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「究極の千秋楽」

2006年05月22日 | Weblog

ベルナルド・ベルトルッチ監督の映画 『シェルタリング・スカイ』 の冒頭
ストーリーの展開を示唆する「旅」の定義が話されるくだりがある。
「トラベラー」と「ツーリスト」
映画はここから始まり、旅の行きつく先を暗示する・・・

その「トラベラー」と「ツーリスト」とはこうだ。
「ツーリスト」とは、ちょこっと非日常の旅をしては、また日常の待つ家に帰る。
常に戻るところがあるつまみ食いの「観光客」。
「トラベラー」とは、帰る場所、家という日常の無い、行き着くあての無い、
いわば行く先々が日常な放浪の「旅人」。

"The Sheltering Sky" (1990)

話は「旅のテーラー」を生業にしている友人(個人やグループ、また企業の旅
などを仕立ててはその旅の添乗ガイドをしている)と久しぶりにお互いの近況
をアップデートしている会食時にこぼれ落ちてきた豪華なお宝話だ。

すこし前置きが長くなるが、その友人が生業とする「旅」とは、実にノーブルで
ゴージャス 「極上のラグジュアリーな旅」だ。
彼女は学生時代、筑波万博でコンパニオンガールだった。
卒業後は兼高薫にあこがれて旅行業に付くのだが、当初は世界の陸海空の
ラグジュアリーな旅、「オリエント急行」「クイーンエリザベス2世号」(QE2)
「コンコルド」を全て制覇したいというな健全な野心だった。
しかし第一志望のスチュワーデスに落ちたことが幸いして?、足掛け20年にも
及ぶ添乗ガイドの旅で「もういい」と飽きるほど乗りつくす行きつくす事となる。
なにせ、年間300日は旅の途中。機中、船上、車上の人なのだ。
しかも取り巻きは世界のセレブリティー。
行き先はいつもこの地球上の三つ星の味と五つ星の場所。
食はもとより絵画をオペラを建築を、さらには危険な極地をと、行き先も多彩で、
そのいずれをもどう計算しても、人類史上、最も頂上旅をし尽くしている女性だ。
今や彼女を頼りにする顧客は日本の芸能人、著名人、文化人、財界人と
驚く数の豪華絢爛な名前ばかり。

さて本題の主人公は、その友人が乗り続けているQE2で、すっかり顔馴染みと
なったアメリカ人のお婆ちゃんミューラーさん87歳。
彼女は、ご主人を亡くされてからマイアミの老人ホームに入居していた。
入居後は、全米各地から集まっている富欲な入居仲間のご老人たちと仲良く
楽しく暮らしていたのだが、日々亡き夫と過ごした人生の思い出に浸って、
ある日電卓をたたくのです。
老人ホームは1月約65万円の入居費で生涯の生活保障を受けられるもので、
計算すれば年額780万円。この先10年は生きたとして、かかる費用はざっと
7800万円+お小遣いとなる。
お婆ちゃんの忘れえぬ思い出は、幾度となくご主人と楽しんだQE2の船旅だ。
早速、お婆ちゃんは船会社のキュナードへ問い合わせる。
3等の客室が1月65万円であることから船会社と交渉を開始し、粘りに粘った
交渉の末、1月55万円に値切り、なんと生涯をQE2で過ごすことにしたのです。
夫の遺産を全てQE2に賭けたのです。

世界の由緒あるホテルには、生涯をホテル住まいとした方たちが多い。
とりわけ男たちに。
しかし、タイタニックの事故を挟み120年の歴史を誇る船会社キューナードの
航海史で未だ船を「終の棲家」に選んだ人はいない。
ましてや、その「終の棲家」は地球を移動し続けているわけで「終の場所」が
日々移動しているのだ。確かな事は彼女が選んだ「終の場所」は地球上の
どこか洋上で「終の棲家」は船上の小部屋である事。
まるで地球のルーレット。
お婆ちゃんという玉が止まったところが「終の場所」だ。
それは国境も何もない、この地球の70%を占める全ての「生命の源」水の上で
天に召される事。そう水に始まり水に終わる。。。

彼女の日課は、朝はコンピューター室でメールをチェック。
昼はダンスレッスンを受け、午睡。
夜はバーでスコッチ片手に雑談を交わし、本を読み手紙を書く。
そんなミューラーお婆ちゃんも乗船から6年。もはや船上のアイドルだ。
こんな潔い唯一無二の選択肢があろうとは「終の棲家」と「終の場所」が・・・
ただただお見事。

だって、お婆ちゃんの選択は「老人ホーム」を選んでおれば、お金も時間も
命も減らし続け、まわりのお年よりなお友達も日々失い続けるけれども、
「QE2」を選んだ事で、当然、お金も時間も命も減らしは続けるけれど、
逆に減らせば減らすほど、お迎えが近づけば近づくほどに、人種・国籍・経歴・
職種・生まれ素性の違う、もう様々な世界の老若男女が新しいお友達として
増え続け、毎日たくさんの豊かな新しい思い出が溜まり溜まって、いよいよ
満期には、巨万の思い出をご主人が待つあの世へ持参。
それは、今日も世界各地から乗船してくる未来の記憶に永遠に残り語り継が
れる究極のハッピー・エンド。

今宵もおばあちゃんは
デッキの舳先でひとり思い出を海に落としては毎日が「タイタニック」。
僕はQE2の日本寄港が最後となる一昨年の3月1日、
寄港した横浜で、そのミューラーさんにお会いした。
人生の最終日がこの上ない美しい「千秋楽」。
このチケットを唯一お持ちの「トラベラー」に。

QE2は、この年を最後に世界一周航路から引退し大西洋クルーズへ。
新たに就航した「ビクトリア」へバトンが渡された。

"Titanic" (1998)
素足で舳先に立つおばあちゃんの赤いペディキュアが象徴する
思い出の「青い宝石」は海に帰り永遠の愛に・・・必見のシーン。


クイーンエリザベス2世号
"QE2" CUNARD

そのミセス・ミューラーさん
"Beatrice Muller"
"船上のひと時"


【本日のおすすめ】
デズニー映画 「ファミリー・ゲーム/双子の天使
原題 "The Parent Trap" (1998)
QE2が登場する映画は結構あるが、この映画は極め付け
「うっとり」すること請け合いの最初の10分。保障します。



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