私には、そう思えます。

自分の間違いを正当化するようですが、
というか、まさに正当化しているのですが、
まあ、そんなふうに「ちぐはぐ」を楽しむ読み方もある、ということで。

posted by 堀マサヒコ

『 いつまでも、鰐 』

2007-01-23 00:55:45 | 
『いつまでも、鰐』という絵本を読みました。
底本となっているのは、レオポルド・ショヴォーというフランスの作家が1929年に出した本で、
これまでも『年を歴た鰐の話』(山本夏彦訳)、『年をとったワニの話』(出口裕弘訳)
などの邦題で翻訳されていたそうなのですが、私は今回、新訳にて初めて読みました。

さて。この本は、こんな風に始まっています。

最初の頁。
一匹の年老いた鰐が、
目を瞑り、でろりんと寝そべっている。
その絵はとても静かで、穏やかな雰囲気をたたえているけれど、
添えられた一文によれば、
この鰐は重いリューマチにかかっていて、獲物がとれず、
すっかり腹を空かしている、とのこと。

次の頁。
その鰐が、そばで昼寝をしていた曾孫を食べている。
大きな口をあけて、淡々と。無表情に。

この後も、鰐は色んなものを淡々と食べていき、
何だかよくわからないうちに永遠の命を、
ただし、幸福とも不幸とも無関係であるような永遠の命を、
手に入れることになります。(この点について、後日追記しました)

おかしな本、といえば実におかしな本ですが、
単なるナンセンス本とは違う、しびれるようなリアリティがあります。

人の世に境を接して広がる人ならぬものの世界には、
この無情な鰐のようなものが、昔も今も、
身の置き場を探しあぐねてのたうっているのだと、
そんな気がします。

そういうものが、人の世の外に(それは本当に、外なのだろうか)、
しかも、人の世のリアリティを吹き飛ばすような重いリアリティとともにあるということに、
ぞっとするような、あるいは、ほっとするような、
何とも言えぬ感覚が私の中にあります。

ともあれ、興味のある方はぜひ、現物を手にとっていただきたいと思います。
置いている図書館なども多いと思いますので。
ちなみに私の手元にあるのも借り物ですが、
これは欲しい、と思いました。

… レオポルド・ショヴォー著、高丘由宇訳『 いつまでも、鰐 』文遊社、2006年。


本年も

2007-01-16 00:55:28 | 所感、雑感
どうぞよろしくお願いいたします。

年が明けてからというもの、うまく言葉を手繰り寄せることができず、
更新が滞っております。

まあ、あまり気負いすぎるとロクなことがないので、
のんびりと体勢を立て直していきたいと思っております。

posted by 堀マサヒコ